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石川県の施設園芸と野菜生産③ ー小松とまとについてー

石川県小松市には北陸有数のトマト産地があり、「小松とまと」と呼ばれるトマトが生産されています。本記事では小松とまとについて、その歴史や特徴、生産方法などをご紹介します。

小松とまとの歴史と特徴

 

小松市は加賀平野の中心部に位置し、耕地面積3,870ha のうち水田が 3,520ha と大半を占め、園芸品目では、トマト、ニンジンが県内最大の産地になります文献1)。そこで作られる小松とまとの歴史について文献2)より引用します。

 

1960~ トンネル早熟、露地野菜として向本折地区を中心に栽培スタート。

1970~ 鉄骨ビニールハウス、パイプハウスによる栽培が始まる。

1970 機械選果がみゆき地区でスタート。

1972 向本折にハウス団地が造成される。 同年より冬春トマトが国の指定産地になる。

1980~ パイプハウス中心の栽培になり、春トマト及び抑制きゅうりの作型が定着する。産地の中心がみゆき地区から向本折になる。

1980 今江集荷場での集荷、機械選果が始まる。

1981 月津地区・今江地区で夏秋トマトの新産地が形成される。

1986 夏秋トマトが国の指定産地になる。5~11月までの継続出荷体制が整う。

1989 今江地区に選果場が新設され、現在の集出荷体制が確立。

1990 向本折地区に加え、みゆき、今江地区でもトマトが園芸の中心品目になる。 

1993 共販額4億円を突破し、園芸の中心品目に成長する。県内第1位の産地となる。

1996 もみがら養液栽培が導入され、年2作の栽培が可能になる。

2000 トマトの色で選別できる機械を導入する。

2007 うららのとまとまつりがスタート。

2015 小松とまと50周年。

JA小松市野菜総合出荷場
小松市向本折町 2021.05.10竣工

小松市は現在では60年以上の歴史を持つトマトの産地であり、冬春トマト、夏秋トマトとも国の指定産地となり、また主に県内と関西方面への販路を持っています。また小松市は積雪地帯にあり、栽培用ハウスは単棟のパイプハウスが主流で、一部に連棟鉄骨ハウスもみられます。また栽培方式には土耕栽培と養液栽培の双方がみられます。単棟パイプハウスでの養液栽培という北陸地方ならではの栽培様式も特徴のひとつと言えるでしょう。

 

次に文献1)には、下記の養液栽培導入と生産出荷の拡大についての記述があります。

 

『平成8年に生産者自らの発案で開発した給液装置と発泡スチロールの栽培ベッドからなる「もみがら培地養液栽培」が産地に本格導入され、青枯病など土壌病害を回避し、春と夏秋のトマトの連作が可能となったことでさらに面積拡大が進み、平成12年に1,801tと出荷量のピークを記録し、高度な生産技術によって北陸3県最大の生産量を誇る産地となった。』

 

このように独自に開発された「もみがら培地養液栽培(後述)」の導入により、春トマトと夏秋トマトの連作(半促性作と抑制作)が行われるようになり、産地としての拡大が進んできました。また文献3)では、JA小松市施設園芸部会の米田会長が「小松のトマト農家は常に勉強会を開き、お互い切磋琢磨しながら良いトマトを作ろうと努力しているから、技術が高く、養液栽培による低農薬のトマトは美味しくて酸味とコクのバランスが良い」と述べています。養液栽培により土壌消毒で使用する農薬を削減し、栽培ベッド面や通路面も湿潤になりにくく、灰色カビ病等の病害の発生も抑制され防除回数も減少していることが伺えます。文献4)の小松とまとの紹介画像では、大玉トマトの選果状況や、通路シートが敷設されたハウス内で発泡ベッドを使った養液栽培による小松とまとの栽培状況が示されていますので、ご覧になってください。

 

一方で文献1)には、「近年は担い手の高齢化に伴う離農や後継者不足で生産者数、出荷量が年々減少傾向にあること」や、「平成30年1月の大雪でハウス倒壊の被害を受け、高齢者の離農やトマト以外の作物への品目転換が進み産地面積が大きく減少した」ことが記されています。同文献には令和3年(カッコ内は平成29年)のトマト生産について以下の数字が示されています。

 

面積:1,180(1,382)a

出荷量:1,094(1,320)t

共販額:324,153(393,384)千円

生産者:48(55)人

うち高齢生産者(65歳以上):24(28)人

中核生産者(40~64歳):22(23)人

若手生産者(39歳以下):2(4)人

 

このように平成30年雪害以前に比べ、生産面積、出荷量、共販額、生産者ともに減少がみられ、さらに文献1)では雪害後に全生産者を対象にアンケート調査を行った結果、「10 年後の産地規模は出荷量 873t(平成30 年比:82%)、生産者数 39戸(同:76%)と大きく減少することが明らかになった」としています。その後、生産者の意向調査や関係機関などによる検討がなされ、今後の産地の再編や維持のため、JA小松市新規就農支援センターアグリスクールこまつ(後述)の設立と研修の実施、レンタルハウス等による研修後の独立就農支援などが行われています

もみがら培地養液栽培による小松とまとの生産

 

前述のもみがら培地養液栽培について、文献5)に詳細な記述(文献中では籾がら養液栽培システム、以下本システムと呼ぶ)がされています。小松市で施設野菜や露地野菜、水稲の栽培を行う神田宏氏が、土耕栽培でのトマト年2作栽培を行う中で、青枯病などによる連作障害が増加し、その対策として養液栽培の導入を検討、低コストで自家供給可能なもみがらを培地に使う試験を開始したことが紹介されています。神田氏は手作りの養液栽培システムを開発し、農家3戸による10aでの栽培試験を開始、試行錯誤の末、土耕と比較し収量、品質とも向上することを明らかにしています。その後、JA小松市施設園芸部会に養液部会を発足し、本システムの改良開発も進められ、2006年の時点で小松市トマト産地の1/3に当たる24戸、3.8haで栽培されているとしています。

