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熊本県の施設園芸と野菜生産① ー施設栽培と施設野菜生産の概要ー

熊本県は広大な干拓地や平野部に水田や畑作、施設園芸などの地帯が広がり、温暖な気候での野菜生産が盛んな地域です。また阿蘇などの高冷地での夏場を中心とした野菜生産も行われています。本記事では、統計情報、行政や関係機関の公開情報などから熊本県の施設園芸と野菜生産の概要を紹介します。

熊本県の園芸用施設設置面積

 

2012年から2020年の全国と熊本県の園芸用施設設置面積(ガラスハウス・ハウス)の推移を下表に示します。

農林水産省「園芸用施設の設置等の状況」より集計(参考文献1))
                         (単位:ha)

園芸用施設設置面積は全国でも熊本県でも漸減傾向にあり、2012年/2020年比では全国で-12.6%、熊本県では-18.2%の減少となっています。一方で全国に占める熊本県の面積割合は9~10%程度と高い割合を保っています。野菜用については11%前後となっており、熊本県の施設野菜生産が全国的にも主要な役割を担っていることが伺えます

熊本県の施設面積規模別の経営体数と面積

次に2020年農林業センサスより、全国と熊本県の施設の面積規模別の経営体数と面積(販売目的の施設野菜作付(栽培)面積規模別統計)を下図に示します。

出典:2020年農林業センサス 確報 第4巻 農林業経営体調査報告書
-農業経営部門別編 施設野菜部門-
販売目的の施設野菜作付(栽培)面積規模別統計(参考文献2))

これらの図より全国でも熊本県でも、経営体数が最も多いのは施設面積が0.1~0.3haの規模になります。また面積規模別の面積が最も多いのは、全国では同じく0,1~0.3haで、次いで0.5~1.0ha、0.3~0.5haの順になります。同じく熊本県では0.5~1.0haが最も多く、次いで1.0~2.0ha、0.3~0.5haの順になります。またデータを集計すると全国で0.5ha以上の経営体は全体の15.3%に当たり、それらの占める施設面積は全体の47.3%に当たります。一方で熊本県では0.5ha以上の経営体は全体の35.0%に当たり、それらの占める施設面積は全体の66.4%に当たります。このように熊本県では全国に比べ大規模経営体の比率も多く、施設面積の集約も進展していることが分かります。

熊本県での国庫補助事業による施設導入

 

熊本県の園芸用施設面積の数値は減少傾向にありますが、熊本地震後の復興支援もあり、国の強い農業づくり交付金などを活用したハウスの建設が進んだ経緯もあります。こうした補助事業で建設されたハウスは低コスト耐候性ハウスと呼ばれる一定の強度などの基準を満たしたものが中心と考えられます。それらは採光性も良好で、環境制御装置や自動潅水装置など付帯設備も装備されたものも多く、同じ面積でも収量を高めることができ、その後のトマト等の生産性向上に寄与したものと考えられます。

 

日本施設園芸協会発行の「農業用ハウス設置コスト低減のための事例集」3)には、「補助事業(強い農業づくり交付金、産地パワーアップ事業)により整備されたハウス等の入札金額等の情報」として、「平成30年度強い農業づくり交付金で整備した温室における入札結果」が一覧で記されています。全38件中の16件が熊本県におけるもので、さらにうち13件の品目がトマト、ミニトマトとなっています。また合計の落札金額は約34億円(国費の補助率は条件により1/2程度)にのぼります。当時は熊本地震後の復興支援が盛んに行われた時期となります。

 

この一覧には落札した業者名も記載されており、そこには熊本県内外のハウスメーカーや資材業者があります。施設園芸のメッカである熊本県には、地場のハウスメーカーがいくつかあり、そこでは規格化された丸屋根型の耐候性ハウスを中心に量産や施工の体制が整備されています。

 

熊本県の地域別施設野菜品目

 

熊本県の各地域の主要な野菜品目について、(一社)熊本県野菜振興協会の「県内産地紹介」4)より紹介します。越冬作(秋冬、冬春)のトマト、なす、ピーマン、いちご、春夏作のメロン、すいか、夏秋作のトマト、きゅうり、なすといった果菜類が熊本の主要施設野菜になります。栽培地域も有明海や八代海の沿岸干拓地帯、平野部水田地帯、中山間地、阿蘇など高冷地など、県内に広く分布しているのが特徴と言えるでしょう。

表 熊本県の地域別主要施設野菜品目

熊本県の施設野菜出荷額

 

令和3年生産農業所得統計5)より、熊本県の農業産出額3,477億円のうち、上位12位品目の内訳と、それぞれ品目の全国の算出額に対する構成比を下表に示します。

 

ここでは上位12品目に施設野菜4品目(トマト、いちご、すいか、メロン、なす)が入っており、それらの合計算出額は835億円で全体の24%を占めています。また県内算出額2位のトマトの算出額は362億円で、全国の算出額2,182億円の16.6%を占めており、全国一の産地県となっています。同様に他の施設野菜も全国で高いシェアを占めています

次の記事では、主要施設野菜品目のうち、トマト、ナス、イチゴの生産出荷状況について、概要をご紹介します。

参考文献

1)施設園芸のページ、農林水産省

2)2020年農林業センサス 確報 第4巻 農林業経営体調査報告書 -農業経営部門別編、(7) 施設園芸に利用したハウス・ガラス室のある経営体数と施設面積、e-Stat 政府統計の総合窓口

3)農業用ハウス設置コスト低減のための事例集(2020)、日本施設園芸協会

4)熊本県の野菜事情 県内産地紹介、熊本県野菜振興協会

5)令和3年生産農業所得統計、農産物産出額の順位と構成割合、e-Stat 政府統計の総合窓口

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