所在地:栃木県佐野市
栽培作物:イチゴ
規模:農場全体92a(うち32aのハウス+育苗施設にゼロアグリを導入)
経営体:家族経営+パートさん(10名)
ー自己紹介をお願いします!
小林です。祖父の代からイチゴ栽培をやっています。僕自身は学生の時は建築を学んでいたんですが、家業としてやってきたイチゴ栽培を絶やしたくない、という思いで大学を卒業してからすぐに就農をしました。
ーイチゴの品種はどういったものを育てているのですか?
スカイベリーやとちおとめ、とちあいか、ミルキーベリーなどの栃木の品種を中心に育てています。とちあいかは1年くらい前にできた比較的新しい栃木県の品種なんですけど、とちおとめに比べると比較的大粒で、栽培や収穫しやすいのもあって最近作る生産者も増えています。形も綺麗で、果実硬度が高く、病気にも比較的強いので、とても優秀ですね。
スカイベリーは逆に作る生産者の方が減ってきていて、収量は比較的とれるんですが、高級ブランドとして位置付けされているので、選別不良で出荷できないロスがどうしても多くなりやすいという欠点があります。
ちょうどゼロアグリをいれているこのハウス(32a)では、スカイベリーを育てていて、味に波が出やすかったりするのもあり、安定的に作れるようになりたいと日々試行錯誤しています。
ー農場の設備について教えてください
このハウスの施工はイノチオアグリ(株)さんに全部やってもらったんですが、高設ベッドも特注で作ってもらいました。ベッドは発泡スチロールで覆われていて、中にシートが入っています。発泡スチロールがあることによって断熱性があるので、外気温から守ってくれたり地温の確保ができます。夏場の閉め切りでハウス内の温度が50-60度くらいになることもあるので、中のシートが劣化しやすかったり破れたりするんですが、高設栽培を始めて15-16年たっても中の培地を変えずに栽培し続けられていますね。
あとは、高設ベッドの高さにもこだわっていて、95センチになっています。これによってちょうど腰の高さで作業ができて、作業性が良いので、効率化につながります。
培地は、高設栽培用にピートモスやココピートなどいろんなものを混ぜて使っています。
ゼロアグリをいれていない高設のハウスがもう1つあるんですが、そこは(株)誠和さんの「水耕名人たくみくん」というタイマー潅水を使っています。
ーゼロアグリを知ったきっかけは何ですか?
茨城県の鉾田市でイチゴ栽培をやっている村田農園(※)の村田さんに教えてもらったのがきっかけです。
(※村田農園様には、ゼロアグリ発売初期よりゼロアグリを活用していただいており、
現在はお弟子さんの圃場に設置中)
2020年にJA佐野でやっている産地パワーアップ事業の低コストハウス構築の枠組みの中で、ハウスも新しく立てて、潅水設備はゼロアグリということで導入をしました。
ーゼロアグリを使ってみて良かったことは何ですか?
潅水と施肥の記録がきちんと残せるのが魅力ですね。ここの圃場はGLOBALG.A.P.をとっていて、潅水と施肥の記録を残さなければいけないんですが、これまでは全部手計算したものを毎日記録していました。潅水は1日何回やったかという情報を元に計算して、施肥は実際どれくらい吸っているかわからないので、タンクの交換時期を見て計算したりしていました。
そこの計算をゼロアグリが全部自動でやってくれるので、かなり楽になりましたね。ゼロアグリのように、潅水データや株ごとの施肥量等を自動で出してくれる仕組みは他にないんじゃないでしょうか。
ー省力化の観点だといかがですか?
冬でも1日に潅水は5回くらいやっていて、春先だと10回ほどになります。それをもし4系統あったら毎回バルブの開け閉めすると1日終わってしまうので、それを自動化できるというのは有り難いですね。
あと何より、夏場の育苗の自動潅水ができるのが大きいです。うちの圃場ではだいたい6万株くらい育苗をしているのですが、夏場の朝6時くらいにゼロアグリが自動潅水をしてくれるようになっていて、普通に自分でやると3時間くらいかかるのが、2系統で各5分ずつくらいで終わるので、本当に助かっています。
育苗で頭上潅水だと病気が広がりやすかったりするので、底面潅水が良いと思っているんですけど、そういう意味で点滴チューブでゼロアグリのような自動潅水システムを活用するのは有用だと思います。
育苗中の管理によって、そのあとのイチゴの品質がほぼ決まると思っているので、ここも神経を使ってやってますね。
ー使う中でのこだわりはありますか?
