うどんこ病は、果菜類をはじめ多くの作物に発生する病害です。葉、果実、果柄、花、花柄、葉柄など様々な部位に発生し、白い粉をふいたような症状が特徴です。病徴が進むと葉が巻き上がったり硬くなることもあります。また果実に発生すると出荷不能の状態になります。うどんこ病が群落で広がると、葉の一面が白く覆われた状態となり、光線透過と光合成を妨げ、生育や果実肥大を抑制します。
病原菌はカビの一種である子のう菌類で、白く見えるものは菌糸と胞子で、胞子が飛散して感染が拡大します。病原菌は作物の外部に寄生し高湿度で作物の内部に侵入します。また病原菌は罹病した作物や残渣の上で越冬や夏越もするため、ハウス栽培では起こりやすい病害と言えます。露地での発生は少ないものです。うどんこ病は発生してすぐに作物の生育に大きな影響を与えるものではありませんが、放置し拡大すると手が付けられない状態になりかねず、適切な防除が必要になります。
イチゴ栽培でのうどんこ病の特徴
イチゴ栽培でのうどんこ病の発生はよくみられ、育苗期間や本圃栽培期間に病原菌が寄生し、水滴や空気中の水蒸気を利用して胞子が発芽、ハウス内を飛散して空気感染を起こします。20℃程度が胞子の発芽適温と言われますが、低温下でも発芽が進み、夏期の育苗期間中など高温下では活動も抑制されます。
イチゴ栽培でのうどんこ病の発生は、多湿環境でも乾燥環境でも起こりやすく、その点が他の病害と異なります。露地の育苗やフィルム被覆前の本圃栽培では起こりにくく、被覆後からの発生に注意します。多肥栽培下や収穫最盛期で草勢が低下するときなどにも発生しやすいといわれます。発生部位は、果実、果柄、葉の表裏、葉柄などで、特に果実に少しでも発生すると商品性を失うことになり、収益低下に直結します。
イチゴ栽培でのうどんこ病対策
うどんこ病対策として、農薬による予防的な防除と発生後の防除、耕種的防除、IPMなどがあります。茨城県では、防除のポイントとして以下の3点をあげています3)。
1.ビニール被覆後は,ハウス内温度が発病に適した条件となる。また,ミツバチ導入後は,使用できる農薬が制限される。そのため,本圃では,ビニール被覆前後の防除を徹底する。
2.系統の異なる薬剤を組み合わせてローテーション散布を行う。
3.葉の表裏に発病するため,薬剤散布は葉裏にも薬液がかかるよう丁寧に行う。
耕種的防除について、同じく茨城県では以下の3点をあげています3)。
1.耐病性品種を栽培する。
2.密植,過繁茂を避け,日当たり通風を良好にする。
3.施設内の換気を図る。
また、病害の種類にかかわらず共通的な耕種的防除として、以下をあげています3)。
1.多発圃場では,連作を避ける。
2.無病親,無病苗土,無病仮植床を用いる。
3.被害株や茎葉は早期に除去し,周囲に放置せず,完全に腐熟化させるか,適切に処分する。
4.栽培終了後は,被害残渣の適切な処分を行い,圃場衛生に注意する。
5.圃場内及び周辺の雑草防除を徹底する。
6.仮植床では,地表面を防草シートで覆う。
宮城県では、『微生物農薬や気門封鎖型薬剤などがうどんこ病に効果を示し、うどんこ病対象として農薬登録されるなど化学合成農薬以外の登録薬剤も増えてきているが、発生してからの効果が主』とし、また『化学合成農薬による防除は依然として必要である』としています。そしてイチゴうどんこ病に農薬登録されている各種薬剤の防除効果と残効性を一覧化しています4)。
JA全農では、うどんこ病の防除のポイントとして、『白いかびが見え始めたときには見えないところでも広がっています。発生前・発生初期からの防除をしっかりしましょう。発生前には表の予防剤を中心に使用し、その後病斑が見え始めた際には、治療効果のある剤も組み合わせた防除をしましょう。その際、同一系統の薬剤の連用は避け、RAC コードの異なる薬剤を使用したローテーション防除を心がけます』5)とし、ローテーション防除の重要性を指摘しています。
