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高知県の施設園芸と野菜生産① ー施設野菜生産の概要ー

高知県の自然環境について、日銀高知支店の「統計でみる高知県のすがた」文献1)には、下記の記述があります。

「高知県は、北は四国山地で愛媛県と徳島県に接し、南は太平洋に面した東西に長い地形。面積は 7,103 ㎢(国土の 1.9%)と、47 都道府県中 18 番目に大きく(中略)、森林面積割合、年間日照時間および年間降水量は全国トップであるほか、年平均気温も全国上位の水準にあるなど、南国特有の温暖な気候に恵まれている。こうした豊かな自然環境が、第一次産業の比率の高さに繋がっている(後略)」

こうした環境を活かし、高知県では施設園芸が盛んであり、主要産業のひとつになっています。一方で同文献では「高知県の人口は67.6万人(2022年9月1日現在、高知県「高知県の推計人口」)であり、出生数の減少や若年層を中心とした県外流出により人口減少が続いている。全国に比べ、年少人口と生産年齢人口の比率が低い一方で、老年人口の比率が高く、全国に先駆ける形で少子高齢化も進んでいる。」とあります。そのため高知県では新規就農者の受け入れや育成、企業誘致などにも積極的に取り組まれています。

農林業センサスの調査結果文献2)による農産物販売金額1位の部門別経営体の構成比では、令和2年度には施設野菜28.4%で稲作の33.5%に次いでいます(全国では稲作55.5%、果樹類13.2%、露地野菜10.7%、施設野菜6.2%の順)。本記事では、全国的にみても施設園芸に注力している高知県農業の姿を野菜生産を中心にご紹介し、また今後の方向性などについても触れたいと思います。

高知県の施設園芸の面積と農家数

 

農林業センサスの調査結果より、2020年度では高知県の施設面積は1,130haで、これは全国の施設面積の3.4%になります。15年前の2005年度の調査では1,652haあり、この当時に比べ約31.5%の面積減少となります。同調査結果の施設園芸農家数については、2020年度に4,143で、これは全国の3.0%になります。2005年の調査では6,504あり、この当時に比べ26.3%の減少となります。2005年からの15年間で、面積、農家数とも3割前後と大きく減少したと言えます。また、これらの数値より、施設園芸農家1人(戸)当たりの施設面積は、2020年度では27.3a、2015年度では25.4aとなり、経営規模は少し拡大していることがわかります。

これらの数値を市町村別文献3)にみますと、まず面積では高知市が160.9ha、香南市が159.5ha、安芸市が133.2ha、須崎市が101.1ha、香美市が83.8ha、南国市が77.7ha、芸西村が66.6ha、四万十町が56.8ha、黒潮町が31.7haとあり、いずれも太平洋に面した市町村になります。また経営体数(1経営体当たり面積)は、高知市が570(28.2a)、香南市が533(29.9a)、安芸市が522(25.5a)、須崎市が312(32.4a)、香美市が238(35.2a)、南国市が342(22.7a)、芸西村が226(29.2a)、四万十町が202(28.1a)、黒潮町が103(30.8a)となり、経営規模は県全体での27.3aに対して市町村によりばらつきがみられます。

高知県の主要施設野菜

 

高知県内の農業振興センター調べによる推計値として、主要品目の県内産地について示されています文献2)。そこでの主要品目(県内累計面積、産地)として、ナス(256ha、安芸市、芸西村など)、ニラ(246ha、香南市、香美市、四万十町)、キュウリ(117ha、高知市、須崎市、黒潮町)、ミョウガ(106ha、須崎市、四万十町など)、オクラ(92ha、香南市、香美市、南国市)、ピーマン(69ha、土佐市、芸西村、安芸市)、シシトウ(39ha、南国市、須崎市など)があげられています。ナスとニラが面積的に施設野菜の2大品目で、キュウリ、ミョウガ、オクラ、ピーマン、シシトウが、それらに次いでいます。

 