液肥混入については、ppmで濃度を設定するのではなく、全部マニュアルで設定しています。自動にしてしまうと流す液肥の量が一定じゃなくなってしまうのとAIが勝手に判断してしまうので、自分の判断で一株にどれだけの肥料やる、といったことを自分で管理、設定しています。
例えばトマトは、ECが1.0から4.0の範囲でも管理が可能なのですが、イチゴは0.8〜1.2の間で行き来しています。なのでECが0.1変わるだけでも、大きく作物の味や出来に影響します。そこの微妙な世界の中でいつも戦っています(笑)もちろん、土だともう少し許容度は上がると思いますが。高設は培地も土に比べると1/10くらいなので、影響が大きく出やすく、より気をつける必要があります。
上記の話含め、いまの管理が作物の全部に影響してくると思っています。今あげた水が、実を肥大させていたり、養分を蓄えたり、葉っぱを展開させたり、次なる実の赤ちゃんを育てたり、作物のタイミングに合わせた優先順位で配分されていきます。その優先度を頭の中で計算をしながら、潅水や施肥をしていく必要があると思っています。
ーゼロアグリに要望することや意見はありますか?
機能的な話というより、よりゼロアグリが農業界に浸透していくために、という観点での意見なのですが、ゼロアグリは潅水装置、というより「制御盤」という意味合いの方が強いと思っています。ただの潅水設備、というと既に持っているとなるので、そうではなくて「自動制御」ができる仕組みだということをもっと推していった方が良いのではと思います。どういった潅水装置や設備と組み合わせて使えるかといった具体的な事例がもっとあると、生産者の方にもより伝わりやすいんじゃないでしょうか。
ー現状の栽培の中で、直近の目標はありますか?
ここのハウスで育てているスカイベリーは2作目で、日々の管理の結果、選別不良などのロスは減ってきているので、次は品質を極めていきたいと思っています。スカイベリーは栽培の難しさはあれど、めちゃくちゃポテンシャルが高くて世界に誇れるイチゴだと思っているので、自信持っていろんな所に出せるまで味を極めたいですね。
実は宇都宮大学の先生と一緒にやった取り組みで、ここの圃場で育てたスカイベリーを世界の品評会(ITQI:食品のミシュランと言われる品評会)に出したこともあります。2018年に世界で初めてイチゴで3つ星をとって、3年連続でとりました。ファーストインプレッション、見た目、香り、味、食感の5項目で評価をされて、90点以上じゃないと3つ星がとれないんですよね。
ー販売を今後拡大していく予定はあるんですか?
現状は市場出荷で、いずれは販売先や取引先を見つけたりしていきたいとは思っていますが、今ではないと思っています。自分のイチゴに対して「まだまだこんなんじゃ」という思いが強くて、まずは優先順位的には味を極めることだったり、もっとやることがあると思っています。さっきの品評会の話でいうと、3つ星をいつでもとれるような状態にもしないといけないなと思っています。
ー今後実現したいことはありますか?
この農場や農業自体が続いていくように、持続可能な農業の仕組みを自らの栽培を通して実現していきたいですね。GLOBALG.A.P.取得もその一環なんですが、これまでの農業の慣習を当たり前とせず、生産者自らが意識を変えていくことが必要だなと思います。最近で言うとコロナで手洗いが重要になっていると思いますが、それこそいちごは消費者が直接触って口にいれるものなので、きちんと手洗いを意識したりとか、農薬の使い方とか、大事じゃないですか。それで親とぶつかったりもするんですけど、「今までやってたから」というのは言い訳にはならなくて、これからどうしていくか、ということが大事だと思っています。
今はまだ家族経営で、この規模でも10人という少人数で回しているんですけど、法人化に向けて仕組み作りもきちんと整えていきたいですね。
あとは地域の誇りや、人と人とのつながり、誰かのための居場所を意識しながら、イチゴを通して、ここで働いている人や食べてくれる人が喜んでもらえるような輪をもっと広げていきたいと思っています。