兵庫県では、照明器具メーカーとの共同研究でUV-Bと呼ばれる紫外線を発生するランプを用いたイチゴうどんこ病の防除技術を開発しています。照明器具のコスト低減や農薬使用量低減効果もあって、全国的にも普及がみられる新たな防除方法です6)。UV-Bの照射により、うどんこ病へのイチゴの抵抗性が高められ、発生も抑制されることが知られています。
栽培上の課題として、猛暑対策の他に、近年の天候不順や台風被害の影響があげられます。この数年は夏秋栽培の収穫期間に天候不順が長引くことが多く、それに遭遇した産地への影響は大きなものがあります。また台風の進路に当たる産地は少ないものの、近年の台風コースの変化や迷走などにより思わぬ被害に合うことも考えられます。強風に対する耐候性はほとんどない施設のため、被害が心配されます。他に、裂果が発生しやすい時期の栽培、収穫となり、遮光による温度調節、潅水量の調節、裂果発生の少ない品種の選定などの対策が求められます(トマトの裂果と対策の記事はこちら)。
販売面では、産地間の競合は比較的少なく、産地も全国に分散しているため、価格低下は起こりにくいと考えられます。
イチゴ栽培でのIPM
イチゴには炭疽病、うどんこ病の他にも萎黄病、灰色カビ病などの病害、ハダニ、アブラムシ、アザミウマなどの病害虫が数多くあります。近年ではIPM(総合的病害虫管理)により、様々な病虫害の発生時期や発生環境を把握し、化学農薬だけに頼らずに効果的な防除を行う考えが主流となっています。宮城県、栃木県、福岡県など、イチゴの主産県におけるIPMのマニュアル等を参考文献8)9)10)にお示ししましたので、詳しくはそちらをご覧ください。うどんこ病の防除について、他の病害の防除と組み合わせた予防的な防除などが提示されており、年間を通じた計画的体系となっています。
近年は農産物輸出拡大戦略の中でイチゴは取上げられることが多い品目の一つです。輸出相手国での農薬使用基準が国内とは異なる場合、相手国に合わせた防除方法や残留農薬のチェックが求めれれます。一例として台湾輸出を念頭に置いたイチゴのIPMが徳島県で進められています11)。今後の輸出品目として拡大が期待されているイチゴでは、うどんこ病の防除にとどまらず、総合的な防除体系の確立も一層求められていると言えるでしょう。
参考文献
1) 農研機構、うどんこ病(イチゴ)、NAROPEDIA
2) 愛知県農業試験場、病害虫図鑑 イチゴうどんこ病、あいち病害虫情報(2020)
3) 茨城県農業総合センター、イチゴ-うどんこ病(Sphaerotheca aphanis)、茨城県農業総合センター病害虫防除所病害虫資料室(2019)
4) 宮城県農業・園芸総合研究所、各種薬剤のイチゴうどんこ病に対する防除効果及び残効性、宮城県「普及に移す技術」93(2017)
5) JA全農農薬研究室、うどんこ病とその防除法、農業技術情報(2021/9/8)
6) 神頭武嗣他、紫外光(UV-B)照射によるイチゴうどんこ病の防除、植物防疫 65 (2011)
7) 小河原孝司他、促成イチゴにおける温湯散布を利用した化学合成農薬の使用量削減、茨城農総セ園研研報19(2012)
8) 宮城県農業・園芸総合研究所、宮城県いちごIPMマニュアル(2019)
9) 栃木県、いちごIPMマニュアル(2011)
10) 福岡県、イチゴのIPMマニュアル、福岡県病害虫・雑草防除の手引き(2020)
11) 徳島県農林水産総合技術支援センター、台湾の残留農薬基準値に対応したイチゴIPM体系マニュアル(徳島県版)(2019)