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栃木県の施設園芸と野菜生産① ー施設園芸の特徴と主要施設野菜ー

栃木県は関東平野の北端にあって首都圏近郊に位置し、恵まれた自然条件を生かした施設園芸と野菜生産が盛んに行われています。産業構造的には製造業が盛んであり、「県内総生産に占める第2次産業の構成比は47.1% で全国2位 (うち食料品製造業10.0%) 」文献1)となっています。また栃木県は産業政策として「フードバレーとちぎ文献2)を掲げています。盛んな製造業と首都圏の食料供給基地としての役割を活かし、流通や小売、観光やサービス業なども含め、第1次産業から第3次産業にいたる食に関連する産業の振興が全県で進められています。そうした中で本記事では、栃木県の自然条件と施設園芸の特徴について紹介します。

栃木県の自然条件と施設園芸

施設園芸を語るうえで欠かせないのが日照条件です。関東平野全般に言えることですが、特に冬期の晴天が多いのが特徴になります。さらに男体おろしと呼ばれる冬期の季節風が強いこともあり、栃木県の12月~2月の日照時間月別平年値は587.5時間と全国3位の長さとなっています(全国平均値:399.5時間、出典:平成20年理科年表)文献3)そのため、トマトやイチゴなど施設野菜の越冬栽培には有利な気象条件にあると言えるでしょう。

また日照条件とともに重要な水資源について文献1)では、「栃木県は北部から西部にかけて那須連山、帝釈山地、足尾山地の山岳地帯があり、南部には関東平野が広がり、那珂川、鬼怒川、渡良瀬川が流れ、水資源について豊富な特徴があります」としています。さらに栃木県の農業用水の利用状況文献4)によると「関東平野の水源を有する上流県として位置しているため、古くから河川の水を有効に利用できたことや地下水が豊富であったこと、さらにダムが造られてきたことなどから、農業、工業、水道、水産、発電など様々な水利用が行われてきました。 」とあり、県内の年間水需要量について「約27億立方メートル (平成10年推計)で、そのうちの約84%、約22億6千万立方メートルが農業用水」としています。こうした豊富な水資源を利用した農業生産が栃木県では行われ、施設園芸でも地下水や用水を利用した潅水や、特徴的なウォーターカーテン(後述)という保温技術が取り入れられています。

栃木県の施設園芸の面積と特徴

農林水産省の「園芸用施設の設置等の状況(R2)」文献5)によると、栃木県のガラス室・ハウス設置実面積は約1,403haであり、全国の約40,614haの約3.45%に当たります。また、うち野菜用施設は約1,234haであり、全国の約29,975haの約4.12%に当たります。これは関東地方では茨城県の約3,001haに次ぐ2番目の面積となります。

野菜用ガラス室・ハウスの構造材別内訳では、鉄骨(アルミニウム骨を含む)が約344ha、金属パイプ等が約890haであり、それらの比率は27.85%と72.15%となります。全国での比率は23.36%と76.25%であり、全国よりもやや鉄骨ハウスの比率が高いと言えます。

次に野菜用施設の中で加温設備のあるものは約712haで57.67%に当たります。また野菜、花き、果樹を合わせた加温設備のあるものは約799haで、このうち地下水利用等(地熱水・ウォーターカーテン等)の加温設備があるものが約357haで約44.68%に当たります。地下水利用等を行う加温設備の全国面積は約765haで、栃木県はうち46.67%となります。また施設園芸・植物工場ハンドブックによると、地下水利用等の加温設備の内訳(2011年、日本施設園芸協会)文献6)は、全国で752haのうちウォーターカーテンが497haであり、全国的にも栃木県はウォーターカーテンの普及が最も進んだ地域と言えます

ウォーターカーテンの概要とイチゴ栽培

文献7)には「栃木県のいちご栽培面積:647ha ウォーターカーテン設置面積:336ha (平成18年農水省集計)」とあります。一方で前述の施設園芸・植物工場ハンドブックにはウォーターカーテンについての構造や機能についての記載は無く、ローカルな技術と言えるかもしれません。また文献7)には栃木県でのウォーターカーテン利用について、「ウォーターカーテンのほとんどがいちご栽培用であり、単棟パイプハウスを中心に設置されている」とあります。構造的には、パイプハウス内部にアーチ型で巻き上げ式内張りカーテン構造を設け、カーテンを下した際に両端部が排水部にかかるようにされています。その状態で内張りカーテンの頂部にある潅水パイプより地下水を散水し、カーテン全体に水の膜を張るような状態を保つ形になります。さらに同文献には以下の記述があります。

