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日射比例潅水とは。仕組みとメリット/デメリットを解説

潅水技術は野菜や果樹、花き栽培での重要な技術の一つです。また潅水は、温度管理やCO2管理などの環境制御に比べエネルギー消費も少なく、比較的低コストで行なえる栽培管理です。的確な潅水を行うことで作物の成長は促進され、収量や品質の向上につながります。環境制御技術が取り上げられることが多い昨今ですが、改めて潅水技術の重要性に目を向けたいと思います。

土耕栽培での潅水は、従来はバルブの開閉などを手動で行う管理が中心でした。近年は、養液土耕栽培や養液栽培の普及にともない、制御装置を利用した自動化が進んでいます。日射量に応じて潅水の頻度やタイミングを決定する潅水方法を日射比例潅水と呼んでいます。地下部に当たる土壌や培地の環境だけでなく、地上部の光環境を考慮した潅水方法であり、また作物の生育も考慮する技術として、近年導入が進んでいます。

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日射比例潅水の仕組み

日射比例潅水と日射センサー

日射比例潅水では、日射量を計測し、その積算量(積算日射量)が一定の値になった時点で潅水を行います。そのため日射センサーが必要となります。日射センサーは日射量(単位:kw/㎡)を計測するもので、照度(単位:lx)を計測する照度センサーとは異なるため注意が必要です(日射量は太陽放射のエネルギー量、照度は人間の眼が感じる光の強さで、異なる単位系になります)。

日射センサーの例

日射センサーは通常、ハウスの外部に設置します。一日を通し影にならない箇所(ハウスの頂部付近など)に取り付け金具などを用い固定します。他の建築物や構造物、樹木などの影になると正確な計測や潅水ができなくなります。また日射センサーにはセンサー受光部のカバー(プラスティックやガラス製)があり、汚れや劣化があると同様に正確な計測ができなくなります。

積算日射量の演算と潅水開始

日の光を浴びるミニトマト

日射センサーの信号を受け、積算日射量(単位:MJ(メガジュール)/㎡)の演算と潅水の指示を行う機器を日射比例コントローラ、日射比例制御装置などと呼んでいます。この機器は、養液土耕用の潅水施肥装置と一体化されたものと、潅水施肥装置とは分離され計測制御のみ行うものの2種類があります。


日射比例潅水では、センサー値から積算日射量を演算します。これは一定の時間間隔で日射量を積算する演算となります。そして積算日射量があらかじめ設定された値を超えると潅水の指示を潅水施肥装置に対し行います。実際は電磁弁が開きポンプが動作することで潅水と施肥が行われます。また同時に積算日射量はリセットされ、再び積算日射量の演算をゼロから開始します。このような演算プロセスによって1日の積算日射量が多い晴天日は積算日射量が少ない曇雨天日に比べて、日射量に比例して多くの回数の潅水が行われます。これが日射比例潅水の基本的な仕組みとなります。

なお実際は、日射比例潅水を行う時間帯を季節に応じ午前9時~午後3時までなどとし、それ以外に朝一での潅水を強制的に行う方法がとられます。それにより積算日射量がまだ小さい値の早朝でも、作物が必要とするタイミングで潅水を行うことができます。

日射比例潅水での潅水量の設定

ここで重要なこととして、一回あたりの潅水量を別途設定する必要があります。その潅水量と潅水するブロックにある作物の株数から1株当たりの潅水量が計算できます。一方で作物の生育ステージ、葉面積、生育状態、土耕栽培での土壌条件(排水性、保水性など)、環境条件(相対湿度、飽差など)により、作物が要求する潅水量も変化します。目安となる潅水量が提示されることもありますが、参考値として捉え、栽培現場に合った調整が必要となります。

日射比例潅水のメリット・デメリット

日射比例潅水のメリット

クラウド型であればスマホで操作可能

メリットとして、まず自動化による省力化があげられます。またタイマーによる自動化によっても手動潅水に比べ省力化は可能ですが、日射量の変動に対応した潅水回数と潅水量の調整は難しく、潅水量の過不足が発生しやすくなり、作物の生育への影響も出かねないと言えるでしょう。それに比べ日射比例潅水では日射量に応じて、適切な潅水量を計算して過不足なく潅水を行えるメリットがあります。結果的に少量多潅水となり、常に根圏の水分状態が一定となって、植物へのストレスもかかりにくく、良好な生育が期待できます。

日射比例潅水のデメリット

設定に正解はなく、確信が持てない面も

デメリットは、潅水を開始する積算日射量の設定、一回あたりの潅水量の設定に、常に調整や試行錯誤が伴うことです。これらの設定値について、他の圃場の例や公的機関、メーカーなどから提供される参考値をそのまま使っても、うまくいくとは限りません。

例えば、積算日射量の設定値が大きく潅水と潅水の間隔が長くなると、土壌水分の変動幅が大きくなり、作物へのストレスの一因となる可能性があります。作物の生育や蒸散が活発に行われる際には、設定値を小さ目にして潅水間隔を短くすることでストレスを軽減できるかもしれません。

また、一回当たりの潅水量も、土質による保水性や排水性の大小に対する調整や、作物の生育状態(葉面積)による蒸散量の大小に対する調整などが必要です。前者に対しては土壌の湿り具合などを確認し、後者に対しては生長点の生育や萎れ具合などを観察し調整する必要があるでしょう。

以上の調整は、ある程度の試行錯誤が伴います。仮で設定した値に対し、上述のような観察や確認を行いながら調整を行いますが、あまりにかけ離れた設定を行ってしまうと栽培そのものが失敗するリスクもあります。当初は地域の栽培や適切な潅水管理に精通した指導者(普及指導員、営農指導員)や近隣の生産者からのアドバイスも検討すべきでしょう。

日射比例潅水とゼロアグリ

ゼロアグリの潅水制御の仕組み

ゼロアグリと潅水ユニット

ゼロアグリはその地点の日射量にもとづく潅水を行っています。また潅水サイクルは1時間単位で行われ、最大6ブロックの潅水を10分ごとに切り替えて行います。

ゼロアグリと一般の日射比例潅水の仕組みとの一番の相違点は、積算日射量に加えて土壌水分量の計測結果を加味して潅水制御を行う点があります。ゼロアグリには日射と土壌水分センサーの値を加味して、土壌水分量を指定の値に安定化するよう潅水する仕組みがあり、使ったその日から作物にストレスを与えずに潅水を自動的に行うことができる特徴があります。また使えば使うほど、圃場の土壌条件や栽培状況に合った潅水がさらに安定的に行われます(目標とする土壌水分量について、栽培開始前に圃場に十分潅水した上で土壌水分量が安定した時の値とすることをご案内しています。)

ゼロアグリでの潅水制御と作物の生育

ゼロアグリで育てたトマト
ゼロアグリで潅水施肥を行ったトマト

ゼロアグリには、このようなAIを活用した優れた特徴があります。しかしそれに100%頼った潅水管理ではなく、作物の生育状態を良く観察し、目標とする土壌水分量自体も微調整することがストレスのさらに少ない潅水への道となります。

ゼロアグリはスマート農業分野の代表的な潅水制御技術として取り上げられていますが、栽培での中心は作物であり、機械やクラウドに依存せず、作物の顔を見ながらゼロアグリに指示を行うことをお勧めします。その結果は作物の生育や収量と品質、そしてゼロアグリで確認できるデータにも反映されてまいります。そうした調整とフィードバックがスマート農業のあるべき姿と私どもは考えています。

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