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生育予測・収量予測について 
ー作物別の収量予測と様々な予測技術ー

農業生産は日射量や温度などの気象要因に大きく左右され、計画的な生産を行うにはそうした外的要因を考慮する必要があります。一方で内的要因である栽培技術や作物の管理方法などにより、生育や収量への影響も大きく現れます。こうした様々な要因を踏まえ、近年様々な研究や実装が進む生育予測・収量予測について作物別にご紹介します。

さらに、研究開発中のものも含め、様々な予測技術についてもご紹介いたします。

作物別の収量予測

 

アスパラガスの収量予測

参考文献1)では、アスパラガスの収量予測を気象データと13年間の出荷データの解析により行っています。ここでは、各要因間の相関を統計解析により求めています。例えば月別日照時間と収量について、「5月と6月の日照時間の合計が多いほど夏芽の収量と年間の収量が高い」という相関関係が分析されています。これは5、6月が親茎の形成期に相当することから、この時期の日照がその後の生産力に影響を及ぼすためとしています。日照時間のコントロールは困難ですが、天候状態にあわせた作物への採光性の管理を枝の除去などで行うことで、ある程度の対応は可能のようです。本文献では他にも気温と収量についての解析も紹介しています。このように過去の気象データと収量データの統計解析により、直近の気象条件や気象予測などから先々の収量の見通しを立て、それに応じた栽培管理上の調整に活かすことも考えられます。

トマトの収量予測

参考文献2)では、宮城県による日射量によるトマトの収量シミュレーションを紹介しています。これは「日射量に基づいて乾物生産を推定し、乾物生産をベースに乾物分配率等からポテンシャル収量を算出」するものです。ポテンシャル収量は、その時の諸条件で期待される最大収量のことで、ここでは「開花から収穫までの発育ステージごとの果実生長速度に基づきシミュレーションしており、週ごとの推定が可能である」としています。シミュレーションはExcelのシート上で可能で、日射量の他に「葉面積指数(LAI)、商品果率、施設内気温、目標1果重等」を入力し、「自動的に可販収量、総収量、週あたり収量、収穫到達週数、適正着果数」を出力する機能を持っています。また必要となる葉面積指数を簡易に推定する手法も開発されています参考文献3)。以上のシミュレーションは、繁忙期などの作業計画や人員計画の策定への応用、販売計画や経営計画への応用が期待されており、また予測値と実際の生育や収量を比較することでの振り返りも可能と考えられます。参考文献4)では、それらを大規模施設園芸へ適応したことが詳述されています。

参考文献5)では、三重県において、農研機構が開発した生育・収量予測ツールを用い、実際のトマト栽培に応用し高収量を得た試験成果を紹介しています。このツールは「日毎の日射量、二酸化炭素濃度、ハウス内気温、栽植密度、着生葉数より、日毎の光合成による乾物生産量を推定し、最終的にポテンシャル収量を予測できる」ものです。「50t/10a を超えるような設定値に準じるよう毎週環境および生育管理を調整したところ、トマト「鈴玉」にて 55.5t/10a の収量を達成した」とあり、生育・収量の予測条件を逆に実際の栽培に適応し、高収量をあげた形になります。このことで予測に関するデータをもとに生産計画への応用も可能になるものと考えられます。なお、得られたトマトの品質は可販果率や糖度で通常よりやや低く、また本ツールは「環境および生育の管理が果実品質に与える影響までは対応しておらず、収量の予測のみに対応」としています。あくまで乾物生産量の演算にもとづく収量予測であり、品質面での評価は別の範疇ということかもしれません。

キュウリの収量予測

参考文献6)では、JA西三河きゅうり部会での収量予測の取組みを紹介しています。スマート農業実証プロジェクトの中で、「比較的安価でハウス内環境データや LAI 等が計測できる「あぐり BOX」が部会全体で導入」され、それを利用し「部会員全員のデータを用いた出荷量予測を行うなど、産地全体の出荷量を予測して販売・物流を改善する取組を行う」こととしています。また収量予測の目標として、「販売への活用を目指し、産地全体を対象とした2週間先の出荷量を予測するモデルの作成」をあげています。

