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石川県の施設園芸と野菜生産② ー加賀太きゅうりー

加賀太きゅうりの特徴について

 

加賀野菜の15品目文献1)には、施設栽培が行われている加賀太きゅうりがあります。金沢市は、金沢市農業センター調べによる「加賀野菜に関するデータ」を公表しています文献2)。そこには加賀太きゅうりについて、令和3年に農家戸数14戸(平成9年:13戸、以下同年数値)、栽培面積3.01ha(3.07ha)、出荷量461.85t(340.39t)とあり、出荷量の増加がみられます。この加賀太きゅうりの栽培面積や出荷量は、石川県全体の施設きゅうりの栽培延面積約13haと収穫量942tに対しても、一定の割合を占めていることが伺えます。

 

また金沢市では加賀太きゅうりについて栽培マニュアルを公表しています文献3)そこには加賀太きゅうりについて、以下の記述があり、引用します。

 

『昭和初期、金沢市久安の篤農家が福島県の農家から種子を譲り受け、久安地区で栽培されていた加賀節成きゅうりと自然交雑したのが起源である。年月を経て、果径は三角形から丸みを帯びた形に、果色は黄色から濃緑色へと変化し、昭和27年頃に現在の加賀太きゅうりの姿となった』

 

この記述から、金沢在来の品種と外部から入った品種の交雑があり、そこからさらに交雑などが進み現在の加賀太きゅうりが生まれたことが伺えます。また同マニュアルでは、播種から始まる自家育苗や接ぎ木の方法が詳しく記され、育苗を外部委託することが主流となった現代のキュウリ栽培と比べても、種子と品種を大切にしていることも伺えます。

 

同マニュアルには加賀太きゅうりの特性等として、果長22~27cm、果径6~7cmの太さが特徴の白いぼ太きゅうりであるとし、1果重が500~620gにもなり、果肉が緻密で柔らかく日持ちが良い、としています。このように一般に流通するキュウリの果実とは、外観も品質も大きく異なるものとなっています。

 

同マニュアルでは、その他に2月中旬から3月上旬に定植し4月上旬から8月下旬まで収穫を行う作型や、2本仕立ての摘心栽培での誘引方法、施肥設計と追肥、潅水管理、温度管理、病害虫防除等について具体的に記されています。また金沢市では他の加賀野菜についても栽培マニュアルを公開しています。特定の品種についてこのような詳しいマニュアルを作成することから、金沢市が加賀野菜の生産振興と次代への継承に力を入れていることが伺えます。

近江町市場(金沢市)で販売されている野菜
左下:加賀太きゅうり、緑と紫の葉菜:金時草、右:加賀れんこん

加賀太きゅうりの産地での栽培について

 

文献4)には、産地レポートとして金沢市打木町の加賀太きゅうりの産地と、そこでの栽培などについて紹介がされています。打木町は砂丘地帯にあり、潅水設備も整い、カラーピーマンも栽培されています文献5)。また「昭和38年の一次構造改革で、地区全体にスプリンクラーが導入」されたとの記述もあります文献6)。同産地レポートには、打木町では12軒の生産者が「JA金沢市 砂丘地集出荷場 加賀太きゅうり部会」として約2.9haで年間約9万ケースを出荷している、とあります。同部会の松本充明氏は加賀太きゅうりの接ぎ木栽培(苗)について、穂木と相性のよい台木をカボチャやユウガオなどを試し、3年ほど前から現在の台木品種を採用している、と述べています。

 

一方で金沢市農業センターでは施設野菜について、穂木や台木の品種比較などの栽培実証試験が行われています。令和4年度の半促成キュウリ(加賀太きゅうりのことと思われます)に関して下記の試験が実施されています文献7)。これらの試験成果については公表はされていない様子ですが、加賀太きゅうり部会の生産者などへ成果がフィードバックされているものと思われます。

 

■農業センター場内での栽培実証試験

<施設野菜>

半促成キュウリの穂木品種比較試験

半促成キュウリの台木品種比較試験

半促成キュウリの新規格パイプハウス導入検討試験

半促成キュウリの仕立て方法比較試験

 

