養液土耕栽培や養液栽培では原水の利用が不可欠です。原水は井水(地下水)、用水(農業用水)の利用が多く、中にはため池の水を用いる場合もあります。また最近では、貯水槽などを用いた雨水利用も大規模施設を中心に行われています。
原水の成分によっては、機器の利用や栽培に大きな影響を与える場合もあるため、注意が必要です。そのため、栽培施設の場所を選定する際、または養液土耕栽培や養液栽培を開始する際には、原水について事前に確認する必要があります。その結果で機器や資材の選定を検討する材料とします。また利用に問題が生じる場合は、原水処理を行う必要もあります。
本記事では、養液土耕栽培での原水利用の際のポイントについてお伝えします。
養液土耕栽培で問題となる原水の水質
養液土耕栽培では、原水の水質によっては機器類や点滴チューブなど潅水資材での詰まりが起こります。そのために事前に問題となる水質について確認する必要があります。
まず、原水への物質の混入状況として、濁りや浮遊物質の存在、さらに大きいものとして砂や小石などの存在があります。濁りや浮遊物質については、原水を透明容器などで目視で確認することができます。参考文献※には、海外での水質基準例として点滴潅水に使用する原水のランク別水質基準が示されています。そこでは、浮遊懸濁物質の濃度が50mg/ℓ以下では目詰まりの可能性が微、50-100mg/ℓでは可能性が中、100mg/ℓ以上では可能性が激としています。
実際にこれらの測定は検査機関などに依頼する必要があるでしょうが、ひとつの目安の数値として捉えることができます。また砂や小石が実際に存在する場合には目詰まりの可能性ありと考えなければならないでしょう。
つぎに、原水の化学的な組成として、pHやマンガンや鉄の濃度があげられます。同じ参考文献では、pHが7以下では目詰まりの可能性が微、7.0-8.0では可能性が中、8.0以上では可能性が激としています。pH自体は詰まりの原因とはなりませんが、原水に重炭酸(炭酸水素塩のこと:HCO3-)などが多く含まれpHが高い値となった場合に、炭酸カルシウム(CaCO3)やリン酸カルシウム(Ca3(PO4)2)といった化合物が肥料を混入したあとには出来やすくなります。これらの化合物は水に溶けにくいため、詰まりの原因となります。
また同じ参考文献では、鉄やマンガンについては、0.1mg/ℓ以下では目詰まりの可能性が微、0.1-1.5mg/ℓでは可能性が中、1.5mg/ℓ以上では可能性が激としています。これらは微量要素だけに、濃度については十分注意が必要になります。他にも難溶性化合物となりやすいカルシウム、またマグネシウムについては、20mg/ℓ以下では目詰まりの可能性が微、20-50mg/ℓでは可能性が中、50mg/ℓ以上では可能性が激としています。
他に、原水中のバクテリア数があげられています。同じ参考文献では、1mℓ中のバクテリアコロニー数として、10,000以下では目詰まりの可能性が微、10,000-50,000では可能性が中、50,000以上では可能性が激としています。
フィルター類の利用による詰まり対策
前述のような原因から、養液土耕栽培で用いる点滴チューブなどでの詰まりが起こりやすくなります。こうした詰まりは潅水量の不均一や不足の原因となって、生育不良に直結するため、その対策が必要となります。養液土耕栽培では各種フィルター類が物理的な詰まり対策として利用されています。それらをご紹介いたします。
砂や小石など比較的質量のある物質を除去するために、サイクロン式のフィルターがあります。これはフィルター本体の内部に水流でサイクロン(渦巻)を発生させ、そこで原水と物質を分離させる機能があります。
浮遊物質、微細な砂や石など質量の小さい物質を除去するため、サンドフィルターがあります。これは金属製でタンク状のフィルター本体の内部に砂を詰めたもので、原水が砂を透過する際に濾過が行われます。鉄分の除去にも使われる場合もあります。濾過機能を維持するために洗浄が必要で、逆洗浄と呼ばれる2次側から1次側への送水を行います。タイマーや圧力差の検知によって自動逆洗機能を持つものもあります。
コンパクトな本体で、内部に切れ込みの入った円盤(ディスク)を重ねた構造の、ディスクフィルターがあります。配管での取付も簡易に行え、メッシュの種類によって濾過機能も様々です。構造的には丈夫ですが、濾過機能を維持するには洗浄が必要です。逆洗機能が付いた製品もあります。
上水や清浄な井水を利用する際などに用いられるスクリーンフィルターがあります。こちらもコンパクトな本体で、内部のステンレス製のメッシュによって濾過を行うもので、メッシュの種類により濾過機能が様々となります。
なお点滴チューブについても、圧力調整機能のついた製品には、目詰まり防止構造が組み込まれたもの、自浄機能が付いたものなど様々なタイプがあります。
その他の水質改善装置による目詰まり対策
フィルター類は、原水を濾過するために一般的に使われているものです。その他に、特定成分の除去用の水質改善装置が発売されています。
例えば鉄分、マンガン除去装置があります。これらは薬剤によって鉄、マンガンを酸化させ、さらに濾過を行うなど、専用の機能を持つ装置となります。比較的大型のものとなり、自動洗浄機能も付いています。
また塩分が多い地下水を利用する際に用いる逆浸透膜装置があります。これは水の分子を通し、塩類などを通さないような逆浸透膜(微細な孔の開いた特殊な膜)を用い、膜の前後の濃度差を利用して原水を浸透濾過する仕組みの装置です。処理水として濃縮液が発生する場合もあり、その2次処理も考慮する必要があります。
病原菌対策
原水に病原菌が存在する場合に、殺菌処理等を行う必要があります。対策として次亜塩素酸ナトリウムなど塩素系での殺菌処理を行うことがあります。その際に作物の生育に影響が出ないよう処理濃度については注意が必要となります。
資機材のメンテナンスの必要性
潅水機器や資材の詰まり対策を中心にご説明をいたしましたが、事前に水質調査や入念な対策を行い、日常のメンテナンスも行う他、作終了後などの期間にも設備全体のメンテナンスを行う必要があります。
配管全体の洗浄、フィルター類や点滴チューブ等の消耗部品の点検と交換、電磁弁等の機器類の詰まりの有無の確認などがあげられます。そうした作業の積み重ねにより、均一で安定した潅水と植物の生育に結びつくものと言えます。
※参考文献
青木宏他、養液土耕栽培の理論と実際、誠文堂新光社(2001)