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パプリカ栽培での悩みについて③ 参考となるパプリカ栽培の技術情報

公開されているパプリカ栽培に関する技術的な情報は比較的少なく、またパプリカ栽培に絞った専門書籍も現時点では発行されていないようです。本記事では専門誌やWEBサイトなどから栽培でのお悩みの解決に参考になりそうな情報をご紹介します。

専門誌の特集例として農耕と園芸2017年9月号では「特集:パプリカの最新動向」が組まれ、前述のJA茨城旭村のパプリカ栽培の他、神奈川県農業技術センターでの試験研究例などが報告されています参考文献1,2)。また施設と園芸170号(2015年夏)参考文献3)では「特集:パプリカ栽培の新たな展開」として、パプリカの品種や全国の生産動向、大規模施設での栽培事例、同じく神奈川県での試験研究例などが掲載されています。

低軒高ハウスでの仕立て方

 

神奈川県農業技術センターでは、三浦半島でのパプリカ夏秋栽培が進む中で、育苗ハウスなど低軒高の無加温パイプハウスでの誘引方法や、年末の低温期に発生する着色不良果に対する追熟条件について報告しています参考文献4)。ここでは低軒高のハウスで「9月以降に主枝の先端が天井に達し,ハウス上部の高温及び強日射で上位段の日焼け果発生が増加したが,つる下ろし斜め誘引を行うことでその発生を大幅に軽減できた」と報告しています。つる下ろし斜め誘引については、宮崎県総合農業試験場でのカラーピーマンによる試験が報告されています参考文献5)。宮崎県では2本仕立てのカラーピーマンをU字型に誘引し、誘引線に取り付けた移動フックから誘引ヒモを垂らしクリップで主枝をヒモにとめる形の誘引を行っています。生長点が伸びるとフックをずらしつる下ろしを行う形で、比較的硬い主枝でも可能な方法のようです。同文献には図解による誘引方法の説明が掲載されていますので、詳しくはそちらをご覧ください。

低温期の追熟方法

 

低温期における着色不良果の追熟については、神奈川県では「部分的に着色が始まった果実であれば、 20 ~25℃の温度条件下で 3日程度追熟することによって概ね100%出荷でき、17~ 25%の増収効果がある」としています。また農研機構の野菜茶業研究所では「果実表面の10%以上が着色しているカラーピーマン・パプリカの未熟果を収穫し、15~20°Cの温度を保ちながら光を照射すると、4~7日で出荷可能な状態に着色する」という光照射追熟の方法を報告しています参考文献6)。この方法によって、夏秋栽培では1割以上の商品果の増収が見込まれる、としており、平成26年度で山形県、長野県、高知県の2ha以上の生産地で導入、としています。

接ぎ木苗による青枯病対策

 

パプリカの土耕栽培では、特に水はけの悪い水田土壌においてや連作によって青枯病の発生が顕著となり、全滅となるケースもみられます。パプリカはオランダなどで養液栽培用品種として育成されているため、青枯れ病抵抗性品種は無く、対策として接ぎ木栽培や土壌消毒が考えられるものの夏秋栽培では土壌消毒の期間が限られるため、抵抗性台木による接ぎ木栽培が検討されました参考文献7)。そこでの抵抗性台木である台パワー、台助を用いた接ぎ木栽培試験では、いずれの台木でも青枯病の罹病はほとんどみられなかったものの、ナス科の連作圃場で青枯病の菌密度が高いと思われる圃場では罹病がみられた、としています。そのため、排水対策なども併用し対策をする必要についても述べています。また青枯病の他にトバモウイルスに対して抵抗性を持つ「L4 台パワー」の育成が農研機構により行われています参考文献8)

パプリカの隔離栽培・養液栽培

 