 

同文献による本システムの特徴は、概要として以下のようになります。

排水性の良好なもみがら培地により水分制御が容易で、トマトの草勢管理やしやすく、今群の発達も良好である。

・生産者の神田氏らによる開発で、自家施工を原則とし、低コストである。

・有機質のもみがら培地は緩衝性が高く、原水への適応性も広い

もみがら培地は保水性が低く給水量が多くなり、循環方式や潅水チューブと給水マットを組合せ利用する。

 

本システムの構成として、発泡ベッドを地面に水平設置し、防水シートと遮根シートを敷いた上にもみがらを充填、循環タンクから液肥を潅水チューブ(エバフロー特注品)に供給し、排液をタンクに集め循環タンクに戻す形が取られています。循環タンクには原水と濃厚液肥が供給され、ECコントローラによる培養液管理がされています。また潅水はタイマー(24タイマーとサブタイマーによる)による制御がされています。もみがら培地は経年で保水性が変化し、腐熟度にあわせた潅水管理が必要とし、生長点や培地の湿り具合、気象条件を考慮して徐々に潅水回数を増やすこと、培養液濃度も徐々に上げることなどが記されています。

 

本システムは市販のものに比べ低コストで導入が可能で、経営規模拡大にも効果があり、神田氏は家族3名と常時雇用1名で年間約2万株の栽培を可能としています。またメンテナンスについても外注することなく、生産者が行うことでコストを低減しています。同文献は2006年のものですが、本システムは現在でも小松とまとの栽培に用いられています。

 

生産者の考案による養液栽培システムは他にも様々なものが存在していますが、このように産地での中核の栽培装置として取り上げられ、広く普及したものは珍しいものと考えられます。神田氏を始めとした生産者の開発改良に対する努力と、行政やJAなどの支援により、性能も向上し、導入コストも自家施工やもみがら利用により低く抑えられたことで、多くの生産者に普及したことが伺えます。

アグリスクールこまつでのトマト栽培等の研修と就農支援

 

JA小松市では令和3年4月より新規就農支援センターアグリスクールこまつの運営を開始し、園芸農業を志向する就農希望者(令和3年4名、令和5年4名)を受け入れ、研修を行っています文献6)研修は2年間で、アグリスクールこまつの研修ハウスや現地研修圃場、 実践レンタルパイプハウスなどでの栽培研修(養液栽培によるトマト・きゅうり栽培(長期長段獲り栽培及び春・秋2作栽培)、 土耕栽培によるトマト、きゅうり、コマツナ等の小葉菜栽培)や 座学研修農業基礎(病害虫防除、土壌肥料等)、トマト・きゅうり等の栽培技術各論)、 その他の研修(農家作業研修、パイプハウス建設研修、就農計画作成研修)などのカリキュラムが組まれています

 

また文献7)には令和3年と4年の研修実績が記載され、研修生の紹介と研修ハウスと栽培実習の内容、トマトの整枝作業状況(つるおろしとUターン)、栽培実習での収量と販売高、座学研修の内容などが克明に記されて、就農に向けた実践的な研修であることが伺えます。同文献のP6には、つるおろし整枝での栽培状況について、白色の通路シートを敷設したパイプハウス内にもみがら養液栽培用とみられる栽培ベッドが置かれ、大玉トマトが結実している様子が示されています。また、「2/中旬定植で23段果房茎の長さは約6mになる」とあり、パイプハウス内での養液栽培による本格的な長段栽培が研修で行われていることも伺えます

 

 

今後の展開

 

以上のように、JA小松市や関係機関により新規就農者の育成や独立支援が行われ、高齢化に伴う小松とまとの生産面積や出荷量の減少に歯止めを打つよう、対策が進められています。一方で、抑制栽培による夏秋トマトの出荷が12月で終了してる中で、これを1月中旬まで延長する取り組みも始まっています文献8)。JA小松市では「冬に収穫するトマトは日照時間が不足して色つきが弱くなりますが、一方でじっくり育つため味が濃くなり、シーズンを通して最も糖度が増します。甘いという強みを広く訴えるため「小松冬とまと」と名付け、販売を開始しました。」文献9)とし、新たな商品展開が行われています。

参考文献

  1. 金森友里、トマト産地の再編に向けた農業人材育成の支援 ~産地再編に向けた仕組みづくり~、第10回(通算72回)農業普及活動高度化全国研究大会における事例発表受賞者決定、(一社)全国農業改良普及支援協会(2022)
  2. もっともっと小松とまとがわかる本、小松市環境王国こまつ推進本部 (2016)
  3. 農家の情熱が詰まった小松産トマト6次産業化プロジェクト、情報誌「こまつもん」3 2013春・夏、小松市環境王国こまつ推進本部
  4. FOOD 食ブランド 小松とまと、小松市
  5. 松原幸佳、桃太郎ファイト,ハウス桃太郎・籾がら養液栽培 石川県小松市 神田宏、農業技術体系野菜編第2巻(2006)
  6. 小松で園芸を勉強しませんか(施設園芸を中心とした園芸農業者の独立支援)、JA小松市新規就農支援センター
  7. 令和3年度上期報告会・下期報告会 資料、JA小松市新規就農支援センター
  8. 小松冬とまと 甘み自慢 JA、ブランド化へ試食販売、中日新聞 2023年12月17日
  9. 新登場!「小松冬とまと」!、JA小松市12.22
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