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パプリカ栽培での悩みについて② パプリカの夏秋栽培と病害虫防除

これからパプリカ栽培に取り組む際に、栽培についての悩みにお応えするよう、本記事では施設費や光熱費などが比較的かからず低コストで取り組めるパプリカの夏秋栽培や、病害虫防除について触れてまいります。

パプリカの夏秋栽培

 

日本海沿岸にある山形県遊佐町では、無加温の土耕栽培が1990年代より試験的に取り組んでおり、2020年の栽培面積が489a、2019年では生産者数49名、生産量219t、販売額1億1,213万円であり参考文献1)、全国的にも大きな産地となっています。また遊佐町では春定植で7月から12月までの出荷を行っています。参考文献1)によると、技術的には山形県農林水産部職員の古野伸典氏などの支援により、青枯病対策での接ぎ木の導入、簡易な摘心方法(葉1枚残し)の導入、日焼け果対策での遮光資材の選定、10月以降の未着色果に対する光照射による着色促進などが取り組まれており、夏秋パプリカ産地での栽培技術が長年にわたり確立されています参考文献2)。なお、パプリカの品種はオランダのENZA社のものを中心に利用しています。

 

太平洋岸の茨城県鉾田市のJA茨城旭村では、2005年よりパプリカ栽培が行われて、関東地方の平地では珍しいパプリカの産地化がされています参考文献3-6)。前述の山形県とは異なり冷涼な地域ではありませんが、海岸線から1kmほどの立地にあり、海風によって内陸より1~2℃気温が低いことがあり、またハウスに遮光ネットや遮光塗料を用いるなどし、温度上昇も防ぎながら夏秋栽培が行われています。また同地区では7~8月に果重200g以上のA品を「パプ王」として個包装での販売をしています。ピーマンやパプリカは他の果菜類に比べ比較的暑さには強い作物ですが、強日射による果実の日焼けを防ぐための遮光資材が利用されています。なお品種は横浜植木のものが使われています。

 

関東地方の高冷地である群馬県沼田市では、2004年よりパプリカ栽培が開始され、翌年よりJA利根沼田に8名のパプリカ生産部会が結成されています参考文献7)。同地区では畑かん事業が整備され、雨よけハウスでの点滴潅水による養液土耕栽培が行われています。また同じく沼田市ではゼロアグリユーザーの中條農園においてもパプリカ栽培が行われています。

ゼロアグリユーザーのパプリカ夏秋栽培

 

ゼロアグリのパプリカ夏秋栽培への導入事例として「中條農園中條様(群馬県・パプリカ)|繊細な水管理(少量多潅水)をAIを活用することで実現」が、参考文献8)で紹介されています。中條農園では30aのハウス(強化型のパイプハウス)のパプリカ養液土耕栽培が行われています。中條農園は沼田市で初めてパプリカ栽培を手がけています。ゼロアグリによる自動潅水で十分な水分供給を軽石土壌へ行っており、潅水作業の省力化とともに、高温期にもパプリカの生育に必要な潅水量を切らさず与え、良好な生育が得られています。導入事例でのお話しでは、ゼロアグリが導入されていないハウスでも、ゼロアグリを参考に潅水を行っているとのことです。中條農園でのパプリカ栽培は、3月に育苗開始、5月GWに定植、7月中旬から12月一杯の収穫の後、1月に片付けを行い2月は休むサイクルで行われています参考文献9)

 

パプリカの病害虫防除

パプリカ栽培では様々な病害虫が発生することが多く、早期の発見と防除が求められます。参考文献10)には、大分県における大規模パプリカ栽培での生産管理マニュアルがまとめられています。そこでは、アザミウマ類、アブラムシ類、ハダニ類、ヨトウムシ・タバコガ類、コナジラミ類などの害虫について生態や被害、発見方法と対策が、また病害としてウドンコ病と灰色カビ病についても同様に記載されています。

同文献にはアザミウマ類とコナジラミ類について天敵による防除が記載されており、参考文献11)や参考文献12)には施設パプリカ栽培でのスワルスキーカブリダニによる防除についてが記載されています。また参考文献13)には、コナジラミ類への天敵として知られるタバコカスミカメについてのパプリカ栽培での利用について、土着のタバコカスミカメの記載がみられます。そこでは温存植物のクレオメによりタバコカスミカメを増殖することが紹介されています。参考文献14)にはミヤコカブリダニによるハダニ類の防除について紹介されています。

なおパプリカの土耕栽培では、水田土壌など水はけの悪い土壌や連作により青枯病発生が多くみられます。それらの対策を含め次の記事ではパプリカ栽培の技術情報をご紹介します。

参考文献

1)藤科智海・大西偉益、山形県遊佐町の環境保全型栽培によるパプリカ産地化の取り組み、野菜情報2021年1月号

2)古野伸典・藤島弘行(2020):カラーピーマンの夏秋作型における遮光資材の展張期間と遮光率が障害果の発生と収量に及ぼす影響、農業施設第51巻第3号、pp.13-20.

3)石崎さんのパプ王、JAグループ茨城アモーレ 産地だより

4)消費者に喜ばれる安全・安心なパプリカ生産を目指して(2013年2月)、茨城県農業総合センター

5)【茨城再見聞】パプリカの王様「パプ王」JA茨城旭村のパプリカ、よみうりタウンニュース 2020年8月23日

6)石崎和浩、パプリカの「パプ王」は耐病性を持つ国産品種で勝負、農耕と園芸2017.9月号

7)若き力で土耕パプリカの産地づくり~利根沼田農協 赤城根パプリカ部会~、農林水産省関東農政局

8)中條農園中條様(群馬県・パプリカ)|繊細な水管理(少量多潅水)をAIを活用することで実現、ゼロアグリ導入事例

9)パプリカの栽培技術を磨き、日本でメジャーな野菜にする 中條 綾子(中條農園 代表)、月刊事業構想 2021年7月号

10)タカヒコアグロビジネス・ベストクロップ・大分県農林水産研究指導センター・大分県西部振興局・農研機構、温泉パプリカ生産管理マニュアル(2020)、革新的技術開発・緊急展開事業(うち経営体強化プロジェクト)経営体(大規模施設園芸)コンソーシアム

11)施設パプリカで物理的防除と天敵製剤を組み合わせて農薬の使用回数を削減しよう!(2014) 、岩手県農業研究センター研究レポートNo.723

12)里見純、天敵利用をめぐる海外の動向と我が国における展望、植物防疫 第73巻第1号(2019年)

13)オンラインシンポジウム「新規登録された天敵タバコカスミカメの上手な使い方と導入事例」【事前質問】(2021年)、農研機構

14)天敵製剤ミヤコカブリダニを用いたナス,パプリカのハダニ類防除(2006)、普及に移す技術(第80号)宮城県農業・園芸総合研究所

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