ここでは、「過去の産地全体の出荷データと日射量データを解析して産地全体の出荷量を予測するモデル」が作成され、「過去データを用いて精度を評価したところ、一定の精度で予測できることを確認」とあります。同文献では物流に活用する翌日の出荷量予測の取組みも紹介しており、仲卸業者などへの情報提供により有利販売や価格安定、欠品が予想される場合の事前対応などに活用するとしています。参考文献7)では、収量予測も含めたきゅうり部会でのデータ活用の取組みを紹介しています。

ナスの収量予測

参考文献8)では、愛知県におけるナスの収量予測の研究について紹介しています。ナスの整枝法では剪定を伴いながら側枝を伸ばし着花着果と収穫を行う形のため、トマトのように主枝を伸ばしながら着花着果する作物とは異なる予測が必要になります。ナスでは「開花後の環境条件に影響を受けて果実が肥大すると想定することで、開花数及び着果数を用いて2~3週間先の収量予測(以下、短期収量予測)が可能である」と考え、あらたに予測式を開発しています。ここでは、生育調査データを活用して実際の着果などの状況を反映した予測式となっています。予測式では、開花数、着果数、積算日平均気温、積算日射量をもとに収量を計算しており、過去の気象データを用い計算した予測値と実測値は収穫期間を通じほぼ一致している、とのことです。

今後の展開

以上のように、研究にもとづく収量予測の例を作物別にご紹介しました。予測は長期のものから短期(1週間程度)のものまで様々ですが、明日の予測を行うことは困難と思われます。またJA西三河きゅうり部会のように実際の販売活動に結び付けようとする例もあり、今後は実用的なレベルへ近づくものと考えられます。近年は生育調査のデータを収量予測で用いるケースも多く、生育調査のひとつの出口になっていくとも考えられます。

様々な予測技術

AIを用いた収量予測

参考文献9)ではAIによるキュウリの収量予測技術を紹介しています。関東地方のキュウリの主産地である埼玉県では、明治大学の協力により収量予測に適したAIの選定を行い、そのAI(ResNet50)を用いて実際の環境データや生育データと画像により収量予測を行っています。用いたデータは温度、日射と、試験区7株の開花節位、開花節長、雌花数、開花節径の生育調査によるもので、1週間単位での予測を行っています。予測結果として、平均的な収量の場合は8割程度の精度が得られ、収量が大きい時期や小さい時期には精度が低かったとのことです。また今後は生産者が活用できるよう、予測精度の向上とともに、生育データを使わず画像と環境データでの予測にも取り組むとのことです。

参考文献10)では移動式の計測装置とAIによるトマトやパプリカでの収量予測技術を紹介しています。これは農研機構が開発した着果モニタリングシステムと呼ばれる技術で、大規模施設園芸で用いられる自走式高所作業台車に画像計測装置を取り付け、ハイワイヤー栽培での着果状況を連続撮影しています。撮影結果から展開画像(連続して撮影した写真をつなぎ合わせたパノラマ画像)を生成、AIにより展開画像を分析して収穫可能な果実を検出するものです。収穫可能かの判定は、展開画像の果実の部分の色情報から熟度を判定することで行っています。この技術はパプリカの大規模施設園芸の現場で実証が行われており、収穫可能と判断された果実数と翌週の同撮影列における収穫量との間に高い相関が認められたとのことです。日々の収穫果実数を正確に予測することが可能となり、大規模施設園芸における収穫や選果出荷の作業を行う際の作業計画への適応が期待されています。

