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沖縄県の施設園芸と野菜生産③ ー水資源と新しいスタイルの施設園芸ー

沖縄県では本島や八重山諸島での施設園芸が盛んです。ほとんどが無加温での野菜、花き、果樹の栽培が行われており、地元向けや県外向け端境期品目として販売されています。本記事では、県外とは異なる品目や作型による沖縄県の施設園芸と野菜生産の特徴をご紹介します。

沖縄県の水資源と施設園芸

 

沖縄県の地形について、沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第1章 沖縄県農業の概要文献1)では、以下のように述べており、引用します。

 

本県の地形の特性をみると、500mを超す山地は、石垣島の於茂登岳(526m)と沖縄本島北部の与那覇岳(503m)しかなく、低山性の小起伏山地となっている。また、沖積低地も発達して おらず、丘陵地や台地・段丘が県土の大部分を占めている。

河川は、大小あわせて300余あるが、島しょ面積が小さくかつ低い山岳からなる地形条件のため流路延長が短くなっている。

 

こうした地形条件において水源の確保には困難が伴い、そのため金城ダム、倉敷ダム、座間味ダム、我喜屋ダム及び、儀間ダム、真栄里ダムの6か所のダムが建設されています文献2)。これらダムの多くは平成期に建設されており、うちかんがい用水(農業用水)に用いられているものは石垣市の真栄里ダムのみとなっています

 

このような状況において、沖縄県は農業用水源及びかんがい施設の整備を進めており、水源の整備の他、圃場付近での給水所や給水栓、スプリンクラー等の設置を行っています文献3)。特に水源確保のため、地下ダムの整備が本島や島しょにおいて進められています。地下ダムによって、従来はタンクによる給水に頼っていた地域でも、かんがい用水やかんがい設備を通じ、給水栓を経由して散水や潅水にダムの水源(地下水)を利用可能になり、施設園芸での潅水用途にも広がっています。沖縄県の地下ダムは国営事業で本島南部地区2箇所や伊江島、宮古島などに建設され、その他に県営事業での建設も行われています文献4)

沖縄県での新しいスタイルの施設園芸

沖縄県の施設園芸は、無加温での越冬栽培が中心であり、夏期は高温や高湿度により施設栽培が困難な時期と言えます。この期間は県内産の野菜が不足することになり、県外産野菜の移送による販売が中心となり、価格面や安定供給面で課題がみられます。こうした課題に挑戦し、新しいスタイルの施設園芸を実践する若手経営者の新里龍武氏の事例をご紹介します。

新里氏のプロフィールや経営内容は、農業電化協会の令和4年度農業電化推進コンクール大賞(農林水産省農産局長表彰)の表彰事例文献5)に詳しく紹介されています。新里氏は沖縄県でトマト栽培による新規就農をするに当たり、県外の先進的な農場で研修を積み、環境制御技術や養液栽培技術、データを活用した栽培管理技術などを習得しています。その上で冬期には無加温栽培が主流のため、その時期にエネルギーを投入しない沖縄の施設園芸で、端境期であった夏期にエネルギーを投入しヒートポンプによる冷房を行って周年栽培を実現しています。これは従来とは異なる沖縄県の新しいスタイルの施設園芸と言えるでしょう。この周年栽培化により夏期のトマト出荷が可能となり、県外産野菜が中心となる時期の地産地消による販売も可能となり、地元への貢献とともに経営面でも有利な位置を確立していると言えるでしょう。

農業電化協会の文献によると、新里氏が経営するトマタツファーム株式会社は、計1,400㎡のハウス5棟(軒高4m、耐風速50m/s仕様)での養液栽培により、年間50tのトマト(大玉、中玉、ミニ)の生産を行っています。また冷房や除湿に用いるヒートポンプは5台(計17kW)あり、夜間の室温を外気温28~32℃のところ17℃まで低下させています。日中の強日射下でのヒートポンプ冷房は現実的ではありませんが、夜間に換気窓やカーテンを閉じ断熱性を高めながら冷房を行うことで、このような低い夜温に制御可能となったものと思われます。その結果、従来は着花が難しかった時期にトマトを開花させ、生産や出荷が可能となっています。そこでの冷房のための電気代や通年での電力基本料金は、本土での施設栽培の冬期加温で必要な光熱動力費に相当するものと考えられます。こうした発想の転換による周年栽培が、新たなスタイルの沖縄県の施設園芸経営を切り開く可能性が感じられます。

同文献によると新里氏は、冷房により夏期のトマト生産を証明できたものの、収量と品質の低下があったことに触れており、今後は作型の調整により植物が体力のあるうちに夏を乗り切るようにし、また冷房期間の短縮による電気代の節減を進めることを述べています。さらに今後の規模拡大や、養液栽培による他品目への展開、環境制御や養液栽培の技術を広める農業コンサルの実施などにも触れています。

今後の展開

 

以上のように、沖縄県の施設園芸と野菜生産の特徴について、沖縄県の公開資料などをもとにご紹介いたしました。この他にも、沖縄県では植物工場による野菜生産も行われており、「大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例集」文献6)では、県内10箇所の人工光植物工場のリストが示されています。また実際には県内資本による植物工場の建設とともに、県外大手企業と組んだ建設文献7)も進められています。観光業が盛んで、人の流入も多く、人口も上昇傾向にある中で、野菜生産の端境期を埋めるような動きとして植物工場の建設も位置づけられるでしょう。沖縄県での新たなスタイルの施設園芸の始まりとともに、こうした動向にも目を向けるべきかと考えられます。

 

最後に、ゼロアグリユーザーで、沖縄県糸満市でキュウリ栽培を行っている山城様についてのブログ「山城様(沖縄県糸満市・キュウリ)|「台風の時にゼロアグリに助けられた」、96%の作業時間の低減と安定栽培を実現し更なる経営規模拡大へ」文献8)では、潅水施肥作業の大幅な省力化と栽培での改善、自動潅水により台風時でも潅水施肥が途切れないことのメリット、生育の向上などを紹介しています。ぜひご覧ください。

参考文献

1)沖縄県の園芸・流通(令和5年1月)第1章 沖縄県農業の概要、沖縄県農林水産部園芸振興課

2)沖縄県ダム一覧、沖縄県

3)かんがい排水事業、沖縄県農林水産部農地農村整備課

4)沖縄地下ダムマップ、沖縄総合事務局農林水産部

5)環境制御技術の確立により、沖縄では難しいとされてきたトマトの周年栽培に成功、令和4年度農業電化推進コンクール 大賞(農林水産省農産局長賞)の表彰事例、一般社団法人農業電化協会

6)大規模施設園芸・植物工場 実態調査・事例集、農林水産省農産局園芸作物課花き産業・施設園芸振興室

7)県内初の豆苗工場(株)沖縄村上農園-県産野菜の安定供給を目指して-、株式会社沖縄物産連合

8)山城様(沖縄県糸満市・キュウリ)|「台風の時にゼロアグリに助けられた」、96%の作業時間の低減と安定栽培を実現し更なる経営規模拡大へ、ゼロアグリブログ

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