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みどりの食料システム戦略が描く将来と今後の動向

農林水産省では、SDGsや環境を重視する国内外の動きに対応し、持続可能な食料システムの構築に向けた長期戦略として「みどりの食料システム戦略(以下文中では、みどり戦略)」を策定しました。2050年に向けた非常に長い取り組みと言えますが、本記事ではみどり戦略が描く将来、および今後の動きについて化学肥料節減も踏まえお伝えします。

みどりの食料システム戦略とは

みどり戦略は令和3年5月に策定され、持続可能な食料システムの構築に向けた中長期的な観点からの環境負荷軽減のためのイノベーション推進戦略です。対象は食料・農林水産業の調達、生産、加工・流通、消費の各段階の取組とあり、消費者も含んだ広範なものと言えます。また目指す姿を2050年という25年以上先に置き、非常にスパンの長い戦略となっています。

みどりの食料システム戦略(概要) https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/meadri_summary.jpg

みどり戦略の背景に以下のことが示されています。

まず「我が国の食料・農林水産業が直面する持続可能性の課題」として、生産者の減少・高齢化、地域コミュニティの衰退、温暖化、大規模災害、コロナを契機としたサプライチェーン混乱、内食拡大をあげています。

また「今後重要性が増す地球環境問題と SDGs への対応」として、地球の限界を意味する「プラネタリー・バウンダリー」参考文献2)は、9つの項目のうち、気候変動、生物多様性、土地利用変化、窒素・リンの4項目で境界をすでに超えていることをあげています。またビジネス面から、持続可能性への取組が企業評価やESG投資等を行う上での重要な判断基準となりつつあること、特に食品企業では重視されていることをあげています。

以上の背景や欧米での環境対応の動向を踏まえ、みどり戦略では2050年までに目指す主な目標として下記を掲げています。

  • 農林水産業におけるCO2ゼロエミッション化の実現

  • 化学農薬の使用量(リスク換算)を50%低減

  • 輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料の使用量を30%低減

  • 有機農業の取組面積の割合を25%(1万ha)に拡大

他にも食品産業や林業、水産業における目標も掲げられています。いずれも高い目標と考えられ、中長期でのイノベーションへの取組が求められています。

施設園芸分野とみどりの食料システム戦略

みどり戦略において施設園芸分野では、2050年を起源としたいくつかの目標が設定されています。特に「化石燃料を使用しない施設への完全移行を目指す」という高い目標があり、同じく2050年までに「化学農薬使用量(リスク換算)の50%低減」や「輸入原料や化石燃料を原料とした化学肥料使用量の30%低減」が掲げられています。施設園芸分野での目標については、この3点をまず押さえる必要があるでしょう。

みどりの食料システム戦略(施設園芸分野の概要)https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/attach/pdf/index-52.pdf

また戦略的な取組方法として、研究開発で革新的な技術開発を進めながら、補助、投融資、税、制度等の政策的誘導手法に環境の観点を盛り込む「政策手法のグリーン化」で社会実装、とあります。前記の3つの目標の達成のため、補助金の申請などにグリーン化についての各種要件が今後課せられることも考えられるでしょう。また研究開発、技術開発についての集中的な投資も予想されるでしょう。

新たに設定された2030年目標

みどり戦略では、2050 年目標に加えて、2030 年目標が令和4年6月に新たに設定されています。そこでは数値目標は少し低く設定されており、また具体的な方策も示されています。施設園芸分野の3つの目標については、以下のようになります。

〇 2050 年:化石燃料を使用しない園芸施設への完全移行

2030 年:ヒートポンプ等の導入により、省エネルギーなハイブリッド型園芸施設を 50%にまで拡大

〇 2050 年:化学農薬使用量(リスク換算)を 50%低減

2030 年:化学農薬使用量(リスク換算)を 10%低減

(新規農薬の開発は少なくとも 10 年以上の時間がかかることから、当面の間、病害虫の総合防除の推進や有機農業の面的拡大等を推進)

〇 2050 年:化学肥料使用量を 30%低減

2030 年:化学肥料使用量を 20%低減

土壌診断等やデータを活用した省力・適正施肥といった施肥の効率化・スマート化の推進、家畜排せつ物等の利用拡大を推進

化学肥料については、2030年目標の設定について下記の資料が示されています。

「みどりの食料システム戦略」KPI2030年目標の設定についてhttps://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-55.pdf

ここでは、2030年は化学肥料原料の調達不安定化や国際市況の変動の中で、既存の技術をできるだけ活用して化学肥料の節減や国内資源の活用を可能な限り進める考え方を示しています。また当面の対応として、土壌診断による施肥の適正化作物の根圏部分にのみ施用する局所施肥作物の生育状況等を解析したセンシングデータに基づく追肥などにより、施肥の効率化・スマート化を推進、としています。養液土耕栽培による局所施肥や各種センシングやデータ分析による施肥も、対応策になると考えられるでしょう。

みどりの食料システム法と基盤確立事業実施計画の認定

みどり戦略の関連法として「環境と調和のとれた食料システムの確立のための環境負荷低減事業活動の促進等に関する法律(通称 みどりの食料システム法)」が令和4年4月に成立し、7月1日より施行されました。

同法については、「環境と調和のとれた食料システムの確立に関する基本理念等を定めるとともに、農林漁業に由来する環境への負荷の低減を図るために行う事業活動等に関する計画の認定制度を設けることにより、農林漁業及び食品産業の持続的な発展、環境への負荷の少ない健全な経済の発展等を図るものです。」とあります参考文献3)。そこでは計画認定制度が創設され、国の基本方針、都道府県・市町村の基本計画が策定、さらに環境負荷の低減を図る農林漁業者の取組の促進、新技術の提供を行う事業者の取組の促進が進められています。

 

ルートレック・ネットワークスでは、新技術の提供を行う事業者の取組として、環境負荷低減事業活動等の効果を高める等の基盤確立事業の認定を令和4年11月に受けています農林水産省のホームページには、下記の実施計画概要が公開されています。

株式会社ルートレック・ネットワークスの基盤確立事業実施計画の概要

今後の展開

  1. みどりの食料システム法の施行により、上記のような事業者による取組の他、環境負荷の低減を図る農林漁業者の取組の促進もされています。法律に基づく計画認定を受けると、日本政策金融公庫による無利子・低利融資、特別償却による税制特例、農業改良資金等の償還期間の延長、農地転用の許可や補助金交付財産の目的外使用の承認等の行政手続きのワンストップ化等の支援を受けることができます参考文献4)。このような支援、特例措置はみどり戦略の目標達成に向け、今後も拡大するものと思われます。

生産者や事業者は、どんな支援が受けられますか? 「みどりの食料システム法のポイント」より

参考文献

1)農林水産省,みどりの食料システム戦略トップページ

2)国立環境研究所,地球の限界 “プラネタリーバウンダリー” & 循環型社会,地球環境センターニュース 2020年12月号 Vol. 31 No. 9

3)農林水産省,みどりの食料システム法について

4)農林水産省,みどりの食料システム法のポイント

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