参考文献11)ではトマトの大規模施設園芸でのAIによる収量予測技術を紹介しています。これはカゴメの子会社であるカゴメアグリフレッシュ(株)が全国で展開する大規模菜園においてすでに導入されているものです。10ha規模のいわき小名浜菜園など、カゴメ系の大規模菜園では、従来「生鮮トマトの営業計画(当週~数週間先)を積算温度情報等のデータと、菜園担当者の経験に基づく収量予測とを統合し立案」していたとのことです。しかし経験不足や予測不能な収量変動もあり、それによる欠品や廃棄ロスも問題となり、新たにAIを活用した「生鮮トマト収量予測システム」をAI・機械学習の専門の企業と共同開発を行っています。本システムにより「これまでの収量予測手法では精度が著しく低下する数週間先の予測精度を高めることが可能」となったとしており、今後も過去の栽培管理に関するビッグデータを活用しながら予測精度を高めていくとのことです。

参考文献12)ではイチゴの収量予測を光合成モデルとAIモデルを組み合わせ行う技術を紹介しています。大阪ガスとイオンアグリ創造が実証を開始するもので、大阪ガスは従来よりAIによる気象予測を行っており、日射量、CO2濃度、温湿度等から個葉単位での光合成量を算出する光合成モデルと、株全体の光合成量や果実への糖の分配などを求め収量を予測するAIモデルを開発し、二つのモデルを組み合わせることで高い予測精度と汎用性を実現したとのことです。今後はイオンアグリ創造のイチゴ農場において10日後の収量予測を行い、本手法の有効性を評価し改良を進める予定とのことです。

クラウドを活用した収量予測

農研機構の生育・収量予測ツールとAPI化

参考文献13)では、農研機構が開発した生育や収量の予測技術を紹介しています。これは「環境情報および生体情報から生育や収量を予測する技術」であり、「生理学に基づいた生育モデルを使用しているため、環境条件や管理方法による生育・収量の変動を定量的に評価することができる」としています。また参考文献14)では、本技術を「施設園芸作物の生育・収量予測ツール」として紹介しています。本技術は研究機関や大規模施設園芸において実証が行われており、環境データなど様々な条件を設定することで、その際の収量を予測して実際の管理に反映することもされています。

また農研機構では本技術をデータプラットフォームである農業データ連携基盤(WAGRI)に実装しています。API化を行いクラウドやWAGRI を介し計算結果を提供可能な仕組みとしており、「生産者はサービス提供者からのアプリを利用し予測情報を得ることができる」としています。農研機構はAPIを通じ予測技術を提供し、それをもとに予測サービスを行う事業者から生産者は情報を得るというクラウドを活用したものとなっています。参考文献15)ではAPIでの施設野菜での対応品目拡大について紹介しており、参考文献16)では露地野菜6品目(キャベツ、レタス、ブロッコリー、葉ネギ、タマネギ、ホウレンソウ)に対応したAPIの提供開始を紹介しています。

日本農業新聞2023年3月23日付け営農面では、静岡県の大規模農業法人が農研機構の生育予測システムによりレタスの収量予測を行った事例を紹介しています。ここでは従来4%程度あった廃棄率について、収穫2、3週間前に平年との差が予測できることで取引先との出荷量調整や出荷作業日調整を行い、2%の実現を目標にしています、すでに今シーズンは2月末までに廃棄率ゼロを達成しているとのことです。大規模法人でのロス削減効果は、金銭面でも環境面でも大きなものがあると考えられ、生産側、実需側双方のメリットとともに品目など適用場面の拡大が期待されます。

高知県のIoPクラウドと生育情報の利活用

参考文献17)では、高知県などが開発した農業データ連携基盤「IoP(Internet of Plants)クラウド」(通称「SAWACHI(サワチ)」でのデータの連携、活用などについて紹介しています。SAWACHIは生産者向けのポータルで、気象データ、ハウス環境データ、JA選果場での出荷量データ、機器稼働状況、画像データなどをモニター可能で、すでに高知県内でサービスが開始されています。さらに研究機関などの参画で、「AIによる園芸作物の生理・生態情報の可視化や、画像からの花数・実数の自動集計」が、実証協力生産者の一部の圃場を対象に実装されているとのことです。この自動集計機能とハウス環境データや気象データをもとに、すでに開発されている施設野菜の生育・収量予測モデルなどを活用し、販売との連携や生産・作業計画策定などへつなげることが期待されます。

