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補助事業活用における注意点・留意点

施設園芸にかかわる多くの補助事業では、事業費のうち1/3や1/2程度の範囲で補助金の助成が行われます。補助金のもとは国費にせよ地方自治体の予算にせよ、国民や企業が拠出した税金が原資になります。補助金を無駄に使うことは避けるべきですし、効率的に活用して補助残となる自己資金や借入金と合わせ、費用対効果を高める必要があるでしょう。そのための考え方について、注意点や留意点を踏まえ紹介します。

仕様策定における注意点 ー機能の絞り込みと経営計画の策定

 

特にハウスや付帯設備、機器資材などハード関係の導入に対する補助事業では、事業費も大きくなる場合もあり、設計や仕様策定にはある程度時間をかけ、無駄の無いものとする必要があります。補助事業だからと言って、ありとあらゆる機能を盛り込んでいては予算がいくらあっても足りなくなります。特に施設資材費が高騰する昨今では、機能を盛り込むのではなく必要最低限の機能に絞り込んで、初期投資額を抑える考え方が主流になりつつあります。そこでは目的とする栽培や出荷が可能な機能を絞り込み、それ以上の機能は必要に応じ、また利益の蓄積による追加投資が可能となる時点で、順次設備投資を行うことになります。ゼロアグリブログの参考文献1)、2)では、仕様設計のポイントについて、基本と実践の考え方を紹介していますので、ぜひご覧ください。

 

以上のような考え方を実行するには、明確な経営計画も必要になるでしょう設備投資に伴う減価償却費を試算し、その他の生産コスト(種苗費、資材費、人件費、動力光熱費など)や販売コスト(出荷資材、運賃、手数料など)を積算の上、目標収量と販売単価から試算した売上高から差し引き、利益がどの程度得られるか?また設備投資の回収年数を試算して過剰な投資になっていないか?などを詰めることになります。こうした試算には日常発生する各種コストを集計する必要があり、それらのデータや販売計画から経営計画に落とし込む形になります。企業経営、法人経営では経営計画の策定は当たり前のことですが、施設園芸の個人経営ではそうしたことは従来はしっかりとなされていなかったかもしれません。投資額が上昇傾向にある中では計画段階で見通しを詰めておかないと、せっかく立派な施設が建ち収量や品質があがったとしても実際には利益が残らないケースも十分考えられ、注意が必要です。

 

事業申請における留意点 ー販売額向上等が見込める団体での応募

国の産地生産基盤パワーアップ事業3)をはじめ、地方自治体の補助事業においても、事業導入によって、どれだけ販売額や収量などの向上が見込めるかを事業申請書類に記載するケースがみられます。補助事業の費用対効果面を申請段階で査定する形になりますが、ポイント制を取るような採択基準の補助事業では向上効果で線引きを行い、さらに効果の高い申請に対してはポイントを高めることも考えられます。

申請側の団体や事業体について、すでに高いレベルにある場合や、構成員が多く補助事業の受益者が少ない場合など、向上効果があまり見込めないケースがあると考えられます。それでは申請資格に値しないことになるため、思い切って事業申請の構成メンバーを変えたり範囲を限定して、新たな団体や事業体として向上効果がうまく引き出せるよう留意することも考えられます。その際に団体等の規約などが必要になるでしょうが、必要な手続きとして粛々と進めることになります。

データ活用に関する留意点 ーデータの集計分析の出口

 

地方自治体での補助事業には、省エネ機器や環境制御装置、環境モニタリング装置の導入支援メニューが数多く見られます。これは燃油価格高騰下での生産コスト削減効果を狙うことの他、国が推進するデータ駆動型農業の普及に伴う自治体の施策などが根底にあると考えられます。自治体側はそうした流れに乗り遅れないよう、様々な補助事業を組むケースもあるようですが、そうした環境制御装置やモニタリング装置の導入が施設園芸経営にどのようなプラス効果があるのかを事前に見通す必要があるでしょう。

 

特にモニタリングデータを集計分析し、自分の施設や栽培の環境を見える化することは最近の施設園芸のトレンドとなっています。経験と勘からの脱却のため必要とされることではありますが、それがどのように収益に結びつくかも良く考える必要があるでしょう。データ自体が利益を生むのではなく、モニタリングデータと他のデータを組み合わせる、あるいは他の経営体のデータと比較するなどし、自分の栽培や環境の改善によって収量や品質の向上につなげて、初めて収益化につながることと考えられます。産地単位でモニタリング機器を導入し、クラウドサービスを使って相互にデータを見比べ勉強会を開催するといった行為は一般的になりました。問題はその先にあり、データ活用の出口として収益化の道筋を描くことに留意する必要があると考えられます。

 

入札における留意点 ー競争環境をいかに作るか

 

補助事業を利用してハウスや機器設備を導入する際には、入札により業者選定を行う必要があります。補助事業での見積では、業者側が価格を上乗せするケースがあると言われます。そうした場合には事業費がはね上がり、自己負担額も上昇してしまうでしょう。このようなことが起きないよう、必要な機能に絞った仕様を提示して、複数社から見積を事前に入手することが考えられます。慣例的に、生産者のそうした見積取得の行為を嫌がるケースもあると聞きますが、補助事業の受益者として事業費や過剰な支出を抑えるためにも必要なことと考えられます。

 

また地域によっては業者間の談合が発覚したケースも過去にはあり、今後も絶対に起こらないと言い切れない面もあるでしょう。談合は論外ですが、入札での業者間の競争環境をいかに作るかに留意すべきでしょう。例えば入札時の仕様に、ある業者の製品でしか実現できない機能が盛り込まれた場合には、他の業者はその業者から仕入れて見積もるしか無く、競争にはならないことになります。もしその製品を代替する製品が他の業者にもあるようなら、仕様の条件を少し広げるなど工夫をしながら、なるべく多くの業者が入札に参画できるよう留意することが考えられます。そのことで競争環境が成立し、落札価格も下がる可能性が生まれるでしょう。こうした競争環境を作るには、やはり見積段階から仕様も含め複数社との交渉が必要になります。大変手間が掛かることになりますが、その効果を考えれば必要性が理解できるのではないでしょうか。

今後の展開

補助事業は、国や自治体がその時の社会情勢や生産現場の状況を踏まえ策定し、財務当局等との折衝や議会の承認を経て実現されます。そのため同じ内容の補助事業が長く続くことはなく、内容や形態を変えながら生産者の技術導入や経営向上をはかっています。生産者の皆様は、ご自分の経営にこんな補助事業があれば有効、有益か考えることも必要かもしれません。また補助事業を立案する自治体の担当者は、現場ニーズにもとづくプランであれば聞く耳を持つはずです。ご自分の経営から支払った税金が、ご自分の経営に還元され、さらに地域にも還元されるよう、補助事業が有効に活用されることを願う次第です。

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