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高知県の施設園芸と野菜生産② ーIPMと環境制御技術の普及ー

高知県での施設園芸に関する技術開発や普及において、いくつかの特徴があります。本記事ではそれらのうち、IPM(Integlated Pest Management : 総合防除)、環境制御技術の普及について概要を紹介します。

高知県でのIPMの普及について

 

高知県は全国的にも天敵昆虫の導入による病害虫防除の取組みをいち早く進めるなど、IPMの先進県としても知られています。文献1)には、IPMについて下記の記述があり、引用します。

「IPMとは、病害虫や雑草防除において、化学合成農薬だけに頼るのではなく天敵、防虫ネット、防蛾灯などさまざまな防除技術を組み合わせ、農作物の収量や品質に経済的な被害が出ない程度に発生を抑制しようとする考え方のことです。これに基づく防除技術は安全・安心な農産物の安定生産と、環境への負荷を軽減した持続能可能な農業生産を両立させるために有効なのです。」

近年は農薬抵抗性を持つ病害虫が増え、化学農薬だけでは病害虫対策が難しくなっている状況がある中で、高知県では前記のように天敵(生物的防除)、防虫ネット・防蛾灯など(物理的防除)、および化学的防除を組み合わせたIPMの普及に注力してきました。そのことは化学農薬使用量の削減による環境負荷低減にもつながり、また生産者の経営においても農薬費低減という直接のメリットにもなり、普及のポイントとなっていきました。

文献2)には、高知県での天敵導入について「主力品目であるなす類、ピーマン・ししとう類では、約90%以上の2000戸以上の生産者が、天敵昆虫を利用して、病害虫密度を被害が出ない程度に抑えている」とあり、その技術が現場に完全に定着していることが伺えます。

IPMの導入の経過について、文献1)には以下のように記されています。

「日本一のナス産地である安芸地域で平成4年から交配昆虫、平成9年から天敵の導入試験が開始され、平成11年からはこれらの技術を中心としたIPM技術の本格的な導入が始まりました。安芸地域では、国の補助事業も活用しながら、平成12年からは県の出先機関である安芸農業振興センターが中心となり、農業者やJAなどの関係機関と一体となってIPM技術の導入に取り組み、国内の施設園芸では最も進んだIPM技術を持つ産地となりました。その後、安芸地域だけではなく、施設ナス類、施設ピーマン・シシトウ、施設ミョウガなどを中心に県内全域の施設園芸産地で天敵利用技術の導入が進みました。」

このように、四半世紀以上前より天敵とIPMの導入が安芸地域のナス栽培で始まっています。施設ナス栽培での天敵利用については、ゼロアグリブログの記事文献3)ナス栽培での悩み ー害虫防除での天敵利用についてー」に高知県での導入例を中心に詳しく紹介をしていますので、ぜひご覧ください。

 

都道府県におけるIPM実践優良事例(農水省HPより)

 

また高知県では、土着の天敵を利用する取組みも盛んに行われています。前記のブログ記事でも紹介していますが、例としてタバココナジラミやアザミウマ類を捕食するタバコカスミカメといった土着天敵を、ゴマなどの天敵温存植物を利用し温存用ハウス内で確保しながら、適切な時期に栽培用ハウスに放飼して病害虫防除に用いるという方法になります。温存ハウスはグループ単位で管理され、また栽培期間の違いを利用して平野部と中山間地などの間で天敵のリレー利用の取組みも行われています文献4)

高知県での土着天敵の利用について、文献2)では「高温多湿で害虫の種類も多い本県は、恵まれた自然環境と生物多様性を最大限に活用して、野山に自然に生息している在来の土着天敵を、生産者が採取したり、温存したりしながら作物に定着させている」と述べています。こうした自然条件を活用した病害虫防除の方策が、高知県の施設園芸の特徴のひとつと言えるでしょう。

高知県での環境制御技術の普及について

高知県の施設園芸では、IPMの導入に続き、環境制御技術の導入が進められました。文献2)には下記の記述があり、引用します。

「IPM技術に続いて、現在、最も力を入れて普及させようとしているのが、環境制御技術である。(中略)本県では、まだ多くの生産者は、そのハウス内にはいくつかの温度センサーがあるのみであり、温度が上がると換気し、温度が下がるとハウスを閉めて、加温機が作動するという程度の栽培管理からあまり進化しておらず、あとは、篤農技術と言われる、長年の生産者自らの「勘」に頼った管理が主流である。(中略)ハウス内の環境データを、もう少し詳細に「見える化」した上で、今の基本的な栽培管理を、できるところから改善することにより、高知の環境に応じた環境制御技術を確立、普及できるのではないかと考えている。」

近年は全国的に環境データのモニタリングと見える化の取組みが普及していますが、この記事は10年ほど前のものであり、見える化の取組みは高知県でいち早く進められていたと言えるでしょう。また高知県のハウスには低軒高のもの、屋根の骨材を中心に木骨を利用したもの、天窓や谷の換気装置やカーテン装置の駆動が手動のものなど、旧式と言える設備が現在も多くあります。そうした設備に導入する技術として、見える化にいち早く取り組んだ点も、高知県ならではと言えるかもしれません。同文献には、つづいて以下の記述があり、引用します。

「そこで、まずは、県の農業技術センターで、「こうち新施設園芸システム」として技術確立に取り組むと共に、なすやピーマンなど本県の主要品目7品目について、温度、湿度、CO2、日射量などの環境要因を、現場の生産者のハウスで栽培期間を通して測定した。その結果、特に厳寒期においては、日中のハウス内のCO2濃度が不足している状態があることがわかった。さらに、平成25年9月~26年8月の間に、上記と同じ7品目について、CO2施用の実証試験を行ったところ、15カ所全ての実証ほ場において、5~37%の増収効果を得ることができた。」

 

 

このように高知県では、環境データのモニタリングとCO2施用技術の導入について、試験研究と現地実証の取組みを行い、現場への普及へとつなげて来ました。また高知県ではオランダのウェストラント市との友好園芸農業協定文献5)を結び、人材交流を定期的に行い、生産者や県職員などがオランダの最新技術や大規模施設園芸に触れる機会を多く作り、現在でも交流は継続しています文献6)。その後、こうした取組みは、高知県での環境制御技術や施設設備導入に対する各種補助事業の整備もあり、生産現場への普及も拡大しています。

参考文献

1)IPM(総合的病害虫・雑草管理)、こうち農業ネット : 2018/07/23

2)岡林俊宏、オランダとの技術交流を生かした、高知県の次世代施設園芸と後継者育成、調査・報告(野菜情報 2015年1月号)

3)ナス栽培での悩み ー害虫防除での天敵利用についてー、ゼロアグリブログ

4)下元満喜、高知県における IPM の推進、植物防疫 第65巻第7号(2011年)

5)オランダ交流、こうち農業ネット : 2015/05/13

6)オランダ王国大使館農務参事官、ウェストラント市職員の知事表敬訪問、高知県記者配布資料(県政記者向け) 2023年07月10日

 

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