野菜栽培の作業の中で収穫は多くの割合を占め、生産コストにおける比率も高いものがあります。また収穫は適期が限られていることが多く、集中的な作業が求められることもあり、遅延した場合には収穫ロスの他、他の作業への影響も考えられます。自動収穫ロボットは、人手不足の中での収穫作業の機械化・省力化や、生産コストの低減などを目的に開発されています。本記事では特に機械化や自動化が遅れている施設野菜栽培の分野において、様々な品目向けに開発されている自動収穫ロボットについてご紹介します。実際の自動収穫ロボットの形状や性能などについては、参考文献をご参照ください。
アスパラガスの自動収穫ロボット開発と実証
参考文献1)、参考文献2)では、アスパラガス自動収穫ロボットの生産現場での実証について、農林水産省のスマート農業実証プロジェクトによる成果が紹介されています。本ロボットはinahoにより開発され、佐賀県太良町のアスパラガス生産法人であり、ゼロアグリの導入先でもあるA-nokerなどでの実証試験が行われています。inahoのアスパラガス自動収穫ロボットは、畝と畝の間の通路を車輪走行し、カメラとAIによる画像処理によって検知したアスパラガスの芽を収穫ハンドにより収穫し、ロボットに載せた収穫コンテナに収納するものです。
実証プロジェクトでは、inahoが提供するRaas(Robot as a service)と呼ばれるサービスにより、ロボットを実際に導入したA-nokerなどのアスパラガス生産者において、ロボットによる収穫率、作業時間や経費の削減効果について調査をしています。RaaS料金の計算方法は、ロボットの収量× 市場のkg単価×15%となっており、この料金と作業時間短縮による経費削減を比較しています。また実証を通じての課題として、収穫率、収穫速度の向上のための圃場とロボット双方の改良や、切りきれない個体への対応などがあげられています。
ピーマンの自動収穫ロボット開発
参考文献3)では、AGRISTによるピーマン自動収穫ロボットについて紹介がされています。他の自動収穫ロボットと異なり、ハウス内に敷設したワイヤーを使った移動を行い、またワイヤー端部ではU字型レールによって隣の列のワイヤーへ移動する仕組みとなっています。このワイヤー吊り下げ方式のメリットとして、施工が簡単であること、トマトの自動収穫ロボットなどで見られるレール方式に比べ低コストであり、従来型の土耕栽培などの農場にも導入可能なことをあげています。カメラで撮影した画像をもとにAIによるピーマンの検出を行い、独自開発の収穫ハンドによる収穫を行います。収獲したピーマンは収獲コンテナに落とす仕組みになります。同社は宮崎県にてピーマン農家の福山氏と共同開発を行っており、また自社農場での研究開発を行うことで仕立て方などの栽培技術とロボット技術の最適解を検証しているとのことです。
参考文献4)では、2022年秋からのレンタルサービス開始に向けた新たなロボットの市場投入モデルを発表しています。そのモデルでは、新開発の多関節アームによるピーマンの収穫範囲の拡大、新たに広範囲の探索専用カメラを搭載したことによる探索効率の向上、AIによる枝切り回避機能の搭載がされているとのことで、研究開発による性能向上が進められています。
トマトの自動収穫ロボット開発
トマトの自動収穫ロボットは、パナソニックやデンソーといった電気メーカー、機械メーカーと、大学や農研機構などの研究機関、実証農場などにより、共同で開発が行なわれています。参考文献5)では、DENSOが開発した「FARO」と呼ばれるロボットについて紹介しています。デンソーは、三重県の浅井農園と共同で大規模トマト栽培施設AgriD(約4ha、三重県いなべ市)を設立し、そこでFAROのモニター評価を2020年より実施しています。FAROは自走式の移動台車の上にロボットアームの制御を行うコントローラや画像認識を行うデータサーバーが置かれ、さらにハンドカメラ付きロボットアームと固定カメラ2台が搭載された構成になっています。また画像認識やロボットの制御に必要なミドルウェアやOSも自社開発しており、様々な機械学習を行いながら房取りトマトの果柄を検出しロボットアームを制御しています。
