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石川県の施設園芸と野菜生産① ー施設園芸と野菜生産の概要、加賀野菜についてー

石川県は日本海に面し、三方を海に囲まれ南北に長い地形となっています。県内地域は下記のように4つに分けられ、それぞれ農業や食品産業等について下記の特徴があります文献1)

 

能登北部:白米千枚田に代表される農山漁村の原風景など、世界農業遺産「能登の里山里海」のブランドイメージ、植物工場や農業法人などの進出が増加。

 

能登南部:能登外浦・能登内浦の豊富な水産資源を活用した食品加工業が発展。

 

加賀北部:新幹線開業以降、観光需要に伴い、飲食・宿泊業が多く立地したほか、県外からの本社移転・支店開設が相次ぐ。

 

加賀南部:白山から豊富な水源による広大な穀倉地帯、農業や伝統技術による地酒造りなどが盛ん。伝統工芸や、加賀野菜・魚介類による食文化。

 

令和6年1月の能登半島地震により、能登北部や南部を中心に家屋や前記の白米千枚田をはじめとする農地、道路や漁港、水源など様々なインフラにも大きな被害があり、人的な被害も多く発生しています。被害にあわれた方々に衷心お見舞いを申し上げますとともに、いち早い復旧と復興をお祈りいたします。本記事では石川県の施設園芸の概要と野菜生産の特徴について記します。

石川県の施設園芸の概要

 

石川県の園芸用施設の設置実面積は全体で約269haあり、うち野菜用は約142haになります。またそれらのうち加温設備のあるものは全体で約17haで、野菜用は約9haになります文献3)。これらより、施設園芸の多くは春から秋にかけての無加温栽培が主流であり、加温を要する越冬栽培は一部で行われていることがわかります。

 

また施設野菜の栽培延面積・収穫量は、トマトが約37ha・約2,418t、キュウリが約13ha・942t、スイカが約13ha・772t、ホウレンソウが約12ha・151t、その他が約42ha(うちコマツナが約36ha)・124tとなっています。これらが石川県で栽培される主要な施設野菜となります。

石川県の野菜生産の概要

 

石川県の令和3年農業産出額は480億円で、うち野菜は98億円になります。これはコメの226億円に次ぎ、畜産全体での94億円と同等の規模といえます。また果実は33億円になります文献4)。県内の指定野菜14品目についての作付面積・収穫量では、トマトが94ha・3,080t、キュウリが50ha・1,760t、ホウレンソウが54ha・344t、ナスが38ha・684tとなっています。なお、これらの中には露地分も含まれています。

 

農林水産省北陸農政局の資料文献4)より、県内の野菜を含めた農林水産物の産地マップを引用します。前記の施設野菜や指定野菜の産地の他、加賀野菜(15品目)や能登野菜(16品目)というジャンルが記されています。地域の特産野菜という位置づけで、ブランド化が図られている野菜になります。また野菜以外では、毎年出荷初期に高いセリ値がニュースになるルビーロマンが産地化されています。

出典:強くて豊かな農業をめざして、北陸農政局

以下に、加賀野菜の特徴をご紹介します。

加賀野菜について

加賀野菜の栽培が行われている金沢市では、加賀野菜について下記のように定義しています文献5)

『加賀野菜は、1945年(昭和20年)以前から栽培され、現在も金沢を中心に作られている野菜です。さつまいも、加賀れんこん、たけのこ、せり、加賀太きゅうり、ヘタ紫(むらさき)なす、金時草(きんじそう)、加賀つるまめ、源助(げんすけ)だいこん、打木赤皮甘栗(うつぎあかがわあまぐり)かぼちゃ、金沢一本太ねぎ、二塚(ふたつか)からしな、赤ずいき、くわい、金沢春菊(しゅんぎく)の15品目があります。 現在の野菜の品種にはない、独特の風味があります。』

一つの地域で、こうした特産の野菜が15種類も栽培されている例は全国的にも珍しく、金沢市が特産化に力を入れて来たことが伺えます。また金沢市農産物ブランド協会では、加賀野菜の生産振興と消費拡大について下記のように述べています文献6)

『城下町金沢には、藩政時代から受け継がれた季節感に富んだ特産野菜、加賀野菜が数多く引き継がれています。しかし、生産者が増産性や耐病性を追い求め、一方、消費者も見た目の綺麗さや調理の簡便さを第一に考える時代風潮とともに、加賀野菜が市民から忘れられ、生産農家も減少の一途を辿ってきました。

