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国の補助事業② 産地生産基盤パワーアップ事業等について

近年の国(農林水産省)の代表的な補助事業として産地生産基盤パワーアップ事業があります。これは通称「産パー」とも呼ばれ、各地域での施設整備に活用されているものです。その他、強い農業づくり総合⽀援交付⾦などの補助事業について、概要をご紹介します。

産地生産基盤パワーアップ事業

産地生産基盤パワーアップ事業1)では、都道府県を通じた産地への機械・設備等の導入支援等が行われています。予算額も大きく(令和4年度補正予算:306億円)、施設園芸の他、産地の集出荷施設や保冷施設などにも補助が行われています。様々なメニューがあり、補助率は1/2以内が多く示されています。

事業の趣旨として「収益力強化に計画的に取り組む産地に対し、農業者等が行う高性能な機械・施設の導入や栽培体系の転換等に対して総合的に支援します」とあります。また「輸出事業者等と農業者が協働で行う取組の促進等により海外や加工・業務用等の新市場を安定的に獲得していくための拠点整備」があげられ、農産物輸出促進が目的の一つとなっています。また「需要の変化に対応する園芸作物等の先導的な取組」や「全国産地の生産基盤の強化・継承」とあり、様々なケースに対応する補助事業となっています。

産地生産基盤パワーアップ事業の優良取組事例

 

参考文献2)では補助事業での取組み事例が紹介されています。栃木県の例として鹿沼市農業再生協議会が行ったものがあり、トマト5haの産地において低コスト耐候性ハウス1.16haを補助事業で整備し販売額10%向上を目標に掲げています。また取組み結果として、低コスト耐候性ハウス導入による作付面積拡大、生産量・単収増大、品質向上による上位等級品率の向上による販売額27.5%向上が示されています。最新の機器設備の導入効果とも言えますが、こうした高性能のハウス建設では補助事業の利用が近年は必須なものと考えられます。

産地生産基盤パワーアップ事業の成果目標、優先枠

農林水産省はパンフレット「産地⽣産基盤パワーアップ事業(収益性向上対策・⽣産基盤強化対策)」3)を公開し、具体的な補助対象や補助率、採択のための要件などを示しています。またパンフレットの冒頭には「都道府県が⽰す⽅針の下、地域農業再⽣協議会等の関係者(農業者、地⽅公共団体、JA、農業関連業者等)が連携し、産地が⽬指す「収益性の向上」⼜は「⽣産基盤の強化」につながる⽬標を設定」とあり、前述の栃木県の例のような目標設定が必要になります。またポイント制度について「取組主体は、販売額の向上や⽣産コストの削減といった⽬標に沿って、成果⽬標を設定します。選択した成果⽬標(取組)をポイント化し、ポイントの⾼い順に配分対象を選定、都道府県に対し配分対象となった計画の国費要望額を交付します。」とあり、成果目標が補助事業の採択要件の一つとなっています。

また本事業では優先枠として、スマート農業推進枠(20億円)、施設園芸エネルギー転換枠(20億円)等が設けられています。後者については「燃油依存の経営から脱却し、省エネルギー化や経営の安定化を図るために必要なヒートポンプ等の導⼊について、枠の範囲内で⽀援」とあり、燃油高騰下でのヒートポンプ等の導入への補助が行われます。

 

参考文献4)に、「産地⽣産基盤パワーアップ事業のうち「施設園芸エネルギー転換枠」の拡充について」の事業説明が記されています。ここでは「施設園芸等で使⽤されるA重油等の価格が⾼騰している状況を踏まえ、⼤きく価格が変動する燃油への依存度を下げ、経営の安定化を図るため、令和3年度補正予算において、産地⽣産基盤パワーアップ事業に新たに「施設園芸エネルギー転換枠」を設け、省エネ機器等の導⼊を⽀援」とあります。また省エネ機器の活用イメージとして、ヒートポンプと燃油暖房機を併⽤するハイブリッド⽅式で省エネ化、省エネ機器の導⼊と合わせて保温性や温度管理の技術向上の2つを取り上げています。

産地生産基盤パワーアップ事業の施設面積要件、ハウス等の再整備

 

本事業による⽀援対象者は、地域農業再⽣協議会等が作成する「産地パワーアップ計画(収益性向上タイプ)」に参加する農業者、農業者団体(農業協同組合、農事組合法⼈、農地所有適格法⼈、その他農業者が組織する団体)等で、個別経営体による参加も可能とあります。また施設野菜の面積要件は5ha(中山間地で3ha)、施設花きでは3ha(中山間地で2ha)とあります。