前述の産地レポートで松本氏は加賀太きゅうりの栽培について、2本に仕立てたツルより1本当たり10果程度の収穫があること、その着果については不定期、不規則で、現在も研究中であることを述べています。果重が通常のキュウリの何倍もあり収穫果実数が1株当たり20果程度と少なく、収穫に追われることは無いものの、栽培管理には細心の注意が払われていることが伺えます。また砂地での栽培のため、乾燥しないよう潅水には気を付け、果実肥大に応じ肥料を与えながら着果のしすぎにも注意を払っていること、暑さにより果実の色づきが悪くならないようミスト散布や遮光材の利用を行っていることなどを述べています。

 

松本氏は同産地レポートで、従来は固定された部会のメンバーだけで加賀太きゅうりの栽培を行っていたことに対し、松本氏と有志により「株式会社金沢アグリプライド」を立ち上げ、新たなメンバーの参入機会を生み出していることを紹介しています。同社では町内の遊休地を買い取り、新規就農者の雇用により生産を行う県内初の法人とのことです。同社の設立の経緯については「打木集落と石川県県央農林総合事務所や金沢市農業センター、JA金沢市が検討を進めてきた結果、遊休農地の解消及び発生防止を目的として複数の農家が出資する協業型の農業法人の設立に至った」文献8)とあり、遊休農地の増加に対する産地や出荷の維持や、新規就農者の育成を進める取り組みが、関係機関とともに進められていたことが伺えます文献9)

加賀太きゅうりの品種の維持について

前述の「加賀野菜「加賀太きゅうり」栽培マニュアル」を監修した松本 惲氏(農の匠)は、文献6)で、固定種である加賀太きゅうりについて、「固定種は、揃わんのや」と述べています。また同文献では品種の維持について以下のように記されています。

『種をまき、育ち具合を見ながら色や形、実のつまりが良いものを種用に選抜。それを毎年繰り返すことで、固定種である伝統野菜は守り続けられます。ほかの品種との交配も防がなければなりません。当初は、生産者それぞれで種を採っていたのですが、ただでさえ揃いづらい固定種。個々で種を採るとますますバラつきが生じました。そこで、採種のための共同圃場を作りました。生産者が持ち回りで種を守り、今のように色や形や味の安定した加賀太きゅうりを出荷できるようになったのです。』

このように固定種の維持と産地化には、それなりの管理作業が必要となり、共同採種圃場の設立によって品種の維持と安定化を行ったことが伺えます。現在の共同採種圃場の運営についての詳細は不明ですが、「加賀野菜は農家が自家採種により種を代々受け継いでいくほか、金沢市農業センターでも、他の品種と交雑することのないよう、公的に野菜を栽培し、種を保存している。」との記述文献10)もあり、金沢市などの支援により加賀太きゅうりを含めた加賀野菜の品種の保存が行われていることが伺えます。

参考文献

  1. 松下良、新版 加賀野菜 それぞれの物語 資料編 加賀野菜15品目特徴、金沢市(2018)
  2. データでみる金沢の農業と加賀野菜、金沢市
  3. 加賀野菜「加賀太きゅうり」栽培マニュアル、金沢市
  4. 加賀野菜の夏の代表格「加賀太きゅうり」。「伸び代いっぱい」の実を砂地で育てる匠の情熱に触れる。、いしかわ百万石食鑑(2023)
  5. カラーピーマン研究会、DGネット、公益財団法人石川県産業創出支援機構(2021)
  6. 篤農家聞き書き集、品目紹介 加賀太きゅうり 松本 惲さん 『作ってみたら案外楽やった。でも、種を守り続けるのは大変や。』、金沢市農産物ブランド協会
  7. 令和4年度 金沢市農業センター栽培試験について、金沢市農業センター
  8. 農業法人「株式会社金沢アグリプライド」創立記念式典の開催について、石川県県央農林総合事務所 令和2年2月14日
  9. 多様な担い手の確保による園芸産地の振興、石川県【重点プロジェクト計画】
  10. 金沢の風土が育んだ財産 加賀野菜、環境省 森里川海プロジェクト SDGsを暮らしの中で実践するために
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