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栽培の振り返りと次作への準備について

本ブログでは、作物や栽培に関すること、施設や設備に関すること、潅水と施肥に関することなど、広くテーマを扱ってきました。今回は視点を少し変え、栽培について振り返ることや次作への準備をテーマに取り上げてみます。時には立ち止まって、現在の状況や次の一手について考えることも大切だと思います。

日常での栽培の振り返り

最近の農業や施設園芸では、従来よりPDCAのサイクルを早く回すようになって来ました。これは様々な形で見える化が行われ、現状の把握と改善を短期間で行えるようになっているためです。以下に日常的なデータにもとづく振り返りについて整理しました。

PDCAサイクル

環境モニタリングと生育調査による見える化

栽培においても、施設園芸では各種の環境モニタリング装置やセンサー類によって環境計測は安価で手軽にでき、また計測データの集計もクラウドサービスやスマホアプリを使い、手元で簡単にできるようになっています。ゼロアグリもそうした便利なツールの一つと言えます。また果菜類を中心に、生育調査の手法が確立されており、生育状態のデータ化と見える化が一般的になっています。従来は試験研究機関が栽培試験データを高価な機器などを使い収集・分析していたようなことを、生産者が自分の圃場で簡易にやり出したと言えるでしょう。

ゼロアグリ制御盤とモニタリング画面

ウィークリーレポートによる様々なデータの振り返り

環境データと生育データが揃い、その他に収量や品質などのアウトプットに当たるデータや、肥料や潅水など水分管理に関するデータがあれば、日常的な栽培の振り返りを定量的に進めることができるでしょう。果菜類の施設栽培では、1週間単位でこれらを整理して週間レポート(ウイークリーレポート)としてまとめ、次週の管理の方針や改善点などを検討するたたき台とする考え方があります。宮城県では全国に先駆けてウイークリーレポートの様式や利用法を整備し、公開しています(参考文献1))。最近では、環境モニタリング用のスマホアプリにも、生育調査の結果を入力する機能が搭載される例もあり、より身近になっています。

バランスシートを用いた栽培の振り返り

振り返りの結果から次の一手をどうするか?を考える必要があります。今の生育状態に対して理想の生育状態を想定して、より理想に近づけるような管理へと改善する考え方があります。トマト栽培では生育バランスシートとよばれるチャートの利用が盛んです。チャートでは、横軸に栄養成長と生殖成長の程度を表す値として生長点から第1花房までの距離を、縦軸に樹勢を表す値として茎径をとり、毎週の値をプロットします。あらかじめ理想とする状態(茎径、生長点から第1花房までの距離ともに)を決め、チャートの交点(中心点)に定めます。プロットした位置から中心点が離れていれば、次週により近づけるような管理を、温度調整などにより行います。チャートの書き方や具体的な調整の考え方は神奈川県によるものが公開(参考文献2))されていますので、ご覧いただければと思います。

植物のバランスシート 
岐阜県農政部「今月の技術と経営」第539号より

こうした見える化と改善の手法は、栽培を振り返るにはたいへん分かりやすく、導入もしやすいと思います。一方で理想とする状態をどのように決めるのか、生育調査を行う植物をどのように選ぶかなど、試行錯誤が必要な面もあるようです。またトマトより生長が早いキュウリの場合、摘心を繰り返すナスの場合、株元から新しい花房が発生するイチゴの場合などでは、またトマトとは別の生育調査の手法も考案されつつあります。

次作への準備

施設園芸の栽培では、農閑期をはさんで、撤去、片づけ、土壌消毒、定植準備などの作業が行われます。定植までに次作の苗の準備が必要になり、また前作を振り返りながら次作の方向を最終的に決めたり、機器設備の修繕や更新、新規導入などを行うタイミングになります。

品種選定と苗の準備

そして新しく定植が行われ次作が開始されますが、次作をどのような形で行うかは、苗の育成や手配の都合もあるため数カ月から半年ほど前には決める必要があるでしょう。そこでは品種の選定(接ぎ木であれば台木も)、苗姿の選定(苗のサイズやポットの種類、接ぎ木の有無など)、株間や畝間などのレイアウトと栽植密度(株/㎡など)、及び必要な苗本数といった苗に関することが、まずあげられます。

