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施設園芸(ハウス栽培)における環境負荷低減~肥料の節減から温室効果ガス削減まで

施設園芸では様々な資源を投入して、青果物や生花などの生産を行います。その際にハウス内やハウス外に排出される物質があり、環境負荷につながるものと考えられます。本記事では主な環境負荷について、概要と低減策について紹介します。

温室効果ガスの低減

地球温暖化の要因とされる温室効果ガスには、二酸化炭素、一酸化二窒素、フロンなどの物質があります。それらのうち施設園芸に最も関係するものとして二酸化炭素(以下CO2)があります。

作物は光合成の原料となるCO2を大気由来やCO2発生装置由来のものを吸収しています。また作物は成長や果実肥大に必要なエネルギーを得るため呼吸を行いCO2を排出しています。こうした作物の生育にかかわるプロセスではCO2の吸収と排出が繰り返されてますが、最終的に糖やでんぷんの形で炭素が固定され、食料などの形で利用されます。よって作物の生産自体は温室効果ガスの発生に対して抑制効果があると言えるでしょう。

施設園芸による環境負荷として問題視されやすいのが、暖房、CO2施用などの際に燃油やLPGなどの化石燃料を燃焼して発生するCO2です。果菜類の越冬栽培、長期栽培では暖房は不可欠であり、また環境制御技術の普及に伴い灯油やLPGを燃焼源としたCO2施用も果菜類栽培では一般的になっています。いずれも温室効果ガスの排出源となるため、今後は代替エネルギーの利用へのシフトが求められると考えられます。

主な代替エネルギーとして電力があります。電力の供給エネルギー源には火力発電で化石燃料を用いるケースもありますが、再生可能エネルギーである水力、風力、太陽光も利用され、原子力も一部では使われています。電力供給の安定性も猛暑時や厳寒時には問題になることもありますが、代替エネルギーの選択肢としては現時点では筆頭と考えられます。

電力による暖房には、現在はヒートポンプが用いられています。空気を熱源とした家庭用エアコンと同様な仕組みのもの、地下水などを熱源としたものなど様々なタイプがあります。重油暖房機に比べイニシャルコストが高く、また燃油価格が低下した際には電力料金の負担が増す問題があります。そのためハイブリッド方式と呼ばれる形で電気式ヒートポンプと重油暖房機を併用し、主にヒートポンプを稼働させて気温が低下した際に重油暖房機を稼働させることで暖房コストを低減する方法がとられています。

化石燃料の代替エネルギーとして、他には木質バイオマス、地熱、温泉熱などがあり、一部で利用されています。木質チップや木質ペレットなどの木質バイオマスの利用では、専用の暖房機も開発されていますが、地域資源利用のため利用地域に制約があること、バイオマスの品質や価格にバラツキがあること、バイオマス発電との資源確保での競合になりやすいことなど、様々な課題もみられます。

農薬・肥料使用量の低減

農薬や農薬を多用することで、土壌や排水路などに余剰分が流出し、環境負荷につながることが考えられます。そのため減農薬栽培が行われ、また土壌分析にもとづく施肥や点滴潅水による肥料節減の取組みもされています。

 

減農薬栽培は、IPM(総合防除)が普及し、病害虫に対し化学農薬を用いる化学的防除の他、防虫ネット利用などの物理的防除、耐病性品種利用などの耕種的防除を組み合わせ、化学農薬使用量の低減をはかっています。近年では生物的防除として天敵利用も進められ、地域に生息する土着天敵の活用も行われています。これらの取組みは農薬コストの低減にもつながるため今後も普及するものと考えられます。

ハウス栽培での天敵の住みかとなるバンカープランツ

 

施設園芸では昔から過剰施肥による塩類集積が問題になっていました。そのため土壌分析により元肥や追肥の量、成分の調節が行われています。従来は元肥施肥の前の土壌分析が一般的でした。一方で分析の回数を増し、間隔も短くすることで、栽培期間中でも過剰な施肥をより防ぐことにつながります。

 

養液土耕栽培での点滴潅水は、少量多潅水と潅水同時施肥により、施肥量の節減が可能な技術です。ゼロアグリでの潅水施肥は少量多潅水を基本としていますが、施肥量オート制御機能など独自の技術により、さらに必要な肥料分のみを与えられるような機能を持っています。

廃プラの低減

 

施設園芸では被覆資材にプラスティックフィルムが多く用いられ、その廃棄が環境負荷につながる可能性があります。燃焼により有毒ガスが発生しやすい農ビ(塩化ビニルなど)は、リサイクル原料として利用されますが、近年の農ビ需要減少によりリサイクル施設の稼働率低下も問題となっています。また最近は中国など廃プラの輸出を引き受けていた国が自国の環境問題によって受け入れの制限に動いていることもあり、日本国内での廃プラ処理の推進が求められています。

 

廃プラの問題として、量そのものを減らすこと、排出されたプラスチックを不法投棄などせず適正に処理することがあげられます。前者については、長期展張フィルムを利用し廃棄のサイクルを長く取ることや、環境負荷が少ない生分解性フィルムをマルチ資材などで用いることが考えられます。後者については、産地単位などで廃プラを収集し、リサイクル可能なものは処理を進め、産廃として廃棄する場合には適切な処理を進めることが求められます。

今後の展開

農林水産省は昨年に緑の食料システム戦略を公表し、2050年までに施設園芸におけるカーボンニュートラルを実現することや、同じく2050年までに化学農薬や肥料の使用量削減を目標として掲げています。ここでは高いハードルを課すことで技術開発を長期的に進展させることを狙うように思われますが、それらの実現は一朝一夕には進まないと考えられます。今後は施設園芸の生産者や関係者において、環境負荷低減について今できることは積極的に行い、また近い将来に実現できそうなことも目標に取り込んでいくことが求められるでしょう。そのことが持続的な施設園芸のあり方に直結するのではないかと考えられます

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