こうした背景のもと、郷土の先人が育んできた、私たちの財産とも言うべき加賀野菜を受け継ぎ、後世に伝えながら、生産振興を消費拡大を図りたい、その熱い思いにより、各関係機関が協力して金沢市農産物ブランド協会を設立し、加賀野菜の生産振興や消費拡大に努めています。』

このように、加賀野菜には江戸時代から受け継がれている特産のものなどがあり、種苗会社などにより交配された品種とは異なる独特なものもあることが伺えます。さらに金沢市では、加賀野菜のうち店先から姿を消しつつある伝統野菜について、「種の保存、栽培技術の継承と生産の維持」を図っているとのことです文献7)。このように地域の大切な農業資源として、自治体や生産者が一体となって加賀野菜の遺伝資源を保全し、また生産を維持するとともに、ブランド化によって販売面でも特徴を出す取り組みがされています。具体的な取り組みとして「篤農家がもつ栽培技術を伝承し、普及を図るため、加賀野菜の栽培マニュアルを作成いたしました」とあり、加賀野菜15種類についての詳細な栽培マニュアルが金沢市農業センターにより公開されています。また同センターでは、加賀野菜の種や株の保存管理や栽培試験などの業務が行われています。

「新版 加賀野菜 それぞれの物語」について

金沢市では、文久元年(1861)から続く老舗種苗店(松下種苗店)の5代目であり、加賀野菜の保存や普及に尽力した松下良氏の著書「加賀野菜 それぞれの物語」を、その後の変化や新たな動き等を加え「新版 加賀野菜 それぞれの物語」として再編集し、公開しています文献8)。本書の「第一章 金沢の伝統野菜 今昔語り」には、日本の野菜の起源が京都にあり、北陸街道で結ばれた金沢には京都と始め各地の様々な野菜を取り入れる進取の気質もあり、北陸の風土に適した野菜を取捨選択したものが今日に至る加賀野菜の源流である、としています。

また本書は、金沢の土壌について次のように述べています。

『金沢は日本でも数少ない地理的条件を持っている。山沿いと平野部の里、そして海岸沿いの砂地と河川流域の土壌。金沢は小さな町ではあるが、4種類の土壌を備えた全国でも珍しい土地なのだ。』

金沢市の野菜栽培の中心に当たる場所に現在の近江町市場があり、そこを中心として南部が白山の噴火による火山灰土壌、北東側が湿田地帯、北西側が砂地地帯、他にも山地があり、おのおのが多様な加賀野菜の栽培に適した土壌となっていることが伺えます

近江町市場(金沢市)で販売されている野菜
左下:加賀太きゅうり、緑と紫の葉菜:金時草、右:加賀れんこん

本書には、著者の松下氏を中心に平成3年に加賀野菜を復興させようと加賀野菜保存懇話会が発足し、金沢市内、および周辺の生産農家や市場関係者、小売店、料理屋、料理学校の関係者らが参加した、とあります。また松下氏は、絶滅の危機に瀕した伝統野菜の種30品目を無償で提供した、とあります。松下氏は同懇話会の発足について次のように述べています。

『交配種が市場を席巻して以来、種屋はとにかく病気に強いもの、出荷する際に便利な形のそろったもの、要するに作って売るのに都合のよい野菜ばかりを追求していた(中略)病気にならない、あるいは虫も食わないような野菜がおいしいはずがない。食べるための野菜、おいしい野菜を絶滅させてはいけない。そんな思いから、私は種の保存に努めてきた。そして、いま残っているものを次代に伝えたい。加賀野菜を作ってほしい―との一心から生産農家に呼び掛け、加賀野菜保存懇話会が発足したのだった。』

その後、加賀野菜の知名度も少しずつ上がり、料理店が加賀野菜のメニューを提供するなどし、さらに金沢市やJAの支援により前述の金沢市農産物ブランド協議会が発足したことが紹介されています。加賀野菜の稀少性がブランドとしての価値を高め、また多様化した消費者ニーズも合致し、加賀野菜の復活が進んだことが本書で紹介されていますので、ご一読くださればと思います。

参考文献

  1. 企業立地ー地域ごとの特徴とおもな産業、石川県の産業を取り巻く状況・課題【基礎データ】、石川県
  2. 園芸用施設の設置等の状況(R4)、農林水産省園芸作物課
  3. グラフと統計でみる農林水産業 基本データ 石川県、農林水産省
  4. 強くて豊かな農業をめざして、農林水産省北陸農政局(2018)
  5. 加賀野菜、金沢市
  6. 加賀野菜について、金沢市農産物ブランド協会
  7. 伝統野菜、金沢市
  8. 松下良、新版 加賀野菜 それぞれの物語、金沢市(2018)
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