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品種の選定では、圃場の一部の畝に試験品種を栽培しながら生育や収穫の様子を確認し、次作の品種選定の参考とする方法がよく用いられています。自分でそれができない場合には、近隣の圃場での試験栽培や品種選定を参考にすることもあると思います。種苗会社の勧めなどもあると思いますが、必ず試験栽培や実際の栽培の状況を確認し、自分の圃場での適性もなるべく把握してから新しい品種の導入を行うのが良いでしょう。

その他、作物の仕立て方、誘引方法など、次作に変わる際に変更する場合もあります。キュウリであれば、摘心栽培とつるおろし栽培、更新栽培などがあり、誘引位置の調整が必要な場合もあります。

前作の振り返りと次作の方向性の検討

始めの「日常での栽培の振り返り」であげた日常での栽培の振り返りの他に、前作を通しての振り返りも重要です。当初の目標に対し、収量や販売額が達成できたか、かかった経費はどれだけで、得られた利益はどの程度かなど、数字として把握し残すことが多くあるでしょう。これらは前作全体での結果になりますが、期間別に収量、販売額、経費、利益などを分割して整理することも重要です。収量や販売単価は常に変動するもので、経費も暖房用の光熱費を中心に季節性があります。月別などで集計することで、どの時期に収益が得られ、どの時期に費用がかかっているかなど、つかむことができるでしょう。原材料費や光熱費等の高騰が続く中で、生産と販売、加温と環境制御など、どこにポイントを置いて収益性を高めるべきか、前作を振り返りながら次作に向けて改めて方向性を検討する時期と言えます。

設備の新規導入と補修

施設園芸での設備投資には、大きなものではハウスの新設や増築があります。これには土地の取得、設備設計、販売計画や経営計画の策定、補助金申請など、数年をかけて行う必要があります。

ハウス工事以外の設備投資として、フィルムやカーテンの張替えや補修、機器類の補修、新規設備の導入などがあります。フィルムの張替えは、寿命や光線透過率の低下により判断することになりますが、メンテナンスも大切です。農閑期などに高圧洗浄やブラシでフィルムに付着した汚れを除去し、透過率を維持することも重要ですが、人手を集めて集中的に行う必要があるでしょう。フィルムの張替え作業は近年は外注することが多くなりましたが、自前で張替えを行う生産者の方もいらっしゃいます。九州のある産地では、数年に1度のPOフィルムの張替えを自分たちで計画的に行うよう、農閑期に生産者が集まりハウスを回りながら作業を行っています。

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機器類の補修については、日常の点検の他に、年1回での暖房機の点検・掃除、換気装置や開閉装置の点検、配管や電磁弁の点検・掃除、それらに伴う部品交換や修繕があげられます。これらも日常点検と同様に、年1回の点検チェックリストを用意して、的確にもれなく行うことをお勧めいたします。

新規設備の導入については、近年では環境モニタリング装置やCO2発生装置、環境制御装置など、環境制御技術に関連する機器設備の導入が盛んに行われ、関係する補助金も自治体によっては組まれることもあるようです。これらの設備は導入して即効果が現れるものではなく、使い方やデータの活用のしかたによって効果は大きく変わるものです。活用事例などを事前に調べながら導入を進めるべきかもしれません。また養液土耕や養液栽培に関する給液装置や制御装置、潅水設備類の導入についても同様です。本ブログではゼロアグリの様々な導入事例を公開していますので、参考にしていただければと思います。

ゼロアグリ
定植直後のキュウリとゼロアグリ

経営の振り返り

以上のように栽培面や販売面を振り返りながら、次作への準備も行い、設備等の修繕や新規導入を進めるような年間のサイクルが、経営体ごとにあると思います。その一方で、経営の振り返りが法人経営であれば決算、個人経営であれば確定申告の時期に行われることでしょう。栽培や販売を行い、その利益を積み立てたり、補助金や融資など外部資金も利用しながら次の設備投資や運転資金確保を行うのが実際の経営の姿であると思います。様々な要素について振り返りと改善を続け、経営を向上することが求められるでしょう。経営の振り返りについては、また機会がありましたら触れたいと思います。

参考文献

  1. 環境測定値活用のための環境データ自動計算シート」、宮城県「普及に移す技術」第92号(平成28年度) 
  2. 施設栽培で収量や品質を向上させたい方へ」、かながわスマート農業普及推進協議会
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