これら施設野菜の産出額と全国の順位および構成比については、ナスが141億円(1位、12.7%)、ミョウガが89億円(1位、8.0%)、ニラが82億円(1位、7.4%)、キュウリが79億円(6位、7.1%)、ピーマンが53億円(4位、4.8%)、シシトウが29億円(1位、2.6%)などとなっています文献2)ナス、ミョウガ、ニラ、シシトウが産出額全国トップの品目となります

 

またこれら産出額全国トップの施設野菜について、作付面積、単収、出荷量を2020年と2005年(カッコ内)とで比べると、ナスが318ha(409ha)12.5t/10a(9.6t/10a)、37,200t(37,600t)、ミョウガが106ha(143ha)、4.8t/10a(3.3t/10a)、4,741t(4,500t)、ニラが246ha(196ha)、5.6t/10a(6.0t/10a)、13,200t(11,300t)、シシトウが48ha(91ha)、4.9t/10a(5.2t/10a)、2,210t(4,390t)となります(高知農林水産統計年報、高知県の農畜産物(高知県拠点発行)および農林水産省作物統計調査、高知県農業振興部調べ推定値による文献2))。ナスとミョウガは作付面積の減少に対し、単収増により出荷量を維持しており、ニラは作付面積と出荷量がともに増加しています。こうした点が産出額全国トップの施設野菜の特徴になると考えられます。

高知県での新規就農者の育成について

 

高知県の新規就農者数(雇用就農を含む)は、平成22年から令和2年にかけて、毎年約200名~270名程度となり、うち県外出身者も15名~40名程度となっています文献2)。これらの内訳は不明ですが、相当の割合が施設園芸で就農しているものと考えられます。若者の減少と高齢化が急速に進む高知県では、こうした新規就農者の確保と育成が施設園芸分野でも重要なテーマとなっています。そのため、育成のための研修施設やカリキュラムも整備され、研修後の現地での受け入れ体制も整備されています。なお文献4)には「25年度に、産地の全農家を対象とした営農意向調査を実施したところ、現在と同規模の農業生産を維持するためには、県全体で、年間280名の新規就農者を確保していくことが必要であることが明らかとなった。」とあり、必要とされる新規就農者数に近い人数の確保がされていることも伺えます。

 

高知県の新規就農者育成のための施設として、四万十町にある県立の農業担い手育成センターがあります。この施設は、平成26年4月に開設されました。同センターウェブサイト文献5)によると、「当担い手センターは、U・Iターン等の就農希望者や親元就農した後継者が、就農に必要な基礎的な知識・技術の習得を目的に、講座をはじめ施設野菜を中心とした栽培実習及び農業機械の操作等実践的な研修ができる施設です。(中略)高軒高ハウスやAPハウスには、炭酸ガス施用装置や日射比例灌水装置、環境モニタリングシステム等の機器が整備されており、農家の所得向上を目指して高知県が取り組んでいる先進技術「環境制御技術」等の先進技術の研修が可能です。」とあります。実際の現場に近いハウスや栽培設備の中で、最新の技術を学ぶ場として多くの就農希望者の受け入れと研修が行われています。

 

同センターでは、研修生の就農希望産地での短期研修などによる産地とのマッチングや、移住の支援も行っています。また産地側では同センターとも連携しながら、独自の支援が行われています。施設ナスの産地である安芸市では、受入れ農家での実践研修や、就農後の支援として、JAのサポートハウスと、安芸市サポートハウスを整備(いずれも最長2年貸付)しています文献6)こうした県、自治体、JAが一体となった新規就農者の受入れ、育成の体制は全国的にも珍しく先進的な取り組みと考えられます

参考文献

1)統計でみる高知県のすがた 2022年11月、日本銀行高知支店

2)高知県農業の動向(令和5年度)、高知県農業振興部

3)土地 統計表2022 – 121-142[XLSX:204KB]、「高知県の農林業」2020年農林業センサス結果 農林業経営体調査の概要、高知県統計分析課

4)岡林俊宏、オランダとの技術交流を生かした、高知県の次世代施設園芸と後継者育成、調査・報告(野菜情報 2015年1月号)

5)高知県立農業担い手育成センターの概要、こうち農業ネット: 2023/04/07

6)安芸市 (高知県)本気の就農応援します、産地提案書(令和2年3月改定)、安芸市担い手支援協議会

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