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施設園芸におけるスマート農業|活用方法と期待される効果

スマート農業とは

スマート農業について、農林水産省や内閣府などで専門家を交えた議論がこの数年盛んにおこなわれてきました。農林水産省は、こうした議論も踏まえ、以下のようにスマート農業の定義を打ち出しています。

スマート農業の展開について、農林水産省(2021年5月)より

ここでは、「スマート農業」とは、「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活⽤する農業」のこととしており、またそれにより「⽣産現場の課題を先端技術で解決する︕ 農業分野におけるSociety5.0の実現」とあります。生産現場の課題解決の手段として先端技術を活用する農業がスマート農業と言え、かなり広範な概念と言えるでしょう。

 

また、そこで期待される効果として、①作業の自動化、②情報共有の簡易化、③データの活用の3点があげられています。①ではロボットや無人化された機械類の導入など、機械設備の導入が中心と考えられます。②では手作業で行われていた各種データの入手や記録を、これも自動化し、また簡易に行うことで、現場データの共有化を進めるものと考えられます。③では②で得られたデータを生産、販売などに活用し、経営を向上するものと考えられます。

 

このように、具体的な効果を見据えてスマート農業の導入を進めるべき、ということを読み取ることができるでしょう。また具体的な手法や機器機材の導入などは、農業の各分野によって異なるため、各論として考える必要があります。

スマート農業と施設園芸

前述の①~③の期待される効果について、施設園芸に当てはめると、以下のように考えることができます。

 

作業の自動化

施設園芸は、水田作や畑作に比べ機械化が遅れた分野です。潅水や環境を管理する機器や、それらを制御するコンピュータの導入は進んでいますが、植物に対する管理作業や収穫作業の多くは人手によるものです。この点ではスマート農業の導入の余地はまだ多くあると言えます。

 

特に作業量の多い収穫では、収穫ロボットの導入が期待されています。トマト、ピーマン、アスパラガスなどで実用化、実用化一歩手前のロボットが開発され、今後は性能の向上、普及のためのコストダウン、サービス体制の構築なども求められるでしょう。

 

収穫ロボットは、カメラやAIによる画像認識、ロボットアームやカッターなどによる収穫作業、移動と搬送の仕組みなど、いくつかの要素技術をもとに組立てられています。画像認識の精度は技術開発の進展とともに向上していますが、瞬時に収穫物を見分けられる人間の眼の認識力にはなかなかかなわないようです。

自動収穫ロボット
inaho株式会社の収穫ロボット

収穫ロボットは、スマート農業のトピック的なものですが、レール上を走る高所作業や収穫作業の台車類、農薬散布を自動化する防除ロボットなどは、すでに多くの農場で導入がされています。ものを運ぶことが多い農場内の通路で、人や他の機械類に対し安全に搬送を行える仕組みは、施設の規模拡大にともない益々必要とされるでしょう。

 

なお、施設内の温湿度やCO2濃度などを自動制御する環境制御装置がスマート農業の1分野として取り上げられることも多いと思います。これは、各種センサーによる計測データをもとに、暖房機器や換気装置、カーテン装置などの制御を自動化するものです。環境制御装置の国内での歴史は古く、昭和時代には横河電機により開発された制御装置(YEWMAC)が温室メロンやコチョウランの栽培で広く利用されていました。

他にも専業メーカー数社が特徴ある製品を販売していましたが、平成時代にはほとんどが姿を消し、また近年の施設園芸の環境制御技術の進展にともない、新たな製品が施設園芸メーカー各社より販売されています。一方でオランダ型の大規模施設園芸の普及とともに、Priva(プリヴァ)やHoogendoorn(ホーヘンドールン)といった海外メーカーの環境制御装置の導入も行われています。

環境モニタリングについて詳しく知りたい方はこちら

自動潅水装置について詳しく知りたい方はこちら

 

潅水・施肥作業を自動化するゼロアグリ

情報共有の簡易化

近年の施設園芸におけるスマート化で取り上げられることが多いのが、この分野です。環境モニタリング(別記事にリンク)機器の導入が産地や生産者グループ単位で行われることが多く、お互いの施設環境(温湿度、CO2濃度、日射量など)の比較がクラウドを通じて簡単に行える特徴があります。農業資材系やIT系など国内メーカー各社より多くの製品やサービスが提供され、選択肢も多い分野です。

ユーザーはスマホ画面で自分の農場の環境やグループ登録されたメンバーの環境などを参照可能です。自分の思い通りの環境に施設内がなっているか?他のメンバーの状況はどうか?など、リアルタイムで把握することができます。こうした簡便な情報共有の機能は、3Gや4Gなど通信サービスの発展と低廉化、センサー類の低コスト化、クラウドサービスの発達などに支えられています。価格的にも1セット10万円前後のものが多く、月額利用料も通信料金+αのものがみられます。

データの共有により情報交換や改善が容易に

環境モニタリングの他にも、クラウドを活用した農作業データの記録や集計のサービス、登録農薬情報をもとに農薬使用履歴を管理するサービスなど、様々なサービスが近年提供されるようになり、施設園芸生産者の間でも利用が進んでいます。そこでのデータは単に記録や履歴管理のためだけでなく、GAPや経営情報として活用可能です。次章ではデータの活用について記します。

データの活用

②で収集され、クラウド上のデータベースなどに蓄積されるデータは膨大になります。それらを集計し、一定の基準をもとに分析し、現状の改善に活用することが求められます。そのためには、分かりやすく、使いやすい基準や尺度といったものが必要となります。

 

たとえば温度データを収集した際には、最高最低温度の他、日平均温度や昼間平均温度、夜間平均温度といったものが算出されます。植物の成育は平均温度に影響されることが多く、成育のステージなどに応じて目標とする平均温度を定め、それとの乖離がないかなどをユーザーは確認することになります。また晴天日で昼間の平均温度が高くなった場合には、それに応じ夜間の平均温度を低くするよう暖房機の設定を調整し、トータルで日平均気温が一定になるような操作を行うこともあります。

環境モニタリング画面
データは分析・活用が重要

ただし、相手は生き物であり、温度の他にも湿度や土壌水分など様々な要因が植物の成育に影響を及ぼします。そのため一つの尺度にこだわらず、さまざまな尺度と実際の植物の様子を観察し、総合的に分析や判断することが現場では求められます。データの共有や分析のツールやサービスは導入すればすぐに成果が得られるものではなく、やはり観察や経験値も必要と考えるべきでしょう。そのためには良い成果を生んでいる他の農場のデータを参照し、実際に植物の様子や管理方法などを見聞きすることも重要でしょう。自分の農場に閉じこもらず、データを尺度として活用しつつ、他の農場のケーススタディを常に行うことが必要と考えられます。

今後の展開

施設園芸とスマート農業の分野は、環境モニタリングを切り口として普及や展開が始まった段階と言えるでしょう。今後は、栽培や出荷にかかわる様々なデータも収集され、さらに流通や販売先とのデータの連携といったサプライチェーンにかかわる動きも予想されます。収量予測をもとに販売計画を立案する、需要予測をもとに生産計画を調整するといった総合的なデータの活用がスマート農業の次の展開につながると思われます。

 

こうした考え方は製造業では一般的ですが、農業分野では作ったものを運んで売るという方法が長くとられてきました。これからの施設園芸の変革と経営の向上には、売れるものを無駄なく作るよう、サプライチェーンを念頭においたデータの活用が重要視されると考えられます。

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