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ナス栽培での悩み ー害虫防除での天敵利用についてー

ナスの施設栽培では様々な種類の病害虫の発生がみられ、収量や品質の確保のためには的確な防除が必要になります。一方で、害虫の薬剤抵抗性獲得によって化学農薬による防除体系の維持が困難となる場合も多く、生産者の悩みの一つになっています。そのため化学農薬に替わるものとして天敵の利用がナスの施設栽培や露地栽培で近年盛んになっています。相手が生き物ですので、取り扱いには様々な注意が必要になります。また天敵利用による化学農薬使用量の削減は、環境負荷の低減のためにも重要な取組みとなっています。本記事では天敵利用におけるポイントについて、各地での利用事例などをもとに紹介いたします。

ナスの害虫

 

ナスの施設栽培において最も影響の大きい害虫としてミナミキイロアザミウマがあげられます。参考文献1)には高知県のナス産地(安芸市)での害虫の年間発生推移として、ミナミキイロアザミウマは栽培期間を通し発生し、特に育苗期から11月と3月から栽培終了時に大きな被害があるとしています。またタバココナジラミについて、育苗期から11月と2月から栽培終了時に防除が遅れると大量寄生に樹勢の低下や排泄物によるすす病発生や果実の汚れなど大きな被害があるとしています。参考文献2)には福岡県のナス産地(大牟田市、みやま市)での主要害虫の消長として、アザミウマ類やコナジラミ類についても同様な時期の発生が示されています。

ナス栽培での天敵の利用

 

参考文献3)では高知県のナス栽培において、「1997年ころより総合的害虫管理技術(IPM技術)の普及に向けた取り組みが始まり、施設栽培ナス,ピーマン類では,タイリクヒメハナカメムシなどの市販天敵を利用した生物的防除法に防虫ネットやシルバーマルチ等の物理的防除法,さらに天敵類に影響の少ない選択性殺虫剤による化学的防除法を組合せた体系が確立された」としています。IPMではこのように複数の防除方法を組合せ、総合的に害虫密度を低減し、化学農薬の使用量も抑えるものです。具体的な内容は参考文献4)の「ナスの促成栽培における総合的病害虫管理」に示されています。

 

タイチクヒメハナカメムシは市販の製剤(オリスターA、タイリク、リクトップなど)として入手可能なもので、アザミウマ類を対象とした天敵です。参考文献5)にはタイリクヒメハナカメムシの使用方法について、10a当たり500~2000頭をアザミウマ類発生初期に放飼するが、10a当たり1000頭を基準として放飼時のアザミウマ類の発生の多少により放飼量を変えるとよい、としています。また効果が現れるのは放飼1月から1.5月以降となるため、放飼は発生初期に行うこととしています。これは放飼初期に効果が現れず、実際は次世代成虫や2世代目の幼虫が現れ始める頃に効果が現れるため、としています。

 

高知県ではタイリクヒメハナカメムシや物理的防除法、化学的防除法の組合せによるIPMが確立されたものの、参考文献1)には2005年頃に薬剤感受性の低下したタバココナジラミが発生し、このIPMによるミナミキイロアザミウマ対策では対応できなくなったことが記されています。そうした中で土着カスミカメムシ類のタバコカスミカメやクロヒョウタンカスミカメがタバココナジラミやミナミキイロアザミウマの密度を低下させた事例が確認されたこと、そこで従来の防除方法に加えて土着天敵であるタバコカスミカメを用いた防除体系によってタバココナジラミやミナミキイロアザミウマの密度抑制効果が確認されたことをあげています。

ナス栽培での土着天敵の利用

 

参考文献6)ではタバコカスミカメの利用について、本虫は市販されておらず必要なときに安定して入手できる技術の開発が望まれていたとして、その安定的な入手方法を紹介しています。具体的には、タバコカスミカメがゴマのみで増殖が可能で、カボチャもインセクタリープランツ(天敵温存植物)として適していることが明らかとなった、としています。そこで定植前の時期よりゴマやカボチャを利用しタバコカスミカメを増殖させ、定植後から定期的に放飼し、タバココナジラミやアザミウマ類に高密度抑制効果が期待できる、としています。

 

