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キュウリ栽培での悩み  「キュウリ黄化えそ病」対策について②

熱ショックによるミナミキイロアザミウマの防除

 

参考文献1)では、一時的高温(熱ショック)処理による病害虫防除技術が紹介されています。キュウリの生育適温は一般的には25~30℃で高温側の生育限界温度は35℃程度とされ、さらに耐暑性品種を用い事前に数時間かけ高温順化した状態であれば一時的には45~50℃程度の高温にも十分耐えるとしています。一方、ミナミキイロアザミウマは40℃で絶食条件下では1時間以内に死滅するため、キュウリにダメージが少なく病害虫を十分抑制できる温度処理として45℃1時間を目安としています。留意点として、慣行栽培とは生育状況や管理方法がまったく異なることを理解すること、高温耐性の強い品種を用いること、湿度維持のための畝間潅水やミスト噴霧を高温処理前に行い45℃に達した後はカーテンによる遮光を行いと換気を避けること、施設内温度ムラに気を付け45℃を越えないよう40℃程度の処理から様子をみて温度をあげること、などをあげています。

 

参考文献2)では、前述の山口仁司氏がヒートショックによるミナミキイロアザミウマの防除を実際に取り入れた経験を紹介しています。そこでは、温度を上げる際に乾燥状態で行うと上位の葉が焼けるため、湿度を95%以上に保ち温度を上げ、目標温度(アザミウマで42℃、コナジラミで44~45℃)に達した後、徐々に温度を下げるのがポイントとしています。また地区で黄化えそ病が広まった際に、ミナミキイロアザミウマへの殺虫剤の効果が見えない中で、ヒートショックに切り替えることで防除効果を得たとしています。

生研支援センター 病害虫被害画像データベースより

赤色防虫ネットによるミナミキイロアザミウマ侵入対策

 

参考文献3)では、岐阜県農業技術センターの研究成果として、0.6mm目合いの赤色防虫ネットによるハウス内へのミナミキイロアザミウマの侵入防止効果についての試験が報告されています。同文献では、ミナミキイロアザミウマ成虫は体長 1.0~1.3mm であり、ミナミキイロアザミウマと同族のネギアザミウマに対し 0.8mm 目合いの赤色防虫ネットでも高い侵入抑制効果の報告もあり、赤色防虫ネットは本虫に対しても侵入抑制効果を示す可能性が高い、としています。一方でトマト黄化葉巻病におけるコナジラミ類侵入対策として用いられる0.4mm目合いの白色防虫ネットの利用では、通気性阻害によるハウス内温度の上昇が課題になっています。そこでミナミキイロアザミウマの侵入対策として,最適な防虫ネットの種類と目合いを本試験では検討をしています。

 

試験では単棟ビニールハウスの側窓に0.6mm目合いの赤色防虫ネットと0.4mm目合いの白色防虫ネットを被覆し、それぞれの試験区で栽培したキュウリの生長点から展開葉3枚目までに寄生するミナミキイロアザミウマ成虫の数、およびハウス内温度の推移を調査しています。9月6日に定植したキュウリについて、10月5日の生長点当たりの成虫寄生頭数は白色防虫ネット区1.1頭,赤色防虫ネット区0.4頭で、その後両区の差は拡大,10月26日には白色防虫ネット区7.8頭,赤色防虫ネット区では0.9頭となった、としています。このように白色防虫ネットよりも目合いの大きい赤色防虫ネットがミナミキイロアザミウマの侵入抑制効果が高いこと、さらに晴天時のハウス内平均気温も赤色防虫ネット区が2℃低い結果が得られたことを報告しています。このことから、目合いが大きい防虫ネットでも赤色がミナミキイロアザミウマの侵入抑制、およびハウス内温度の上昇抑制に効果を発揮していることが伺えます。

 

