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イチゴの施肥|土耕・高設栽培における施肥方法を解説

イチゴは全国で様々な品種が栽培され、栽培方法も土耕栽培、高設栽培(有機質培地、人工培地)にわかれ、また近年では夏イチゴの栽培も需要に応じ行われています。本記事では、一般的なイチゴの施肥の考え方について、例を交えてご紹介いたします。

イチゴの養分吸収特性の例

イチゴの養分吸収量について文献1)では、とちおとめの養分吸収量について総収量6.9t/10aの場合に、窒素21.1kg、リン酸11.1kg、カリ26.9kgとし(栃木農試,2001)、これを収穫量1t当たりにすると窒素3.06kg、リン酸1.61kg、カリ3.90kgとなります。文献2)では、全国の試験研究機関での養分吸収に関する試験成績を収集分析した結果として、イチゴでは収穫物1t当たりで窒素3.14kg、リン酸1.54kg、カリ6.44kgとあり、前述のとちおとめの窒素とリン酸の養分吸収量とほぼ同じ値となっています。

 

文献1)では、肥料成分と生育との関係について、窒素、リン酸、カリ、カルシウム、マグネシウム、微量要素について述べています。窒素についてはタンパク質生成の原動力として生育への影響が直接出やすく、欠乏症として黄化や花数の低下、生育スピードの低下、葉面積の減少を挙げています。欠乏の場合には液肥などにより無機態窒素の施用により迅速に回復できるとし、窒素多施用では軟弱徒長、本圃でのうどんこ病発生、花芽分化遅延、また窒素過剰による花粉稔性低下と不受精果発生などあげており、窒素の多寡への反応が取り上げられています。また施用する肥料として、有機質肥料、ボカシ肥、肥効調節型肥料(緩効性肥料)をあげています。

土耕栽培での施肥例

文献1)では、栃木県におけるとちおとめの施肥基準として、窒素が基肥15kg、追肥5kg、リン酸が基肥20kg、追肥0kg、カリが基肥20kg、追肥5kgとしています(10a当たり)。また文献3)では、栃木県で土耕栽培により単収7.3tの実績がある上野忠男氏の基肥施肥例として、窒素が12kg、リン酸が34kg、カリが22kgをあげています(10a当たり、有機質肥料、もみ殻堆肥、ケイ酸カリなど施用)。この例では追肥は液肥を潅水チューブで施用しています。また3月以降の気温上昇期には堆肥の肥効が徐々に発現することから、追肥による窒素過多とならないよう窒素濃度の低い液肥を10日に1回、4月まで施用しています。

高設栽培での施肥例

高設栽培では、土耕栽培に比べ少量の培地を使用しています。そのため土耕栽培に比べて土壌の緩衝能力が低く、また培地にロックウール等の無機質の素材を使用すると更に緩衝能力が低下します。その場合はかなりデリケートな肥培管理が求められるため、高設栽培では有機質培地を使用するケースが多くみられます。また培地容量の多少によっても緩衝能力に影響があります。一般的な園芸用培土を大型の栽培槽に詰め、土耕栽培に近い感覚で栽培を行うケースもあります。しかし空中に栽培槽が置かれた高設栽培での培地温度は周辺環境の影響を受けやすく、固形肥料の肥効が安定しない問題があります。特に夏場の定植時期など室温が高く、肥効が進み過ぎることもあります。そのため液肥を主体に追肥を適宜行うのが、高設栽培での一般的な施肥方法となるでしょう。肥効調節型肥料を用いる場合、肥効が進み肥料濃度が高くなりすぎることで根への影響が出ることがあり、注意が必要となります。

文献4)では、高設栽培での施肥例として、山崎処方、千葉農試、大塚ハウスAの各処方と主要成分組成を紹介しています。おのおのには組成の違いがみられますが、同文献では「処方のちがいとイチゴの生育への影響はみられない。組成のちがいより濃度の違いが生育に大きく影響している。」とし、「イチゴの根は養液濃度に非常に敏感な作物であり、低濃度の肥料を施用することが肥培管理の基本である。」としています。また具体的な生育ステージごとの養液濃度(EC値:ms/m)の目標値として、定植期:0.6、定植~2週間後:0.5~0.6、開花期:0.6~0.7、収穫開始時期~厳寒期:0.8程度、3月以降:0.6~0.7とし、低濃度の養液管理が示されています。さらにpHが高い原水の場合にはリン酸、鉄、マンガンなどが沈殿し吸収量も低下、チューブ目詰まりの原因になるため、pH調整や他の原水利用が必要としています。pHは生育期間を通して5.0〜6.5に保つとあります。以上のようにイチゴ高設栽培の施肥には、トマトなど他の果菜類とは多くの異なる点があります。

今後の展開

ご紹介した施肥例は特定の品種についてのケースもあるため、特に草勢の強い品種などでは液肥濃度の調整が必要な場合もあり、品種や栽培ステージに応じた施肥の方法を確認する必要があるでしょう。また給液の他に排液でも養液濃度を確認することが可能で、その際には排液量(排液率)と合わせ天候やイチゴの生育状況による推移を追ってみることも必要でしょう。高設栽培では排液ECや排液率を管理することで、どの程度の養分吸収が行われているか推定が可能です。これらは栽培管理での貴重なデータとなります。

 

 

参考文献

 

  • 植木正明,土つくりと肥培管理,潅水,最新農業技術 野菜 vol.5(2012),農文協
  • 尾和尚人,我が国の農作物の養分収支(1996),環境保全型農業連絡会ニュース(33)
  • 特集 イチゴ8tどりへ 栃木・3名人の技術,最新農業技術 野菜 vol.6(2013),農文協
  • 伏原肇,イチゴの高設栽培 栽培のポイントと安定化の課題(2004),農文協
  • 吉田裕一,高設栽培ー品質と収量を両立させる経営と技術,最新農業技術 野菜 vol.5(2012),農文協
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