ハウス栽培で土耕栽培を行う場合には、作物への潅水を行う必要があります。ハウス内は広大なため、ホースを持ちながら行うシャワー潅水では作業が間に合いません。そのため、ポンプや潅水チューブなどを用いた自動潅水が行われています。本記事では、そのために必要な仕組みや機器について紹介します。
ハウス栽培での潅水の基本
ハウス栽培での潅水は、潅水チューブや点滴チューブを用い、畝ごとにまとめて潅水を行います。チューブ類は、各畝の上に1本~数本単位で設置され、畝上に潅水を行います。ハウス内のすべての畝にチューブ類が設置され、まんべんなく潅水を行います。
広大なハウスの土壌面を一度に潅水することは難しく、実際はいくつかの系統に分け潅水を行うのが一般的です。最も簡単な潅水の仕組みは、水源からポンプで水を送り、系統ごとに取り付けた手動バルブの開閉により潅水の切り替えを行う方法です。バルブは畝近くの配管に設置されることが多いため、潅水の切り替えには移動と多くの時間が必要になります。設備的にもシンプルで低コストで導入が可能ですが、省力性が低いのが難点と言えます。
なお潅水チューブや点滴チューブから均一な潅水を行うには、定められた水圧が必要になります。系統を少なくとる(1系統当たりのチューブの長さが長くなる)と水圧が不足するため、注意が必要です。また図での液肥混入機は、シンプルな機能のものが使われることが多く、混入機を用いず手動で原水に液肥を注入する場合もあります。
タイマー潅水の仕組み
タイマー潅水は、潅水の基本の仕組みにある手動バルブを電磁弁に置き換え、潅水作業の省力化を行うものです。図では電磁弁が各潅水系統に設置され、それらを順に開閉させるよう制御装置やタイマー類があります。
図の左側の制御装置には、24時間タイマーとサブタイマーが接続されています。24時間タイマーは潅水開始時刻を設定するもので、ピンの設定などで1日に何回も潅水指示が可能となります。その他にサブタイマーが潅水の系統数分だけあります。これは系統ごとの潅水時間を細かく設定するもので、1回の潅水当たりの潅水量をおおまかに設定することが可能となります。
右側の潅水系統ごとに設置された電磁弁は各々制御装置と配線され、制御装置からの電力供給によって開閉します。実際の潅水は、24時間タイマーが設定された時刻になった際に開始され、潅水系統A、B、Cの順に、各々のサブタイマーの設定値分だけ、各々の電磁弁が開き潅水が行われます。
タイマー潅水で用いる制御装置やタイマー類は比較的安価なため、低コストで潅水の自動化を実現できます。潅水の時間帯や1回当たりの潅水時間も自由に設定できるため、様々な潅水パターンを作ることもできます。例えば生育ステージに応じて潅水量や潅水回数を増やしたい場合、24時間タイマーのピンの数を増やすことで対応可能です。一方で、天候の変化に対して潅水量を調整したい場合、日々の天候を確認してタイマーの設定を変えることになり、細かな作業となります。
日射比例式自動潅水
タイマー潅水の機能を発展させ、日射量に応じた潅水を自動で行う仕組みを日射比例潅水と呼んでいます。これは、日射センサーをハウスの屋外に設置し、積算日射量を演算しながら、その値が一定の値になった時点で潅水を開始する機能を持つものです。タイマー潅水の24時間タイマーの機能を置き換えたものと言えます。
なお実際は、日射比例潅水を行う時間帯を季節に応じ午前9時~午後3時までなどとし、それ以外に朝一での潅水を強制的に行うことがあります。それによって積算日射量がまだ小さい値の早朝でも、作物が必要とするタイミングで潅水を行うことができます。このように日射比例潅水とタイマー潅水を組み合わせた仕組みが取られています。
自動潅水装置の発展とゼロアグリ
タイマー潅水と日射比例潅水には、潅水開始のタイミングについて、24時間タイマーで決めるか、または積算日射量の値で決めるかの違いがあると言えます。しかしいずれの仕組みでも、おのおのの潅水系統での1回当たりの潅水時間はユーザーが自分の判断で決める必要があります。その際には、作物の群落や葉面積の大きさ(蒸散量に影響し、必要な潅水量に直結します)や土質(保水性に影響し、こちらも必要な潅水量に直結します)に応じた潅水時間を設定しなければなりません。特に前者では、作物の成長に合わせた調整が必要になります。そこではユーザー自身の経験やデータにもとづく判断も必要と言えるでしょう。
こうした点について、ゼロアグリは日射量に比例して潅水を開始する仕組みを基本としながら、土壌水分量も加味した潅水制御を行います。センサーで取得した日射量と土壌水分量から、どれくらい作物が蒸散をしているかAIによる予測を行います。これにより天候の変化だけでなく作物の生長や土質も加味した精密な潅水を自動化しています。またゼロアグリでは、目標とする土壌水分量を設定し、その値が安定するような潅水制御を行います。土壌水分量の変動を極力少なくし、作物への水ストレスを緩和する仕組みと言えます。
以上、潅水の基本の仕組みから、タイマーや日射比例による自動化、さらにそれらの発展形であるゼロアグリによる土壌水分量も加味した自動潅水についてご紹介しました。おのおのの自動潅水の仕組みには共通して、点滴チューブと液肥による点滴潅水(少量多潅水)を行う養液土耕栽培の技術が基盤にあります。それは、作物が必要とする水分や肥料をピンポイントで与える節水・節肥料の仕組みとなります。ゼロアグリは、養液土耕栽培技術の発展形とも言え、オリジナルの施肥量オート調整機能により、さらに無駄なく必要な肥料を計画的に施肥することが可能です。