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国の補助事業① 施設園芸に係わるスマート農業関連事業について

国(農林水産省)の補助事業には、その時々の社会環境や技術動向に即した比較的大きなテーマで組まれるものが多くみられます。近年ではスマート農業が国の政策に大きく取り上げられ、それに続くみどりの食料システム戦略も将来的な農政の大きな柱になっています。本記事では、次世代施設園芸から始まる施設園芸に係わるスマート農業関連の補助事業について概要や成果をご紹介いたします。

 

次世代施設園芸導入加速化支援事業

この事業は、オランダの施設園芸を参考に、国内に数ha規模の大規模施設園芸モデル拠点10箇所を整備し、ICT利用、化石燃料削減、育苗から選果出荷までの一貫などを実証するものです1)。すでに拠点整備や事業そのものは終了していますが、次世代施設園芸10拠点は現在も稼働し、トマト、パプリカ、キュウリ、ピーマンなどの周年生産と出荷を継続しています。10拠点のうち4拠点はオランダ型の高軒高フェンローハウスとハイワイヤー栽培を組み合わせたトマトやパプリカの生産を行っています。その他の拠点は日本型の低コスト耐候性ハウスを中心に施設整備され、養液栽培や養液土耕栽培による果菜類や切り花の生産が行われています。

次世代施設園芸拠点における成果2)として、オランダ型栽培においてPrivaやHoogendoornといった統合環境制御装置と高度環境制御技術の導入によって、大玉トマトでは40~50t/10a程度の高収量の実現があげられます。こうした成果は以前よりカゴメなどの大規模施設園芸経営においても実現していましたが、補助事業による成果の公表により、改めてその高い生産性があきらかになっています。また日本型の施設や栽培法等による生産においても、高糖度トマトや夏イチゴなど日本独自の栽培の進化を伺うことができます。次世代施設園芸の特徴であるバイオマス等の利用では、地域資源の木質チップや木質ペレットを燃料とした温湯暖房等が行われています。ここでは木質バイオマスと既存のLPGや重油による暖房とのハイブリッド化によって、特に燃油高騰下での燃料コスト削減や化石燃料とCO2排出量の削減について効果を発揮しています。

以上のような大規模施設園芸でのICTや化石燃料削減の取組みは、国内の施設園芸全体の中では一部に過ぎないものと言えます。農水省では一般の中小規模の施設園芸でのICT利用、データ活用を拡大するよう「データ駆動型農業」の取組みを以下の補助事業により進めています。

データ駆動型農業の実践・展開支援事業

農林水産省における政策目標として、令和7年までに「農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践」が掲げられています。データ駆動型農業は、Data driven agriculture の訳語と思われます。本事業には、「データ駆動型農業の実践体制づくり支援」3)がメニューとしてあります。その内容として「施設園芸産地を中心として、データに基づき栽培技術・経営の最適化を図る「データ駆動型農業」の実践を促進するため、産地としての取組体制の構築、データ収集、分析機器の活用、新規就農者の技術習得等を支援します。」が示されています。都道府県を通じて地域の協議会へ定額、もしくは1/2の補助金が交付される流れになっています。

補助事業の中身として「環境モニタリング装置やセンシング等から得られる産地内の複数農業者のデータを収集・分析し、生産性・収益向上に結びつける体制づくり」が示されており、農業者・企業・普及組織等による体制構築、データ収集・分析機器の活用(環境モニタリング、環境制御、データに基づく施肥技術)、新規就農者の技術習得、既存ハウスのリノベーション等、といった広範なものとなっています。地域の協議会に参加する生産者と都道府県などを交えたデータ駆動型施設園芸の実践のための組織運営や研修、機器導入などについての補助事業と考えられます

 

参考文献4)には、「令和2年度データ駆動型農業の実践体制づくり支援(一覧)」として全国17協議会の構成員、品目、取組み内容が示されています。うち半数程は前述の次世代施設園芸が関係した協議会となっています。内容として高度環境制御技術の実証・普及や研修・人材育成に係わるものが多くみられます。またモニタリング機器の導入についても一部で触れられています。

同様な補助事業は都道府県の補助事業(県単事業)として組まれることも近年は多くみられます。参考文献5)には兵庫県の例として、スマート農業に係わる事業の一覧があります。ここでは前述の(国事業)データ駆動型農業の実践・展開支援事業を県事業の「次世代につなぐ営農体系確立支援事業」として公開し、推進会議の開催、データ収集・分析機器の活用の検証(リースや買取りによる機器導入を含んでいます)、検証の成果等の普及・情報発信についての補助を行っています。またこれとは別に県単事業の「ひょうご施設園芸環境制御技術導入加速化支援事業」があり、ここでは複合環境制御機器、 環境モニタリング機器、付帯する被制御機器への1/3補助が行われています。兵庫県は国の補助事業を活用して技術導入や人材育成を進めながら、環境制御技術(装置)の現場導入も加速化する方針であることが伺えます。

スマート農業実証プロジェクト

 

本事業は令和元年度から開始され、参考文献6)にはプロジェクトについて、「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用した「スマート農業」を実証し、スマート農業の社会実装を加速させていく事業です」とし、「スマート農業技術を実際に生産現場に導入し、技術実証を行うとともに、技術の導入による経営への効果を明らかにすることを目的としています」としています。次世代施設園芸では取り上げられなかったロボット、AIといった先端技術の実証が主体となっていますが、技術導入による経営効果について短期間で成果が求められています。また令和元年度からこれまで全国217地区において実証が行われています。

コンソーシアムでの応募が行なわれ、令和元年度採択69地区のうち施設園芸が8地区7)となっています。このうち、JA熊本市茄子部会、JA鹿本西瓜専門部による「「ICT技術やAI技術等を活用した日本一園芸産地プロジェクト(施設園芸:なす・すいか)」の実証」では、ゼロアグリ、RightARMなどのAI、ICTを活用した機器・サービスの活用と実証が行われています。同じく令和2年度採択の施設園芸6地区8)があり、新富町農業研究会による「施設園芸野菜(ピーマン等)における自動収穫機を活用した「生産管理体制の構築」収穫・栽培管理の実証」では、自動収穫ロボットの実証が行われています。

以上で、国の施設園芸に係るスマート農業関連の補助事業についてご紹介をいたしました。その他にも国の補助事業②として、産地生産基盤パワーアップ事業等について、こちらでご紹介いたします。

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