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マルハナバチの利用について

本記事では、トマトやイチゴなどの果菜類で花粉交配用に利用されているマルハナバチについて、その概要と利用のポイントなどをお伝えします。

マルハナバチとは

農業技術事典 NAROPEDIAには、マルハナバチについて「ミツバチ科(Apidae)マルハナバチ亜科(Bombinae)に属し、マルハナバチ属(Bombus)に含まれるハナバチを示し、大部分は一年生社会性昆虫である。自然界における重要なポリネーターとして知られ、わが国には野生種15種が記載されている。」とあります。

ポリネーターとは、花粉媒介昆虫または受粉昆虫のことです。またハナバチの仲間は花粉や蜜をエサにし生息します。こうした性質を利用し、園芸作物の生産に欠かせない受粉にマルハナバチが利用されています。

NAROPEDIAには、ヨーロッパ産のマルハナバチ(セイヨウオオマルハナバチ)について、「1970年にベルギーにおける研究でコロニー(群)の周年生産に成功」したこと、「1991年にわが国に、主にトマトのポリネーターとして試験的に導入」されたことをあげています。野生種であったマルハナバチのコロニーが人為的に生産されるようになり、我が国でも20世紀の終わり頃から利用され始めました。

またNAROPEDIAには、施設園芸におけるマルハナバチの特徴がいくつかあげられています。

・振動受粉を行うこと。

・訪花活動において紫外線の影響を余り受けないこと。

・コロニーの働き蜂が100個体未満と扱いやすいこと。

・授粉に利用できる成熟コロニーの期間は1~2カ月と短いこと。

・その後コロニーは自然崩壊し管理しやすいこと。

ホルモン処理やバイブレータなどによる人為的な受粉に代わり、マルハナバチの訪花活動と振動受粉(雄しべの葯を噛んでつかまり、体を振動させ花粉を取り出すことによる)によって、省力的に受粉が可能となりました。被覆資材により紫外線の透過率も異なるハウス内での利用しやすいこと、また比較的小規模なコロニーを導入し、短期間に繰り返す簡便な利用も可能となっています。

トマト栽培で利用されるクロマルハナバチの巣箱

マルハナバチの利用は国内ではトマトで多くみられます。トマトでは受粉の省力化の他に、果実品質の向上効果も期待できます。これは受粉によって種子が形成され、種子をつつむゼリー層も発達、空洞果となりにくく、果形や果重も向上するためです。トマト施設栽培でのマルハナバチ利用のポイントについて、以下にご紹介します。

トマト施設栽培でのマルハナバチ利用のポイント

花粉稔性について

マルハナバチによる受粉を成功させるには、花粉そのものが良い状態にあること、すなわち花粉が発芽しやすい状態(花粉稔性)が求められます

花粉稔性について文献2)では、「稔性花粉重量と開花6〜10日前の日平均気温との間に強い負の相関関係が認められた」とあり、マルハナバチによる受粉着果率を60%以上にするよう「開花6〜10日前のハウス内の平均気温が概ね28℃以下の時期および地域でマルハナの利用が可能と考えられた」としています。施設トマト栽培では、ハウス内の平均気温を28℃以下に抑える必要があることになります。高温期には夜温の低下を期待しつつ、昼間もハウス内の温度上昇を抑制する必要があるでしょう。また限界を超える場合には、ホルモン処理などに切り替える必要があります。

また夜温についても、花粉稔性の下限の温度があり、大玉トマトで10℃以上と言われています。ミニトマトは大玉トマトより下限温度が高い傾向にありますが、品種による違いもあります。

花粉の状態の他に、マルハナバチ自体の活動についても注意が必要です。ひとつはマルハナバチの活用が抑制されないような高温対策で、巣箱に直射が当たらないようにすることで日よけが必要になります。また猛暑時などの利用では専用の空調機器を用いることもあります。

バイトマークについて

また活動状況のモニタリングには、葯の噛み跡を確認する方法があります。この噛み跡はバイトマークと呼ばれ、噛んだ跡が褐変するもので、ハウス全体にバイトマークが分布していることを確認する必要があります。部分的にバイトマークが少ない場合などには、巣箱を追加する必要があるでしょう。またバイトマークが濃くついている場合には、マルハナバチの数に対しエサとなる花粉の量が不足していると考えられます。その場合には乾燥花粉や糖蜜などをエサとして与えたりします。

巣箱の交換について

マルハナバチの巣箱の寿命は1.5~2月程度で、順次交換する必要があります。ハウス全体でのバイトマークを確認し、少なくなっている場合には交換のタイミングかもしれません。ただしトマトの樹勢低下や、温度変化による花粉稔性の低下の影響もバイトマークの減少につながるため、それらの状況と合せて判断する必要があります。なお交換時期と判断して新しい巣箱を注文しても、納品まで時間を要することもあるため、定期的な交換や早目の交換も必要となるでしょう。

マルハナバチの種類と利用における国の施策

国内ではポリネーターとして、ヨーロッパ産のセイヨウオオマルハナバチが当初より利用されていました。しかしセイヨウオオマルハナバチは特定外来生物として国内在来のマルハナバチの生態への影響が危惧され、現在は利用規制がされています。また代替のマルハナバチとして、国内在来種であるクロマルハナバチなどがあり、それらへの転換利用が進められています。規制の詳細については。農林水産省のWebサイト「花粉交配用昆虫について」に記載されています。また同サイトには、このような記述があります。

「蜜蜂やマルハナバチは、イチゴやトマト、メロン等果菜類などの園芸作物生産における花粉交配の手段として用いられる等、省力化を図る上で欠かせないものとなっています。」そして、「蜜蜂等の花粉交配用昆虫の安定確保を図るため、養蜂等振興強化推進事業による支援のほか、花粉交配用蜜蜂の需給調整システムによる体制を整備しています。」とあり、マルハナバチの利用は施設園芸においても不可欠なものとして、様々な施策のもとに行われている現状があります。



参考文献

  1. 農研機構編著,マルハナバチ,農業技術事典
  2. 飛川 光治・石倉 聡夏,秋トマト雨除け栽培における花粉稔性からみたセイヨウオオマルハナバチの利用可能温度,岡山県農試研報26: 27 -29 (2008)
  3. 光畑雅宏,マルハナバチを使いこなす より元気に長く働いてもらうコツ (2018),農文協
  4. 花粉交配用昆虫について,農林水産省農産局園芸作物課
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