参考文献7)では、ゴマを利用した天敵温存ハウスの活用について「天敵温存用ハウス内に6月中旬にゴマを定植し、増殖源となるタバコカスミカメを6月下旬に放飼した後、7月上旬、8月下旬に順次ゴマを追加定植することで、促成栽培で䛾導入時期にあたる8月下旬から10月上旬にかけて十分量のタバコカスミカメが確保できます」としています。さらに同文献ではタバコカスミカメの産地間リレーについても触れています。これは「天敵利用が慣行技術となっている促成ナスの栽培終期に圃場内に多くタバコカスミカメの生息が認められ、これらを雨よけ栽培果菜類栽培地域へリレーすることにより効率的な天敵確保が可能」としています。

 

参考文献1)では、施設ナス栽培での定植時期以降に温存ハウスで捕獲したタバコカスミカメを本圃で増殖させるために用意したゴマバンカーに放飼する、とあります。これはゴマを定植30日前にセルトレイに播種し、約20日間の育苗後に温存ハウスに移動してタバコカスミカメを定着させるものです。温存ハウスは遊休ハウスを活用したり、地域で共用するハウスを設けた運用などがされています。

 

タバコカスミカメを用い防除では、タバコカスミカメの定着までの期間に市販の天敵であるスワルスキーカブリダニやタイリクヒメハナカメムシも合わせて用いたり、またタバココナジラミが発生した場合には微生物農薬や化学農薬の散布を行う場合もあります。ミナミキイロアザミウマによる被害が増えた場合にも同様に農薬散布を行う場合もありますが、ネオニコチノイド系など天敵に影響がある農薬を使用しないよう注意が必要となります。

デメリットとしては、つるおろし作業の負担があります。キュウリの生長は他の果菜類に比べ早く、定期的に誘引とつるおろしを繰り返す必要があります。これらの作業が遅れると樹形が乱れ回復にかなりの作業負担と時間が発生してしまいます。また長期栽培のため、樹勢の維持が重要となりますが、低日射の影響を受けたり、病害虫の発生など、栽培期間中のトラブルに会う確率も高まり、管理上の注意が一層必要となります。

今後の展開

 

高知県では、現場の生産者と県の農業技術センターや出先機関(農業振興事務所)などが一体となり、天敵利用が進められてきました。参考文献1)では安芸地域のナス栽培ではタバコカスミカメを使った天敵防除の導入率が97%となった、としています。その一方で土着天敵のカスミカメ類には害虫となるものもあり、活用に注意が必要であることに触れています。

 

高知県の他に、参考文献8)では栃木県のナス栽培でのIPM体系の中での天敵利用について紹介があります。そこでは、天敵利用と化学農薬利用について次の記述があります。「近年は選択性農薬と呼ばれる特定の害虫グループだけを殺す農薬が開発されています。標的以外の害虫に効果はありませんが、天敵に対する影響が小さいため、天敵と組み合わせやすい特徴があります。害虫の発生が多すぎて天敵が食べきれない場合など、天敵だけでは十分に抑制できない場合に、補助的に使用すると効果的です」。このように害虫の発生状況を踏まえ、適切な農薬を選択して防除効果を高める工夫も必要と考えられます。天敵利用はIPMの一環として捉え、様々な選択肢の一つとして、作物の安定的な生育と環境負荷やコスト、労力の低減にも活用することが望まれます。

参考文献

1)榎本哲也・松本宏司・和田敬、土着天敵タバコカスミカメを中心とした総合的病害虫防除 ー高知県JA土佐あき園芸研究会ナス部会(2016)、天敵活用大事典

2)松本幸子、スワルスキーカブリダニとタバコカスミカメを併用した新防除体系 ー福岡県JAみなみ筑後ナス部会(2016)、天敵活用大事典

3)中石一英・下元祥史、土着天敵タバコカスミカメを高知県内で リレーして利用する技術 (2017)、植物防疫 71(8)

4)ナスの促成栽培における総合的病害虫管理(2002)、高知県農業技術センター

5)高井幹夫・日本典秀、タイリクヒメハナカメムシ(2016)、天敵活用大事典

6)中石一英、タバコカスミカメの生態と生物的防除資材としての有効性(後編)(2014)、植物防疫 第68巻 第4号

7)野菜施設間で土着天敵をリレーする体系(高知県)(2015)、土着天敵を活用する害虫管理技術事例集

8)なすIPM実践マニュアル (2015)、栃木県農政部

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