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ハウスの台風対策について

気候変動の影響により台風の大型化が進み、また従来とは異なる進路を取ることも多くなり、全国各地で台風被害がみられるようになりました。西日本を中心とした台風常襲地域以外でも台風対策が求められます。また台風だけでなく線状降水帯などによる局所的な集中豪雨被害も、各地で発生しています。本記事では施設園芸分野で、台風による強風や大雨などへの対策、さらに停電など2次被害についての対策の概要をご紹介します。

一般的な台風対策の概要

強風に対する耐候性を設計基準とした鉄骨ハウスでは、その地域の最大風速や再現率(何年に1回発生するか)等をもとに設計がされます。最大風速35~50m/秒程度を想定したものが多く、通常の台風であれば耐えられる構造といえます。ただし想定以上の大型台風に対しては一部損壊が発生することがあり、また巨大台風となると大きな被害も予想されます。

台風の進路は事前にある程度は予測可能であり、進路や特に強風となりやすい進路の東側に当たる場合には事前の警戒と準備、補修など作業が必要になるでしょう。鉄骨ハウスの場合は、換気扇で排気し陰圧を掛け、ハウスや被覆資材が風圧で飛ばされないような対策をします。またドアのすき間、被覆資材のすき間や破れなど事前に補修し、密閉状態にする必要もあります。特に風上側の被覆資材の取付状態には注意が必要です。

その他、側窓や谷窓の巻上げパイプを固定し、さらにネットやマイカー線などでフィルムのバタつきを抑えることや、周囲で飛散しやすいものを片づけることドアの戸締りや防風ネットの破れの確認など、ポイントごとに点検も行うべきです。

台風当日には、見回り等は危険が伴うため十分気をつける必要があります。どうしても現場に行く場合にはヘルメットや手袋など危険作業を行う準備もすべきです。また台風通過後には晴天による温度上昇が起こりやすいため、固定部分などを解法し、すみやかに換気を行えるようにすべきです。

なお、大雨が予想される場合には、ハウス周辺の排水対策やハウス内への浸水対策も必要になります。排水路への排水が十分に行えるか、ハウスの裾張りフィルムや止水シートが破損していないかなど、確認する必要があります。

パイプハウスにおける強風被害と補強対策の概要

台風常襲地域の鉄骨ハウスや、近年の補助事業などで建設された耐候性ハウスは、十分な強度を持つものも多く、前記のような対策を取ることで被害の防止や軽減が可能になります。一方で簡易なパイプハウスの場合は、そもそも強風に対して構造的に弱いため、事前の補強対策も必要となります。近年では令和元年9月の台風19号により千葉県を中心としたパイプハウス等への甚大な被害が発生しています。千葉県では参考文献2)にあるような被害対策をまとめ、被害の再発防止を進めています。

同文献では、パイプハウスの強風被害についていくつかのパターンを明らかにし、事前の補強策も示していますので、概要をご紹介します。

風上側の肩部分から屋根にかけて押しつぶされた状態

 

風上からハウスの肩(アーチパイプの曲線部分)に風圧がかかって、アーチパイプそのものが押しつぶされ変形した状態になります。被覆資材の破れが無い場合には、被覆資材全体で受けた風圧がアーチ部分に集中してかかり、変形につながります。⇒事前対策:補強用の骨材(タイバーやクロス補強、2重アーチの追加、足場パイプによる側面補強など)の追加を行う。

 

下から吹きあがるようにパイプが変形

 

被覆資材に破れがあり、内部へ強風が吹き込んだ場合、ハウス全体を内部から押し上げる形になりアーチパイプが押し上げられ破損します。ハウスの妻面やドアから強風が吹き込んだ場合にも、同様な被害が発生します。⇒事前対策:ハウス内への吹込みを防止するよう、被覆資材の破れやドアの点検、被覆資材のパッカーやスプリングによる補強を行う。

 

妻面が奥行き方向に倒壊

 

妻面に強風による風圧がかかると、補強が無い場合にはアーチパイプが次々に奥行き方向へ将棋倒しとなり変形、破損します。⇒事前対策:筋交いによるハウス奥行き方向の補強を行う。

 

真上から屋根が押しつぶされたように陥没

 

周辺の地形や建築物の影響で風向きが変化し、ハウスの屋根面や中央部に風圧がかかり、アーチパイプが押しつぶされ、変形、破損します。⇒事前対策:補強用の太いアーチパイプを何か所かに追加設置する。防風ネットを風上側に追加設置する。

停電など2次被害と対策の概要

 

近年は、台風によるハウスや施設設備への直接的な被害の他に、停電や道路封鎖等による2次被害も注目されるようになりました。これは施設園芸の装備化が進み、特に天窓の自動開閉装置や自動潅水装置など、稼働に電力が必要な機器が増えているためです。台風一過でハウス内が高温となり、換気が必要になった際に停電が続いていると、換気ができず密閉状態によって作物が高温障害を受ける可能性があります。同様に潅水が長時間行えなければ、最悪の状況として作物が枯死することもあるでしょう。

 

こうした停電による2次被害の防止・軽減策として、非常用電源の設置や確保が言われるようになりました。小規模の施設であれば、小型のエンジン発電機があれば対応できるかもしれませんが、大型施設で三相200Vや一般の単相100Vなど様々な電源が必要な場合には、それぞれの非常用電源装置が必要になります。緊急時にレンタルが行えるよう、レンタル会社に事前に確保をしたり、補助金を活用するなどして大型の非常用電源装置を導入するケースもみられます。なお商用電源と非常用電源の切り替えには電気工事が伴うこともあり、専門業者が行う場合や、切り替え回路を準備し従業員が切り替えする場合もみられます。

非常用電源

今後の展開

ご紹介した台風対策は、停電等の2次被害対策も含め、施設園芸におけるBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の一環として、近年取り上げられるようになり、農林水産省や地方自治体の補助事業の対象となるケースもみられます。気候変動に伴う気象災害の大型化や広域化に対し、直接・間接の対策をBCPとして事前に準備し、また都度訓練や改善をはかることも、今後の施設園芸経営におけるリスクマネジメントとして重要な要素となるでしょう。



参考文献

  1. 施設園芸の台風、大雪等被害防止と早期復旧対策,農林水産省Webサイト
  2. 千葉県農業用ハウス災害被害防止マニュアル,千葉県農林水産部生産振興課 (2019)
  3. 自然災害等のリスクに備えるためのチェックリストと農業版BCP,農林水産省Webサイト
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