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栃木県の施設園芸と野菜生産③ ートマト栽培の特徴ー

低コスト耐候性ハウスの導入とハイワイヤー栽培

 

「栃木県の施設園芸と野菜生産①」でご紹介したウォーターカーテンは単棟パイプハウスを主な対象とした保温技術ですが、栃木県では連棟鉄骨ハウスの一種である低コスト耐候性ハウスの導入が、トマト栽培を対象に平成中期頃に始まりました。低コスト耐候性ハウスは、現在でも各地の補助事業などで導入が進められているもので、各地での一定の基準による耐候性(耐風速性能など)と従来の導入コストに比べ低価格であることが特徴になります。栃木県農業試験場での研究成果や関連団体の協力、国庫事業の活用などにより、県内トマト産地を中心に平成中期頃より導入が進められました文献1)

 

栃木県の低コスト耐候性ハウスの特徴として高軒高化があります。これは従来の2.5m程度の軒高を3.8m程度に高くする設計で、トマトの誘引法を従来型の斜め誘引から垂直のつるおろし誘引(ハイワイヤー栽培)にすることが可能となりました。これによりトマト群落の受光態勢が向上し、あわせて高所作業台車の導入によって誘引等の管理の作業性も向上させています。またトマト栽培の作型も早まり、年内の収量確保と冬期の豊富な日射を活かした越冬栽培も行う長期作型が主流となっています。この作型は現在は全国的に広がりをみせています。

 

栃木県農業試験場では、2000年代前半より当時としては珍しい高軒高ハウス(軒高4m)を場内に建設し、誘引高3mのハイワイヤー栽培による試験を行っています文献2)。そこでは従来の低い誘引位置での斜め誘引との収量や果実品質、作業性などの比較を行い、ハイワイヤー栽培の優位性を明らかにしています。また栃木市に建設されたJA全農の実証施設(軒高5m)では2010年代中期にすでに40t/10a程度の高収量を達成しています。文献3)

 

近年は軒高が5m程度のトマト栽培用ハウス文献4)も建設され、栽培環境も安定化し、より受光態勢、作業性も向上しています。全国に先駆けてこうした高機能のハウスが栃木県内のトマト産地において導入が進められました。また低コスト化のため、中柱や間口の間隔を広げるといった設計上の工夫もされています文献5)。栃木県のトマト栽培では、低コスト耐候性ハウスを用いた養液土耕栽培とハイワイヤー栽培との組み合わせが県内に広がりをみせています

トマト栽培への各種機器設備の導入

 

こうした方式によるトマト栽培では、前述の高所作業台車の走行を安定化させるため、足場管パイプによる脱着式のレールを畝間に設置する方法が取られています。作替え時の耕転や土壌消毒の際にはレールを取り外し、またその後に改めてレールを設置する手間がかかりますが、高い位置でのつるおろし作業を安全に行うために必要な設備となっています。

 

また、その他の付帯設備として、重油燃焼式の温風暖房機と送風ダクト、同ダクトにCO2を送り込むための灯油燃焼式のCO2発生装置、遮光と保温のための2層式水平張りのカーテン装置、ハウス内環境を均一化するための循環扇、コナジラミの侵入を防ぐため天窓や側窓の開口部に展張する0.3mm~0.4mm目合いの防虫ネット、様々な機器類を管理するための環境制御装置など、様々な機器設備類も導入されています文献6)こうした各種の機器設備の利用によってハウス内環境をトマトの生育にとって良好な状態とし、ハイワイヤー栽培による受光態勢の向上などと併せて高い収量を確保するようにしています。これらの方法は土耕栽培でありながら、オランダ型のフェンローハウス(高軒高のガラスハウス)と養液栽培による多収栽培に近いものがあります。

栃木県下都賀地域のトマト栽培の発展

 

文献7)には、栃木県南部の下都賀地域(JAおやま、JAしもつが管内)での冬春トマト栽培についての紹介があります。同地域について「平坦で広大な農地、冬季の豊富な日照時間、潤沢で良質な水資源、大消費地の近傍という利点から、いちご、トマト、にらなど冬場の施設園芸が盛ん」としています。またトマト産地の発展過程として、以下のことをあげています。

 

