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養液栽培に必要な給液装置や潅水設備~養液土耕栽培との比較~

養液栽培は土壌を用いない栽培方法です。養液栽培には、土壌のかわりにロックウールなどの人工培地やヤシガラなどの有機質培地を用いる固形培地耕と、培地を用いない水耕があります。以下で示す養液栽培は固形培地耕とし、固形培地耕で用いる設備について養液土耕と比較をしながら説明をいたします。

養液栽培と養液土耕栽培で共通の設備 ~給液関連設備~

固形培地耕も養液土耕も、原水に液肥を混入してポンプで送水する給液関連設備が必要です。主要設備は以下のものになります。

給液装置

液肥の濃厚原液と井戸水などの原水を一定割合で混合し、濃厚液肥を希釈して一定の濃度の培養液としてポンプで送り出す装置です。様々な機能やグレードの装置があり、用途や規模により選択します。基本の構成として希釈装置(差圧式ポンプやベローズポンプ、定量ポンプなど、液肥を一定量送る装置)、電磁弁、減圧弁、流量計、機器の制御を行うコントローラなどからなり、それらをフレームなどに取り付けた形状が多くみられます。最近では外部との通信を行うためのインタフェース類や3Gなどの通信ユニットを持つものもあります。

ゼロアグリの給液装置

タンク類

タンクには井戸水などの原水をためる原水タンク、濃厚液肥をためる液肥タンクなどがあります。液肥タンクは用いる液肥の種類の数だけ必要になり、通常はA液とB液を混合希釈する2液方式(液肥タンク2台)で、pHの調整を行う場合には3液方式(液肥タンク3台)となります。なお、養液栽培で排液を回収し殺菌する場合には、排液回収タンクと殺菌処理後用のタンクが必要になります。

2液方式の液肥タンク
2液方式の液肥タンク

フィルター・ろ過装置類

原水中に含まれる様々物質(ゴミ、有機物など)を除去し、配管や潅水チューブの詰まりを防止するために、フィルターによるろ過を行います。フィルターにはメッシュフィルター、ディスクフィルターなど、洗浄可能な小型のもの、サンドフィルターなど大型なものがあります。また原水の濁りを取り除くための除鉄や除マンガン装置を用いる場合もあります。

ディスクフィルターの一例

原水設備

原水の多くは井戸を掘削しポンプでくみ上げ原水タンクに貯水して利用します。井戸水の水質が悪く利用が困難な場合には、上水(水道水)を用いる場合もあります。また大規模施設では屋根面からの雨水排水を貯水する大型のタンク(コルゲートタンク)や受水槽を設け、雨水利用を行う場合もあります。

養液栽培と養液土耕栽培で用いる潅水資材

養液土耕で用いる潅水資材は点滴チューブがほとんどであり、少量多潅水を行います。また固形培地耕では個々の培地(ロックウールやヤシガラのキューブ(ポットとも呼ぶ))一つ一つに挿して使うドリッパーにより、植物1株ごとに少量多潅水を行う方式がとられます。ドリッパーごとにオンラインドリッパーと呼ばれる圧力調整機能を持つ器具も用い、潅水ムラを減らします。

オンラインドリッパー
オンラインドリッパーと高設ベンチ

養液栽培に必要な設備や資材

固形培地耕では培地をのせるための栽培ベッド(金属製のものはガターとも言う)と、栽培ベッドを固定するための栽培ベンチが必要です。また栽培ベンチを用いずにハウスのトラスからガターを吊り下げるハンギングガター方式も高軒高ハウスでは良くみられます。

栽培ベッド

イチゴの高設栽培では発泡製や樹脂製の容器に培地を詰める形での栽培ベッドが用いられます。トマトやキュウリの固形培地耕では、ロックウールやヤシガラのスラブ(マットとも言う)をのせるための発泡製の枠構造のベッドや、前述のガターが用いられます。栽培ベッドには排水するための溝などが設けられ、傾斜を持ち設置することで下流への排水を促します。

ロックウール培地とドリッパー
ロックウール培地とドリッパー

栽培ベンチ

栽培ベッドを地面に固定するための骨組みで、多くは農業用パイプと接手類により組み立てられます。また栽培ベッドと一体化した成形品も一部ではみられます。排水を確保するために傾斜をつけ設置施工する必要があります。イチゴの高設栽培では栽培ベッドが胸の高さ程度になるベンチを設置します。

イチゴの高設ベンチ
イチゴの高設ベンチ

通路シート

 

固形培地耕では、栽培ベッド間の通路にシートを敷設します。グランドシート、防草シートと呼ばれる透水性の織物シートで、光の反射を考えて白色のものが用いられることが増えています。

栽培ベンチと通路シート
イチゴの高設ベンチ

排液回収設備/排液の処理

培地からの排液を傾斜により下流へ流し、樋で受けて排液タンクなどに回収する設備が用いられます。回収した排液はポンプアップし、養液のかけ流し方式の場合、さらに排水路へ流したり、排水桝から地下浸透させます。

排液改修設備と排液流量計
排液改修設備と排液流量計

循環・殺菌/消毒設備

前述のかけ流し方式に対し、養液の循環方式があります。これは回収した排液を殺菌し再利用する方式で、殺菌後の養液とフレッシュな養液を混合し、ECやpHも調整して利用します。殺菌装置にはUV式のもの、オゾン利用式のものなどがあり、またフレッシュな養液との混合のためのタンク類も必要となり、設備も大型化します。

養液栽培とハウスの軒高との関係

固形培地耕ではベンチにより作物の位置がかさ上げされます。低軒高のハウスでの固形培地耕は、誘引位置を高くすることが難しいため、栽培空間が狭くなり、葉数や節数をかせぐことも難しくなります。そのため斜め誘引などを行う場合もありますが、採光性や作業性に影響が生じます。固形培地耕を行う場合には、高軒高のハウスで行う例が増えていますが、ハウスの建設コストが増加するため、経営試算を十分に行う必要があるでしょう。

 

今後の展開

以上のように養液栽培(固形培地耕)と養液土耕栽培では、共通の設備と養液栽培特有の設備があります。養液栽培と養液土耕栽培にはおのおのメリットとデメリットがあり、それは設備の仕様から生じることも多くあります。養液栽培と養液土耕栽培の比較を行った記事(リンク先)もありますので、ご参照いただければと思います。

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