参考文献6)では、FAROに搭載されたハサミの開発について、刃物メーカーによる紹介がされています。この刃物メーカーのハサミは既に浅井農園で使われており、さらに「ステンレス製でサビにくく、果菜類の硬めの軸も切断できる収穫鋏を、FAROに取り付けられるよう加工」したとあります。ハイテクの塊である収穫ロボット技術と、職人の世界である専用ハサミの加工技術が合体し、現在もAgriDでの実証が進められています。
オランダの自動収穫ロボット開発
参考文献7)では、オランダのWUR(ワーゲニンゲン大学&リサーチセンター)を中心に進められているパプリカ収穫ロボットの国際研究開発プロジェクト(SWEEPER)を紹介しています。WURでは、前身のDLO(農業研究機構)の時代から自動収穫作業ロボット開発を行っており、1990年代を中心にキュウリのハイワイヤー栽培での果実の認識や、収穫ハンドを交換し摘葉作業も可能なシステムなどの研究開発が行われていました。その後、EU域内10ヶ国13機関が参加する大型プロジェクト(CROPS)が2010年から開始され、汎用ロボットアーム、オープンソースのロボット用ミドルウェアなどの開発と標準化が進みました。
さらに後継プロジェクトとして実用化に向けたSWEEPER(ロボット利用実証課題)が2015年より開始し、WURが代表機関となり、収穫ハンド、ロボット制御、ディープラーニングなどによる果実認識と熟度判定、ロボット収穫に適した栽培技術、大規模施設での実証、施設内での移動プラットフォーム開発などの研究開発が参画機関の共同で行われました。2018年のプロジェクト終了時にはパプリカでの収穫時間と成功率などの成果を得ましたが、商業生産でロボット利用のための課題も残されており、ロボット動作を単純化できるような視認性の高い果実など、品種側への期待もされています。参考文献8)では、その後もWURアグロフードロボティクスとして、技術者および研究者のチームが業界のパートナーと連携して開発を行い、露地栽培、施設園芸、フレッシュチェーンとフードチェーンのための農業ロボットシステムを設計するとあり、継続的な研究開発が行われている模様です。
今後の展開
施設野菜では、その他にも参考文献9)にあるイチゴの自動収穫ロボットも開発され、高齢化が特に進んでいるイチゴ産地などで実用化への期待が高まっています。自動収穫ロボットの開発には、アームと刃による収獲、画像処理、AI、ロボット制御といったハードソフトの技術と、品種や仕立て方などの栽培に関連する技術の双方が関係する大変奥深いものがあると思われます。そのためオランダの例のように長期間にわたり多くの関係機関が携わる開発プロジェクトもあり、投入された資金も膨大な額になるものと考えられます。国内の自動収穫ロボットの開発にも多くの資金が投入されているものと思われ、今後はロボットの能力や精度の向上とともに、これら開発費用の回収のためのロボットの価格や利用料金の設定も課題になるものと考えられます。
参考文献
1)自動収穫ロボットの導入による収穫作業の省力化及び自動化実証PRJ、スマート農業実証プロジェクト/労働力不足の解消に向けたスマート農業実証、農研機構
2)自動収穫ロボットの導入による収穫作業の省力化及び自動化実証PRJ、A-noker(株)ほか(佐賀県佐賀市・太良町)、農研機構
3)秦 裕貴、ピーマン自動収穫ロボットを活用した持続可能な農業の実現、施設園芸新技術セミナー・高知テキスト(2022/11)
4)アグリスト、2022年秋からのレンタルサービス開始に向けてピーマン自動収穫ロボット「L」の市場投入モデルを発表、PR TIMES 2022年3月23日
5)長谷川 貴巨、トマト自動収穫ロボット「FARO」の開発、日本ロボット学会誌 39 (10), 907-910, 2021
6)【スマート農業×刃物】ミニトマトの自動収穫機に専用刃を提供、アルスコーポレーションWEBサイト(2021/1/20)
7)内藤 裕貴・Jochen Hemming、オランダにおける自動収穫ロボット開発、施設と園芸 184(2019 冬)
8)EJ Baeza Romero、オランダにおける最新施設園芸技術開発(Advanced technologies of horticulture in the Netherlands)、愛媛大学植物工場研究センター 植物工場先端技術セミナー 2020年1月21日
9)AIでいちごを自動収穫 ロボットを開発 久留米市の企業、福岡 NEWS WEB、NHK(2022/5/17)