(1)基本編
ハウスや、それに付随する環境制御や潅水装置などの施設を新規導入する際には、ハウスの素材やサイズから設備の種類やスペックまで、仕様について多くのことを決める必要があります。補助事業を使用することも多く大きな投資となるハウスの新設。企画や設計を誤ると完成後に軌道修正することは難しくなります。今回は、失敗を極力抑え費用対効果も得られるよう、新規導入の際のポイントを3記事に分けて整理しました。
まずは①基本編として、まず基本となる考え方と手順をお示します。
新規導入での基本的な考え方
ハウスや栽培施設を新規導入する際には、目的とする作物の生産や出荷を計画通り実現できるような仕様を定め、それに忠実に設計や施工をする必要があります。そのため最初の仕様策定が重要となります。
一般的に基本設計と呼ばれるプロセスがあり、そこでは工事の発注者となる施主が何を行いたいのかを明確にし、それを実現するための仕様を明らかにします。実際にはすべてを実現できるものではなく、予算の制約、気象条件や地理的要因からの制約、人的制約、規制など、様々な制約条件を踏まえた仕様を策定する必要があります。
新規導入における手順
新規導入における手順を一例としてお示しします。
①作物の生産販売計画の概要を5W1Hで整理する。
原点に立ち返り、やりたいことを整理します。この内容が明確に定まらないと、計画や設計にブレが生じます。
だれが(who:事業主体、経営主体)、どこで(where:場所)、何を(what:作物)、いつ(when:周年か?期間を限定するか?)、どこへ(where:販路)、なぜ(why:そもそもの計画の目的は何か?新規就農の立ち上げ、規模拡大、地域雇用創出、複合経営化、農副連携…)、どのように(how:ハウスのタイプ、栽培方法などの栽培面と、販路に応じた出荷形態など)行いたいのか?
②予算の見込み
予算で出来ることが大方決まってまいります。ただし将来の収入見込みに応じた拡張も念頭に置くべきです。
自己資金、借入可能額、補助事業の導入(事業の種類、補助率、上限額、時期など)の見込みなどがあります。
③制約条件の洗い出し
計画を実現するに当たり何が制約となるか?それはハウスの仕様や設備の能力により回避が可能か?といったことも含めた検討材料となります。
・気象条件:月別の日射量、平均気温、最高最低気温、強風、季節風、積雪、過去に発生した気象災害
・水源:地下水、用水など、水質と利用可能な時期、条件など
・排水:土地の排水性、高低差、雨水や廃液の排出先など
・法律・規制:法令条例、地目、周辺の施設や既存の農業経営体など
④既存のハウス、栽培施設の調査・確認
その地域で良くみられるハウスや栽培施設、最近建設されたものなどのタイプ、仕様などを確認します。身近なところからです。目的とする作物の生産に必要なハウスのタイプや施設設備はどんなものか?価格はどの程度なにか?まずは概要を確認します。
もしその地域では事例がない場合には、少し調査範囲を広げる必要があるでしょう。移動や訪問が難しい場合には、オンラインやSNSを利用して情報や意見を集めることも選択肢に入れるべきでしょう。
そして実際に使用している方の意見や改善要望なども確認すると良いでしょう。その上で、前記の①が②、③の中で実現出来そうか?おおよその当たりをつけてみます。
⑤最近の製品や技術動向の調査・確認
施設園芸分野では、環境制御や灌水管理など、常に新製品や新技術が開発されています。そうした動向には日常的に触れておくべきでしょう。情報の入手を様々なチャンネル(業界紙(日本農業新聞など)、専門誌(施設と園芸など)、地域の仲間、JA、普及指導機関、メーカー、各種展示会・セミナー、Web情報、ブログ、SNSなど)から入手するよう、習慣を持たれてください。
またそれらは2次情報であることが多く、実際に使われている状況についての1次情報の確認がさらに重要となります。そこでの有用性や費用対効果について、よく検討する必要があります。
⑥仕様の概要の検討
②③の制約条件や、④⑤などの情報を踏まえて、これから新設するハウスや施設で何ができそうか、①で計画していることに対して絞り込んでみます。具体的な仕様は細かいものである必要はなく、やりたいことをどんなハウス・施設で実現するのか、まずは概要を記すことから始めてみましょう。これが基本設計の骨格となります。具体的な内容は、次の(2)実践編でお示しいたします。