  • 昭和30年代から施設土耕トマトが導入される。
  • 施設園芸に適した環境条件を活かし、また、JAが選果場の導入したことから、産地の拡大が進む。
  • 平成12年、トマト単価の大暴落。産地改革が始まる。
  • 平成14年、国内初となる低コスト耐候性ハウス(軒高4mの高軒高ハウス)が導入され、ハイワイヤー誘引による促成長期どり作型を導入する。
  • 平成20年頃から環境制御技術の導入が始まり、土耕トマトで単収30t/10aを超える生産者が現れる
  • さらなる経営規模の拡大が進み、1ha超の経営体が現れる

 

ここで平成12年トマト単価大暴落について、平均単価200円台前半を経験し、産地が飛躍するきっかけとなった、と記されています。危機意識が高まり、オランダ視察などで最新技術にも触れ、国内ではまだ新しい施設や栽培技術の導入に踏み切ったことが伺えます。また1ha規模の経営体が現れたことについては、1億円プレーヤーの誕生として紹介し、例として「単収30t/10a × 経営規模1ha × 平均販売単価300円/kg = 9千万円で、ほぼ1億円プレーヤー」をあげています。また実際に「下都賀地域のトマト1億円プレーヤーは7名。(平成30年産トマト。下都賀農業振興事務所調べ)」としています。

1億円プレーヤー育成と、とちぎ施設園芸スーパーコーチ

 

栃木県では県内で施設園芸(いちご、トマト、花き、なし、にら、アスパラガス)を経営する生産者の中で販売額1億円を目指す意欲のある人たちに向け、とちぎ施設園芸スーパーコーチの派遣を行っています文献8)。これは施設園芸1億円プレーヤー育成を目的としたもので、施設園芸の大規模化や最先端の栽培技術、作業改善、コスト削減及び販売戦略等のノウハウを持つ専門家について、現地への派遣や集合研修での講師を行うものです。1億円プレーヤーとなると経営規模も1ha前後となり、中小規模の家族経営から組織経営への移行が必要と考えられ、それらも含めた支援を専門家によって行う制度となっています。

今後の展開

 

栃木県における高軒高の低コスト耐候性ハウスの導入によるハイワイヤー栽培、養液土耕栽培について、ご紹介してまいりました。栃木県では割合は多くはありませんが、養液栽培によるトマト栽培も行われています。1999年に大平町(現栃木市)に設立されたグリーンステージ大平では、約1haのガラスハウス(フェンローハウス)でのロックウール栽培、Privaによる環境制御などオランダ式の大規模栽培をいち早く開始し、カクテルトマトというブランドで中玉トマト栽培を行っています文献9)。最近では養液土耕栽培から養液栽培に切り替える生産者や、また1ha以上の経営規模での養液栽培導入例も現れています。

 

令和期になり、ハウス価格や機器設備類価格の高騰、燃油価格や肥料価格等の高騰もあって、設備投資費用や暖房経費を要する越冬型のトマト栽培では、生産コストの増加による経営への圧迫が顕在化しているようです。パイプハウスやウォーターカーテンを利用し生産コストが相対的に低いイチゴ栽培と比べて、収益を得るには新たな工夫や改善策(収量面、販売面、経費面など)が必要と考えられます。これは栃木県だけのことではなく、設備投資を行いエネルギーを投入する施設園芸経営全般に共通する課題とも言えるでしょう。

 

参考文献

  1. 栃木県農務部生産振興課、低コスト耐候性ハウスを活用したトマト生産の取組み、農畜産業振興機構(2004)
  2. 羽石重忠 ・石原良行、トマト促成栽培におけるハイワイヤー整枝法の特性、栃木農試研報 :No55 15-26 (2005)
  3. トマト栽培実証施設「ゆめファーム全農」年間出荷数量40t/10aを達成、グリーンレポート558(2015年12月号)
  4. 大規模施設で低コスト、トマト増収 ハイテク次世代へ、JAおやま JA・組合員活動08.16
  5. 担い手が「ゆめファーム全農普及版」を導入、グリーンレポート612 (2020年6月号)
  6. 低コスト設置の事例 栃木県、(株)小林菜園、農業用ハウス設置コスト低減のための事例集、日本施設園芸協会
  7. 岩本健太郎、大規模トマト栽培(土耕栽培)の実際、大規模施設園芸・植物工場 指導者育成のための共通テキスト、日本施設園芸協会
  8. 令和5(2023)年度とちぎ施設園芸スーパーコーチ派遣希望者の募集について、栃木県生産振興課
  9. グリーンステージ大平WEBサイト
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