農業資材メーカーの製品紹介参考文献4)では、虫、特にアザミウマやスリップス類は赤色を視覚的に認識できず、侵入を防いでいることをあげています。また従来の赤色と白色の糸を編んだ防虫ネットに対し、両方の糸を赤色にして編んだ防虫ネットを、同じ目合い(0.8mm)でもより侵入防止効果が高いものとして紹介しています。参考文献5)では、こうした防虫ネット(0.8mm目合いの赤白、赤黒、赤赤のネット)についてコナジラミやミナミキイロアザミウマに対する防除効果試験について報告しています。ここには実際の0.8mm目合いの防虫ネットの拡大画像が掲載されていますが、開口面積が大きいことが伺え、通気性も確保されているものと思われます。

 

以上のような赤色防虫ネットは、最近ではキュウリなどの果菜類を栽培するハウスでも見かけるようになり、ミナミキイロアザミウマの侵入に対する抑制効果が現れているものと思われます。

 

地域でのミナミキイロアザミウマ防除対策について

 

参考文献6)では、大阪府とJA大阪南がキュウリ黄化えそ病の防除について、個人だけで無く、地域でアザミウマの防除に取り組むことが重要、としています。まず個人で行うこととして、防虫ネット(目合い0.4mm以下の白色ネット、もしくは0.8mm以下の赤色ネット)を設置のハウス側窓、入口への展張、根も含めた罹病株の圃場外への持ち出し、定期的な圃場内雑草の除草、定植後1週間や9月上旬のなど感染防止に重要な時期の重点的防除、作替え時期の10日間以上の施設閉め切りによるアザミウマの餓死、をあげています。

 

さらに地域での一斉防除期間を9月上旬頃などに設定し、全生産者が同じ殺虫剤を散布すること、圃場周辺の除草を地域の共同作業として定期的に実施することをあげています。それらの対策により、地域全体でのアザミウマの密度を下げつつ薬剤抵抗性の発達を防ぐ効果や、アザミウマの生育場所を無くし雑草へのウイルスの感染を防ぐ効果に触れています。

 

また実際にモデル的に取り組んだ地区での例もあげており、地区共通の防除スケジュールによる徹底的な防除、ハウス入口(0.4mm目合い白色ネット)とサイド(0.6mm目合い赤色ネット)への防虫ネット展張、栽培前後の施設閉め切りと栽培前の太陽熱消毒による総合的な防除によって、生育初期のMYSVの発生率が大幅な抑制と作後のハウス閉め切りでのアザミウマの自作持越しの抑制ができたとしています。

今後の展開

 

キュウリ黄化えそ病には直接効果のある薬剤がないため、発見が遅れたり、ウィルスを媒介するミナミキイロアザミウマの防除に失敗すると大きな被害を及ぼすことがあります。ご紹介した様々な対策が開発され、また土着天敵の利用といった経済的な防除体系も確立されています。常に生育状況に注意を払いながらこうした対策を上手に、また総合的に取り入れることで、キュウリの施設栽培を安定化することが可能になるものと考えられます。

参考文献

1)佐藤達夫、一時的高温(熱ショック)処理による病害虫防除技術、野菜園芸大百科 キュウリ(2004)

2)山口仁司、湿度を下げないことがコツ 黄化えそ病を切り抜けた!、現代農業2022年6月号

3)妙楽 崇・杖田浩二、赤色防虫ネットとスワルスキーカブリダニを利用したキュウリ黄化えそ病対策、岐阜県農業技術センター研究報告 第 16 号: 7~14(2016)

4)農業用資材 サンサンネット クロスレッド®、日本ワイドクロス株式会社

5)德丸晋・伊藤俊、新型赤色系防虫ネットの各種微小害虫に対する防除効果、植物防疫 第72巻第3号(2018)

6)キュウリ黄化えそ病の防除について(2023)、大阪府南河内農と緑の総合事務所・大阪南農業協同組合営農指導課

   ※参考文献各ダウンロード先の確認日:2023年9月28日

 

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