養液栽培による施設設置実面積は平成30年の農林水産省の調査では約1,927haで、園芸用施設全体(42,164ha)の約4.6%です。これは平成21年の1,741ha(全体(49,049ha)の3.5%)に対し約10.6%の増加となります。園芸用施設面積全体が毎年1%程度の減少傾向にあるなかで、養液栽培の面積は常に増加傾向となっています。
本記事では養液栽培の特徴について多面的に紹介するとともに、養液栽培と同様に導入が増えている養液土耕栽培の特徴も対比して紹介します。
養液栽培とは
養液栽培には、土壌のかわりに固形培地を用いる固形培地耕と、培地を用いない水耕があります。前者には用いる培地の種類によりロックウール栽培、ココピート栽培などがあり、後者には養液を与える方式により、たん液型水耕、NFT、噴霧耕などがあります。いずれも肥料分の含まれた培養液を植物に与えて栽培するものです。
養液栽培と一般の土耕栽培や養液土耕栽培との一番の違いは、土壌利用の有無であり、さらに様々な設備化や資材利用の有無もあります。それらは設備投資などのコストに跳ね返るものであり、養液栽培の導入においては投入コストと生産性や収益性の向上を見極める必要があります。以下に固形培地耕を中心に養液栽培の特徴を紹介します。
固形培地による養液栽培
固形培地耕には、前述のように培地の種類により分類され、玄武岩を原料とした人工培地のロックウールを用いるロックウール栽培と、ヤシガラを原料としたココピートを用いるココピート栽培が主要な方式です。他にも様々な培地が開発・利用されていますが、ここでは省きます。
ロックウール栽培でもココピート栽培でも、スラブと呼ばれるプラスティックフィルムで包装された培地の塊を用意し、栽培ベンチの上に等間隔で配置します。さらに植物の苗を植えたポットと呼ばれる直方体状の培地をスラブの上にこれも等間隔で置き、定植をします。潅水はオンラインドリッパーを呼ばれる点滴潅水用のノズルをポットに挿して行う方法が一般的です。
固形培地耕では、潅水は一般的に日射比例制御により行われ、少量多潅水となります。排液はスラブの下部から排出され、排液樋を通じて回収されます。回収後に排液を紫外線などで殺菌し肥料組成を調整して再利用する循環方式と、排液をそのまま系外(浸透マスや排水路など)へ排出するかけ流し方式があります。
固形培地耕とベンチ
固形培地耕では培地の設置や排液回収のため、勾配を持たせたベンチが必要となります。ベンチにはパイプで組み地面に設置するタイプと、ハウスのトラス構造から吊り下げるタイプ(ハンギングガター)があります。
またベンチは地面から数十cm~1m程度上方に設置されます。そのためベンチの下には空間が生じます。その空間に送風ダクトを配置して温風やCO2ガスを送ることもあります。
またイチゴの固形培地耕では作業性を重視した高設栽培が行われ、胸の高さ程のベンチを用います。
固形培地耕での潅水と施肥
固形培地耕では点滴チューブやオンラインドリッパーによる少量多潅水が基本となります。また自動潅水が行われ、一般的に日射比例制御が用いられますが、培地の重量を計測して水分量に応じた潅水を行う方法などもみられます。また排液を回収して排液量を計測することで排液率(潅水量に対する排液量の割合)を算出でき、潅水の目安にすることもできます。養液土耕栽培では排液回収と排液率の算出は困難となります。
養液栽培での施肥は液肥により行われます。液肥の成分には植物生育の必須要素(窒素、リン、カリウム、カルシウム、マグネシウム)の他、微量要素(マンガン、鉄、ホウ素、亜鉛、銅など)が必要となります。養液土耕栽培では土壌中に微量要素が存在することが多いため、必須要素の施肥が中心となりますが、養液栽培では微量要素も含め必要な成分をすべて与えます。
養液栽培のメリット
高い均一性
養液栽培ではロックウールなどの人工培地やココピートなどの加工された有機質培地を用いることで、均一な培地の物理性(保水性や排水性)を保つことができます。また潅水もオンラインドリッパーなどを用いることで、株ごとに一定量の均一な潅水を行うことができ、生育を均一化しやすいと言えます。養液土耕栽培では同一ハウス内でも土質が均一では無い場合があります。
水分コントロールのしやすさ