今後の展開

以上のようなAIやクラウドを活用した生育・収量予測についてご紹介をしました。本分野では多くの研究機関や企業が技術開発を行っており、また生産現場での実証や本格的な運用も進んでいる様子が伺えると思います。日進月歩の分野とも言え、今後は様々な技術や手法を組み合わせながら、より精度の高い予測や実際の営農活動、販売活動への活用が期待されます。

参考文献

1)井上 勝広,収量に影響を及ぼす気象要因と収量予測(2011年),『農業技術大系』野菜編 第8-2巻 アスパラガス

2)宮城県農業・園芸総合研究所,日射量に基づいたトマトの収量シミュレーション,宮城県「普及に移す技術」第 96 号(令和2年度)

3)宮城県農業・園芸総合研究所,宮城県農業・園芸総合研究所,トマト葉面積指数(LAI)の簡易推定法,宮城県「普及に移す技術」第 96 号(令和2年度)

4)宮城県農業・園芸総合研究所,作業管理システム及び生育予測を核とした大規模施設園芸発展スキームの構築 宮城県拠点成果集(2020年)

5)西村 浩志,生育・収量予測ツールを用いたトマト「鈴玉」の 55t/10a 採り栽培,三重県農業研究所所 野菜園芸研究課 2018年

6)久野 哲志・榎本 剛士,JA西三河きゅうり部会の高精度な出荷量予測 ~販売の安定・物流の改善による生産者の収益向上~,ネット農業あいち 令和4年3月31日

7)徳田 博美,農協生産部会によるスマート農業の推進 ~JA西三河きゅうり部会の取り組み~,調査・報告 野菜情報 2022年8月号,農畜産業振興機構

8)伊藤 緑・他,ナス「とげなし輝楽」の促成作型おける短期収量予測式の作成,愛知農総試研報 53:191-194(2021)

9)山田 融,施設キュウリ栽培における収量予測技術の開発,令和4年度埼玉県農業技術研究センター試験研究成果発表会 発表要旨

10)農研機構,(研究成果) AIで果実とその熟度を自動判別し、収穫量を予測する装置を「国際ロボット展2022」に出展します,プレスリリース 2022年3月1日

11)カゴメ,AI を活用した生鮮トマトの収量予測システムを開発・導入 ~AI の農業活用によりムリ・ムダのない持続可能な農業生産へ~、ニュースリリース 2022年5月31日

12)大阪ガス・イオンアグリ創造,光合成モデルとAI技術により農作物の収穫量を高精度に予測する新手法を開発、イチゴ農場における実証実験を開始,大阪ガスプレスリリース 2023年2月28日

13)安 東赫,ICT 等情報の高度化による野菜のスマート生産技術,日本農学会シンポジウム コロナ禍のその先へ~農学のチャレンジ~,農業および園芸 第 97 巻 第 1 号 (2022 年)

14)東出 忠桐,施設園芸作物の生育・収量予測ツール,技術の窓 №2559 R4.4.25,日本政策金融公庫

15)農研機構,国際競争力強化技術開発プロジェクト 施設野菜の生育収量予測APIにおける多品種対応技術の開発(2021年)

16)農研機構,「NARO生育・収量予測ツール」露地野菜品目APIの利用申込について ,WAGRI お知らせ 2023年1月10日

17)高知県,高知県がIoPクラウド(SAWACHI)の本格運用を開始~ データ駆動型農業を普及し、「もっと楽しく、もっと楽に、もっと儲かる」農業へ ~,PR TIMES 2022年9月21日

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