『良質な地下水が確保できることが前提であるが、水温13℃の地下水を毎分180リットル/10a 確保できれば、外気温差14~17℃の保温効果が認められる。例えば、本県の厳寒期に外気温が-7℃の時、ハウス内は7~8℃程度確保できる。』

厳寒期であっても地下水温は13℃程度は確保可能と思われ、また地下水源が豊富な地域であれば毎分180リットル/10aの地下水の確保も可能であり、さらに排水路等の排水場所が確保できる条件であれば、ウォーターカーテンの導入によって上記のような高い保温効果が得られることになります。特に低温性作物であるイチゴの越冬栽培には適合性が高い保温技術と言えるでしょう。また栃木県に次いでウォーターカーテンの導入が多い茨城県では、文献8)に以下の記述があります。

『導入にあたっては,床面積 10a 当たり約 6,000L/hr の豊富な地下水量が必要なこと(中略)、地下水の水質(鉄分の多い地下水ではウォーターカーテンの内張フィルムの変色がひどくなることや散水ノズルが目詰まりするなど)や水量・水圧により設置が困難な地域もあることから,事前の検討が必要になる。また、排水対策を十分講じておくことが必要になる。』

以上のように、地下水利用について一定の条件が必要ですが、化石燃料等の燃焼を行わず、厳寒期のイチゴ栽培の保温に適用可能なウォーターカーテンが普及している栃木県は、エネルギー面や生産コスト面で大きなアドバンテージを持つものと言えるでしょう。

栃木県の主要施設野菜と産出額

栃木県農業白書文献9)によると、「令和3(2021)年の野菜の産出額は、707億円で農業産出額の26.3%を占め、内訳はいちごが248億円と最も多く、以下もやし111億円、トマト69億円、にら46億円、なす31億円で、これら5品目が野菜全体の約7割を占めています」とあります。施設野菜の産出額ではイチゴが圧倒的に高く、次いでトマトになります。またそれらに次ぐにら、なすなどの産出額には、露地でのものも含まれていると思われます。

また同白書の統計資料編には、主要農産物の産出額順位(令和3年)として、全国1位の品目にイチゴ(全国構成比9.2%)、もやし(同4.1%)があります。また、にらの産出額が46億円で全国2位(同1.7%)、アスパラガスが18億円で全国6位(同0.7%)とあり、産出額69億円のトマトは全国7位(同2.6%)です。また冬春トマトに限れば、栃木県はさらに全国の上位県に位置しています。なお、もやしは施設野菜のジャンルには入りませんが、良好な水質で豊富な地下水を利用する生産工場が県内に多く立地している模様です。

農林業センサスでみる施設栽培面積とイチゴ、トマトの県内産地

 

2020年農林業センサス農林業経営体調査結果概要(確定値)文献10)によると、栃木県には施設野菜の栽培面積が1,331.9ha、経営体が3,165あり、平均栽培面積は32.2aになります

 

また主要果菜類であるイチゴとトマトにおける県内栽培面積、経営体数、平均栽培面積、上位面積市町村(栽培面積)は表1の通りです。

表1 栃木県のイチゴ、トマトの栽培面積と経営体数、上位面積市町村 
出典:2020年農林業センサス農林業経営体調査結果概要(確定値)

イチゴについては、JAはがの管内となる真岡市が162.5haと全体の28.7%を占める大産地となっており、他に栃木市、鹿沼市、壬生町、宇都宮市など県中南部に産地が分布しています。またトマトについては、宇都宮市と栃木市がそれぞれ40ha程度である他、大田原市や足利市など県内広域に産地が分布しています。

 

参考文献

1)令和5年版栃木県の農林水産業の概要、農林水産省

2)フードバレーとちぎとは、栃木県産業労働観光部産業政策課

3)とちぎの気候~寒暖差が大きい内陸性気候~、栃木県

4)栃木県の農業用水の利用状況、栃木県農政部農地整備課

5)  園芸用施設の設置等の状況(R2)、農林水産省園芸作物課

6)林真紀夫、暖房、施設園芸・植物工場ハンドブック(2015)

7)普及活動事例、農林水産省

8)生産資材費高騰に対する技術支援マニュアル、茨城県農業総合センター(2022)

9)令和5(2023)年度版栃木県農業白書、栃木県農政課

10)2020年農林業センサス農林業経営体調査結果概要(確定値)、栃木県統計課

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