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被覆資材の種類と張り替えについて

施設園芸は、プラスチックフィルムなどの被覆資材で覆われたハウス内で栽培を行うものです。簡易なトンネル栽培やマルチ栽培でも被覆資材を用いますが、これらは露地栽培に分類されます。施設園芸で用いられる被覆資材は多種多様であり、目的や用途に合わせ選定する必要があります。また被覆資材にはハウスの外側を覆う外張被覆資材と、ハウスの内部にカーテンとして用いる内張被覆資材があります。本記事では外張被覆資材を中心に、その選定に参考となるよう、種類や特徴と物理性、および必要な張り替えについて取り上げます。

外張被覆資材の種類と特徴

外張被覆資材には、軟質フィルムとして農ビ(農業用塩化ビニルフィルム)や農PO(農業用ポリオレフィン系特殊フィルム)があります。製品寿命は数年から長いもので10年程度のものもあります。また硬質フィルムとしてフッ素樹脂フィルムやポリエステルフィルムがあります。特にフッ素樹脂フィルムでは、15年以上の長寿命(実際はかなり長い年数の展張が行われている)がうたわれています。以下に軟質フィルムの農ビと農POの特徴について、ご紹介します。

農ビ

農ビの歴史は古く、戦後の塩化ビニルの農業への応用が施設園芸の発展の端緒となっています。農ビは、透明性が高く柔軟性もあり、保温性も高い特徴があります。ハウスへの展張は、止め材(スプリング)を用いながら、アーチパイプにバンド(マイカー線)を張って行います。また柔軟性によりハウスの密閉性も保ちやすく、降雹による穴開き被害も少ないという特徴もあります。

農ビは歴史的には毎年張り替える形から利用が始まっており、現在でも積雪地域や台風常襲地域などでは毎年張替えが行われています。また紫外線による劣化防止の素材を加えるなどで長寿命化もはかられ、毎年の張替えは不要の製品も多く発売されています。一般に農ビは表面のべたつきから汚れが付着しやすく、また重い特徴もあります。使用後は回収し、主にマテリアルリサイクル(床材など原材料として再利用)が行われています。

農PO

農POは、ポリオレフィン系樹脂を複層構造にしたものです。海外では外張被覆資材として用いられる農ポリ(農業用ポリエチレンフィルム、PE、国内ではマルチなどに用いられる)より保温性を改善しています。農POは軽く伸びにくく、バンドレスで展張を行います。そのため影も少なく採光性を高めることができます。一方で柔軟性が小さくキズがつき破れやすいと言われ、補修など留意が必要となります。

農POは軟質系フィルムでは現在の主流であり、通常の製品では4~5年程度での張替えが多く行われています。さらに長寿命化した製品もあり、丸屋根型だけでなく屋根型の鉄骨ハウスにおいても用いられています。使用後は回収し、主にサーマルリサイクル(工業用燃料として再利用)が行われています。

被覆資材の物理性

外張被覆資材の物理性には様々なものがありそれらに応じた多様な素材の商品が開発されています。代表的な物理性と選定についてご紹介します。

光線透過率

透明性を表すもので、農ビや農POで一般的に90%程度になります。またフッ素樹脂フィルムでは、それ以上の高い透明性を持っています。着色されたものや、梨地タイプ(散乱光タイプ)では、光線透過率は若干低下します。光合成促進のためには、なるべく高い光線透過率のものを選定するとともに、汚れや影にも留意する必要があります。

散乱光ビニール(宮田物産株式会社HPより)

保温性

一般に農ビは、他の被覆資材よりも保温性が高いと言われています。これは長波放射(赤外線)の吸収率が高いため、夜間のハウス内からハウス外への放射を抑制する効果があるためです。省エネ性も多少高い素材と言えます。農POも複層化された素材の間に赤外線吸収材を入れることで保温性を向上しています。

散光性

表面処理をした梨地タイプや光を屈折させる成分を配合した被覆資材では、太陽光が透過する際に屈折し散乱光となります。散乱光はハウス内に拡散し、ハウス骨材や谷部の影が薄くなる効果があります。また太陽光の入射角が低い冬期などには、背丈の高い作物の株元にまで散乱光が到達しやすくなります。いずれも光合成にプラスに働くと言われています。また夏期には強日射を散乱光にしてやわらげ、焼けの防止や高温障害の抑制効果なども期待されます。これらの効果を得るよう、梨地タイプや散乱光タイプの被覆資材を選定します。

梨地保温型 農POフィルム(みかど化工株式会社HPより)

流滴性

外張被覆資材では外気温が低下した際に内面結露が起こります。結露水が内面に付着し光を遮ったり、さらに病害の原因となる水滴落下を防ぐため、流滴性(無滴性、防曇性)の処理を行った製品が一般的です。処理は流滴剤を塗布したものと、素材に練り込んだものなどがあります。密閉期間の長い冬春期の栽培では流滴性は不可欠と言えます。

塗布無滴農POフィルム(三菱ケミカルアグリドリーム(株) HPより)

UVカット

外張被覆資材が太陽光の紫外線を吸収し、病害虫の抑制効果を狙う場合に選定します。UVカットによりミツバチの行動が抑制されたり、ナス等の果実の着色が抑制される場合もあるため、注意が必要です。

遮熱性

長波放射(赤外線)を反射する素材の被覆資材が開発され、高温期の栽培などに利用されています。

被覆資材の張り替え

外張被覆資材の張替えは、表面の汚れや紫外線などの影響により、光線透過率が低下したり劣化が進んだ場合に行われます。多くの製品には想定の製品寿命が示されていますが、使用状況や使用環境により実際の寿命も異なります。光線透過率の低下は収量の低下に直結するため、その際には早めに張替えを行うべきでしょう。また劣化は強風時のハウスの破損の要因にもなります。

最近は手間や人手不足から被覆資材の張替え作業を外部に委託することも多くなっています。また今でも協同作業として、部会メンバーなどで各戸のハウスを順に張り替えることが行われている産地もあります。さらにフッ素樹脂フィルムのように、長期間に張替えを要しない被覆資材もあります。また九州を中心に、台風シーズンが去ったあとに毎年新しい被覆資材を張り、翌夏の栽培終了後に被覆資材を撤去するサイクルを繰り返す産地もあります。

以上のような様々な要素とコストなども勘案して張替えを行うことになります。また外張被覆資材には長期展張タイプなど長寿命の材質のものもあり、初期コストはかかりますが、経年の張替えコストが安く済むため、選択するケースも多くみられます

なお、外張被覆資材の表面に汚れが付着している場合、ブラシ洗浄等で汚れを落とし、光線透過率を高めることも可能です。張り替えを行う前に定期的(1~数年に1回程度)に洗浄を行うことで、コスト削減も可能となるでしょう。



参考文献

川嶋浩樹、被覆資材の機能と特性、施設園芸・植物工場ハンドブック(日本施設園芸協会)

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