養液栽培では保水性と排水性のバランスがとれた培地を用い、日射比例による少量多潅水と組み合わせることで、培地内の水分率のコントロールが比較的容易となります。このことで植物にストレスを与えず生育を促すこともでき、また逆に水分ストレスを与えて生育を調節し、高糖度化などのテクニックを駆使することも可能です。
土壌病害や土壌消毒の回避
養液栽培では土壌を用いないことで、土中に生息するセンチュウなどによる病害を回避することが可能です。養液土耕栽培では太陽熱消毒や薬剤による土壌消毒が不可欠ですが、養液栽培では不要です。そのことで作替え期間(収穫終了から次の定植までの期間)を短縮することが可能で、収量アップが期待できます。
作業環境や衛生環境の向上
養液栽培では土壌消毒を行わないため、土壌表面にマルチや防草シートを常時敷設することができます。そのため清掃がしやすく、また白色マルチを敷設した場合には明るさと清潔感を保てます。畝間にも足場管パイプを固定して、その上を作業台車や収穫台車を走らせて作業性を高めることができます。最近は養液土耕栽培でも、脱着式となりますが同様に足場管パイプを設置して各種台車を走らせる例もみられます。
見える化やマニュアル化のしやすさ
養液栽培では上述のように潅水量と排液量から排液率を算出し、また培地内のECやpH、水分率などを計測することで、潅水や施肥に関するデータの見える化が容易です。そのことで作物や生育ステージに応じた潅水や施肥の方法もマニュアル化しやすいと言えます。養液土耕栽培では、ここまでの見える化は困難ですが、最近では土壌水分センサーやECセンサーを利用した見える化や潅水管理も行われています。
養液栽培のデメリット
コストの増加
養液栽培では栽培ベンチや給液装置などの設備と、オンラインドリッパー、培地などの資材が必要となります。これらのコストを回収するためには、養液土耕栽培に比べ高い収量や品質の実現と収益の確保が必要になります。栽培技術や販路が伴わない場合にはコスト回収が困難となり、経営継続に影響が出る場合もあります。
トラブルに対する弱点
養液栽培では養液土耕栽培では見られない様々なトラブルが発生することがあります。例えば台風などによる停電に対し潅水が停止して短時間で作物が萎れることがあります。養液土耕栽培では土壌中の水分により萎れることはありません。また機械のトラブルによって潅水や肥料成分に影響が出ることもあります。養液土耕栽培でも機械トラブルは起こりえますが、土壌のバッファー機能により影響が回避される場合もあります。
なお養液栽培では潅水の系統に何らかの病原菌や有害物質が混入した場合、その被害が圃場全体に広がるリスクがあります。これは養液土耕栽培にも当てはまることです。
空間利用効率の問題
養液栽培ではベンチにより作物の位置がかさ上げされる分、空間利用効率が低下しやすくなります。軒の低いハウスで養液栽培を行う場合には、作物が上方に伸びる空間に制約が生じ、栽培や作業に影響が出やすくなります。最近は軒の高いハウスで養液栽培を行う例が増えていますが、高い収量を期待できる一方でハウスの建設コストの増加にもつながっており、経営圧迫の要因になることもあります。
CO2供給の問題
養液栽培では土壌表面にマルチなどのシートを敷設することで、土壌微生物の呼吸により生じるCO2の供給を受けにくい問題があります。これは人為的にCO2を供給することで解決できますが、養液土耕栽培では土壌微生物の働きにより光合成の原料となるCO2が補給されるメリットがあると言えます。
養液栽培とゼロアグリ
ゼロアグリでは土耕栽培のメリットを活かしながら、AIを利用した潅水や施肥の制御によって養液栽培に近い水分や肥料分のコントロールが可能となります。例えば土壌水分センサーを組み合わせ、気象条件や土壌条件に応じて土壌水分量を安定させることが可能であり、水分ストレスを低減した潅水管理につながり作物の安定した生育が望めます。また施肥量オート調整機能を活用することで、養液栽培と同様に毎日の施肥量調整の自動化も可能です。
また排液流量計を用いた制御を導入することでココピートやロックウール培地へも対応可能となっており、多様な栽培方法に適用できます。
ゼロアグリは養液土耕栽培の様々なメリットを活かしながら、養液栽培のメリットを取り入れ、同時に土壌環境や水分管理の見える化も行える、低コストで新しい栽培の形と言えます。