その他、同文献には「⽣産基盤強化対策」があり、整備事業として「新規就農者や担い⼿への継承に必要な低コスト耐候性ハウス等の再整備」が掲げられています。これは施設新設時ではなく継承に伴う再整備のことで、具体的にはハウスのリフォーム、リノベーションを対象とするものと思われます。あくまで継承を伴う場合のため、自己の施設のリフォーム、リノベーションは対象外となることに注意が必要です。廃業や経営委譲等にともなう施設の継承では、少なからず施設設備のリフォーム、リノベーションが必要となります。また施設資材費の高騰から、ハウス新設も予算的に年々ハードルが上がっており、農林水産省もこうした補助事業を通じて、リフォーム、リノベーションによる施設園芸産地の維持を支援する形になっていると考えられます。

その他の国の補助事業

強い農業づくり総合⽀援交付⾦

強い農業づくり総合⽀援交付⾦5)は、趣旨として「産地の収益⼒強化と持続的な発展及び⾷品流通の合理化のため、強い農業づくりに必要な産地基幹施設、卸売市場施設の整備等を⽀援します。また、地域農業者の減少や労働⼒不⾜等⽣産構造の急速な変化に対応するための⽣産事業モデルや農業⽀援サービス事業の育成を⽀援します。」とあります。施設園芸のハウス等も補助対象となっていますが、市場流通施設などより広範に補助対象がある事業になります。参考文献6)には様々なメニューがあり、「産地基幹施設等支援タイプ」7)、「生産事業モデル支援タイプ」8)、「みどりの食料システムの戦略の推進」9)、「スマート農業の推進」10)といったものがあります。補助率はおおむね1/2以下であり、申請や事務手続きを都道府県等を通じて行うものと、国(地方農政局)を通じて行うものがあります。

参考文献11)のP29には、「令和2年度強い農業・担い手づくり総合支援交付金等で整備した温室における入札結果」として、15箇所の施設設備の入札結果(都道府県、市町村・地区名、事業実施主体、品目、面積、落札者情報(企業名、入札額)等が記されています。ヘクタール規模の大規模施設から数10a単位の施設まで、様々な品目の施設に対する補助金交付が行われています。

施設園芸等燃料価格高騰対策事業

施設園芸等燃料価格高騰対策事業12)では、A重油、灯油、LPガス(プロパンガス)、LNG(都市ガス)を対象に、昨今の価格高騰に対するセーフティーネットとして、国と施設園芸生産者の双方が資金を出し合い基金を設け、これら燃油やガスの価格が一定の基準を超えた場合に補塡金を交付する仕組みを持ちます。生産者には地域の協議会を通じ資金の積み立て等を行い、また施設の保温性強化や省エネ機器導入などにより、燃料使用量を15%削減する省エネルギー対策計画の策定と実施が求められます。補填金の額は、補塡単価(発動基準価格との差額)×当月購入数量の70%(価格急騰時等には100%に引き上げ)となります。

今後の展開

以上で、施設園芸に係る様々な補助事業についてご紹介をいたしました。また農林水産省では、2050年までに農林水産業におけるCO2ゼロエミッション化を目指す、みどりの食料システム戦略を政策として掲げています13)。すでに補助事業の一部には同戦略の実現を前提としたメニューも一部で組み込まれており9)、今後もそうしたメニューが増えることも予想されます。参考文献14)のブログ「みどりの食料システム戦略が描く将来と今後の動向」には、同戦略について詳述していますので、ぜひご覧ください。

その他に、施設園芸だけを対象とした事業ではありませんが、肥料価格高騰対策事業13)や、新規就農者育成総合対策14)などもあります。社会や経済の環境からの影響を受けることの多い施設園芸経営において、必要に応じこうした補助事業の活用も検討すべきかと考えられます。

参考文献

1)産地生産基盤パワーアップ事業関係情報、農林水産省

2)産地生産基盤パワーアップ事業の優良取組事例(令和3年9月17日)、農林水産省

3)産地⽣産基盤パワーアップ事業(収益性向上対策・⽣産基盤強化対策)、農林水産省

4)産地⽣産基盤パワーアップ事業のうち「施設園芸エネルギー転換枠」の拡充について、農林水産省

5)強い農業づくり総合⽀援交付⾦、農林水産省

6)2023年度強い農業づくりの支援に係る関係通知について、農林水産省

7)パンフレット 強い農業づくり支援交付金(産地基幹施設等支援タイプ)、農林水産省

8)パンフレット 強い農業づくり支援交付金(生産事業モデル支援タイプ)、農林水産省

9)パンフレット 強い農業づくり支援交付金(みどりの食料システムの戦略の推進)、農林水産省

10)パンフレット 強い農業づくり支援交付金(スマート農業の推進)、農林水産省

11)農業用ハウス設置コスト低減のための事例集付録農業者向け園芸用ハウスの低コスト設置のための手引き、日本施設園芸協会

12)施設園芸等燃料価格高騰対策事業、農林水産省

13)みどりの食料システム戦略トップページ、農林水産省

14)みどりの食料システム戦略が描く将来と今後の動向、ゼロアグリブログ

15)肥料価格高騰対策事業、農林水産省

16)新規就農者育成総合対策のうち経営発展支援事業(令和5年度予算)、農林水産省

 

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