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栃木県の施設園芸と野菜生産② ーイチゴ栽培の特徴ー

栃木県のイチゴ生産は、全国一の産出額を誇り、またおなじみのとちおとめを始め、スカイベリー、とちあいかなど新品種を次々に生み出し、市場に送り出しています。栃木県でのイチゴ生産の特徴を、環境面、施設面、生産コスト面、品種面、人材育成面などからご紹介します。

イチゴ栽培と気象環境

 

栃木県の12月~2月の日照時間月別平年値は587.5時間と全国3位の長さとなっています(全国平均値:399.5時間、出典:平成20年理科年表)文献1)イチゴ栽培では1番果から2番果の収穫時期に当たる厳寒期に豊富な日射を期待でき、着果負担を受けながらも草勢維持をしやすい栽培環境にあると言えるでしょう。九州などのイチゴ産地は冬期に寡日照となる地域も多く、この点で有利な条件にあります。

 

厳寒期であっても日中に豊富な日射を受けるハウス内は、密閉状態であれば30℃近くなることもあり、地温の上昇も期待できます。また夜間は放射冷却により外気温が急激に低下し、ウォーターカーテンによる保温を行うものの、昼夜温格差のついた栽培環境により、イチゴの生育や果実肥大などにも有利な条件にあると考えられます。

 

イチゴ栽培とハウス・栽培施設

 

栃木県のイチゴ施設の多くは、単棟のパイプハウスです。栽培方式も土耕栽培が中心であり、高畝の上にイチゴの群落が広がっています。そのため日射を遮るものもほとんどなく、晴天日であれば群落は日中に連続的に受光できる態勢にあります。また施設栽培でのハウスの設置向きは通常は南北棟を基本としますが、栃木県のイチゴ栽培用パイプハウスでは東西棟のものも良く見受けられます。トマトやキュウリなど群落の高さがある作物では、東西棟で栽培を行うと群落の片側が一日中日当たりが悪くなる欠点があります。しかしイチゴ栽培を東西棟で行うと、逆に一日中まんべんなく群落に日が当たる環境にあると言えます。このようにパイプハウスでの土耕イチゴ栽培は、受光態勢の面でも優位にあると考えられます

イチゴ栽培と生産コスト

 

前述のように、栃木県のイチゴ栽培の多くは単棟パイプハウスでの土耕栽培のため、設備投資費用は、一般的な鉄骨ハウスでの栽培や養液栽培などに比べ低いものになっています。またウォーターカーテンを利用した冬期のイチゴ栽培では、イチゴの生育下限温度を保持可能であるため、重油燃焼などによる暖房装置を必要としないのが一般的です。そのため厳寒期における光熱水費は、ウォーターカーテンへの地下水散水に用いるポンプの電気代がかかるものの、他のイチゴ産地で必要な重油暖房などの経費が不要なため、こちらも低いものになっています。ウォーターカーテンによる保温には良好な水質で豊富な地下水が必要なため、利用可能な地域は限られています。また東北地方など夜間の外気温がさらに低い地域になると、ウォーターカーテンのみではイチゴの生育下限温度を維持できない可能性もあるため、この形式でのイチゴ栽培は栃木県での独自な優位性の高いものと考えられます。

 

イチゴ栽培と品種(とちあいかの登場)

 

栃木県は県の農業試験場の1部門として、イチゴ研究に特化したいちご研究所を栃木市に平成20年(2008年)に開設しました。そこでは、とちおとめの後継となる品種の育成や、栽培技術などの新技術の開発、および消費動向などの調査・分析や、研修などが行われており、イチゴに関する総合的な研究開発拠点として位置付けられています文献2)

 

いちご研究所での近年の成果として、新品種とちあいかの育成があげられます。とちあいかの特徴として、消費者や流通のニーズに合う果実品質(糖度や硬さ)の他、収量性、耐病性の高さにより、栽培がしやすく高い収量が望めることがあります。そのため従来品種のとちおとめに対し急速に置き換りが進んでおり、日本農業新聞の記事によると令和5年の総作付面積ではとちあいかがすでに半分を越えています文献3)

 

とちあいかは、平成30年に栃木i37号として栃木県により品種登録出願公表がされました。とちあいかの特徴は文献4)に詳細に記載されています。例えば優れた収量性として、収穫開始がとちおとめより早く総収量は 2~3 割程度多くなり、1果重は約20gでとちおとめの約15gよりも大きくパック詰め作業労力が軽減される、としています。また優れた栽培性として、草勢は旺盛で厳寒期にも低下しにくく、重要病害の萎黄病への耐病性はとちおとめより高く炭疽病に対する耐病性もやや高いため作りやすいと考えられる、としています。こうした特徴はイチゴ生産者にも強いメリットとして伝わり、急速な普及が進んだ要因と考えられます。なお栃木県では新品種の普及にともなう新たな技術情報の提供や指導態勢の強化にも取り組んでいます文献5)

今後の展開

 

栃木県では、令和5年度の新規自営就農者数234名のうち31.2%がイチゴ栽培を志向しています文献6)。これにはイチゴ栽培に経営的な魅力が高いことも要因と考えられますが、新規就農者を支える体制の整備も進められています。具体的には、前述のいちご研究所における技術研修会の開催、またいちご経営者育成のための専門学科の栃木県農業大学校での設置文献7)など、専門的な人材育成が行われています。近年、栃木県内では経営規模が1haを超えるイチゴ生産の経営体が出現しており、こうした大規模経営や企業的経営の手法などについても学ぶ場にもなっていると考えられます。

 

以上のように栃木県のイチゴ栽培は、環境、施設、コスト、品種、人材育成など多様な面での優位性を持ち、今後も発展が期待されています。

導入事例:栃木県のイチゴ栽培でのゼロアグリユーザー

 

小林いちご農園様(栃木県佐野市・イチゴ)|世界で評価される最高品質のスカイベリーを作りたい、GGAP認証農場で、潅水施肥の記録を省力化、ゼロアグリブログ

 

赤羽いちご園様(宇都宮市)文献8)では、ハウス10棟(60a)の潅水施肥をゼロアグリで管理しています。同農園でのGLOBAL. G.A.P.やイチゴ輸出の取組み、減農薬栽培や衛生管理の取組みについては、文献9)で紹介されています。

参考文献

1)とちぎの気候~寒暖差が大きい内陸性気候~、栃木県

2)栃木県農業試験場いちご研究所WEBサイト

3)「とちおとめ」→「とちあいか」 〝王国〟栃木でイチゴ面積の首位交代、日本農業新聞 2023年11月6日

4)試験研究:いちご新品種「栃木 i37 号」の育成、栃木県農業試験場いちご研究所ニュースレター 第5号(2019)

5)いちご「とちあいか」導入推進(上都賀地域)、令和5(2023)年度版栃木県農業白書 重点戦略2 強みを伸ばす

6)県内のいちご新規就農者推移、栃木県農業試験場いちご研究所

7)日本初 いちご学科、栃木県農業大学校WEBサイト

8)赤羽いちご園WEBサイト

9)大規模イチゴ栽培での GLOBAL G.A.P. 取得と生産性向上の取り組み、「スマートグリーンハウス転換の手引き ~導入のポイントと優良事例~」、日本施設園芸協会(2024)

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