前述の青枯病対策や育苗施設の活用などを背景として、岩手県農業研究センターでは山形県の協力のもと、「水稲育苗ハウスを活用したパプリカの簡易隔離養液栽培システム導入の手引き(第 1 版)参考文献9)を作成、公開しています。簡易隔離栽培は「ロックウール培地、角材、ビニール等と液肥コントローラーの組み合わせで取り組むことができ、特別な設備等が必要なく、自力施工が可能」とあり、育苗ハウス内に木枠を組んだ架台にロックウールスラブを配置し、別途育苗したロックウールキューブの苗をスラブに置いてドリッパーによる点滴潅水を行うものです。同手引きには、育苗ベンチや栽培装置の施工方法の他、品種選定(土耕栽培での台木も含む)、誘引・整枝方法(初期のV字誘引からU字誘引へなど)、遮光資材の選定、病害虫防除、光照射による追熟技術など、山形県で開発された技術も含め広範な内容になっています。一般のパプリカ夏秋栽培においても参考になる手引きと考えられます。

 

参考文献10)では、宮城県における夏秋栽培と加温を組合せた養液栽培による栽培体系が紹介されています。ここでの養液栽培には「軽装備なフィルム製の栽培ベットを使用し低コスト化を図った改良型宮城型養液栽培システムを用いた」とあります。また育苗期間と栽培後期に加温を行っており、「定植後の春期は最低気温を 18℃の高めに、栽培後期の秋期は最低気温 15℃を目安に」とし、単収10トン程度の収量を得ることができる、としています。

 

参考文献11)では、福岡県田川市に建設されたヤシガラ培地を使用した養液栽培による栽培が紹介されています。土壌病害対策や増収を目的として養液栽培が導入され、研修施設として利用されています参考文献12)

今後の展開

 

日本でのパプリカ栽培は歴史も浅く、市場も韓国を中心とした輸入品のシェアが高い状況ですが、生産量の拡大や円安傾向などにより国産品のシェアも少しずつ伸びているようです。機能性をうたったパプリカの販売も行われるようになっており、比較的棚持ちも良くカラフルで栄養価も高いパプリカの魅力はこれからも高まって行くものと思われます。また燃油価格高騰の中では夏秋栽培に注目が今後も集まることと思われ、そこでの高温対策や病害虫対策、生育に不可欠な十分な潅水や施肥などが必要不可欠と考えられます

参考文献

1)高田敦之、無加温パイプハウスによるパプリカ栽培体系の確立、農耕と園芸2017.9月号

2)阿部浩、土耕によるパプリカ生産に取り組む、農耕と園芸2017.9月号

3)施設と園芸170号(2015年夏)特集:パプリカ栽培の新たな展開、日本農民新聞社 園芸情報センター

4)高田敦之、三浦半島における無加温パイプハウスによるパプリカ栽培体系の確立(2014)、神奈川県農業技術センター研究報告157号

5)深田直彦・黒木利美、促成栽培カラーピーマンのつり下げ誘引栽培(2007)、農業及び園芸 82巻10号

6)松永啓、カラーピーマン・パプリカ栽培における光照射追熟技術を用いた増収栽培技術、野菜茶業研究所 2014年の成果情報

7)古野伸典、トウガラシ用台木品種への接ぎ木によるカラーピーマン(パプリカ)の青枯病抑制(2012)、植物防疫 第66巻 第4号

8)吉岡宏、土壌病害抵抗性をもつパプリカとトウガラシ用台木新品種「L4 台パワー」、「台ちから」 、技術の窓 №2077 H 27.8 .25

9)岩手県 水稲育苗ハウスを活用したパプリカの簡易隔離養液栽培システム導入の手引き(第 1 版)、食料生産地域再生のための先端技術展開事業「ブランド化を促進する果実等(野菜)の栽培・加工技術の実証研究」

10)夏秋どりパプリカの養液栽培(2006)、普及に移す技術(第80号)宮城県農業・園芸総合研究所

11)田川パプリカ増産へ本腰 市、生産者養成施設を開設 養液栽培ノウハウ伝授、2018/04/24付 西日本新聞朝刊

12)パプリカ実践型栽培施設、⽥川市建設経済部農政課農業企画室

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