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シャインマスカット栽培での病害虫防除について

農研機構とシャインマスカット

シャインマスカットは農研機構が育成し、平成18年に品種登録され全国的に生産が広がっている品種です。農研機構では、東日本大震災の復興に向けた果樹生産・利用技術の実証研究として、宮城県において行った研究成果を「新技術を導入した 「シャインマスカット」栽培マニュアル」として公表しています1)。そこでは、省力栽培技術や減農薬防除体系、収獲延長技術、長期貯蔵技術などが開発されており、本記事ではそこで取り上げられた主要な病害虫を中心に紹介します。

シャインマスカット栽培で注意したい病害

ブドウ栽培での最も重要な病害であるベト病について、葉や果実、新梢などで発生し雨水、水滴などにより伝染するとあります。また、シャインマスカットはベト病には比較的強いため、防除回数の削減が可能としています。宮城県でのおおまかな発生時期は6月下旬から収穫時期で、防除時期は5月中旬から収穫期までで、薬剤防除以外にも雨よけ栽培での被害軽減が可能としています。

ブドウの若い組織である葉、枝、果実などに発生する黒とう病について、雨水、水滴により伝染し、シャインマスカットは比較的弱いため、特に露地栽培では重点的な防除が必要であり、雨よけ栽培で被害軽減が可能としています。発生時期は展葉期から新梢の生育が停止する頃で、伝染源の胞子が発芽前から飛散するため、宮城県では3~4月の休眠期から防除をする必要がある、としています。

ブドウのハウス栽培で問題となり、果穂や果房に腐敗を引き起こす灰色かび病について、低温多湿を好み、収穫後の貯蔵果実にも被害を及ぼす、としています。また開花直前から落花直後の防除を行う、としています。

ブドウの黒とう病

 

ハウス栽培などで比較的乾燥した条件で発生しやすいうどんこ病について、果房の表面に粉状のカビが発生、外観を損ない生育も抑制する、としています。落花直後から袋掛け直前に防除を行う、としています。

主に成熟期の果房を腐敗させる晩腐病について、伝染源となる胞子が平均気温15℃以上で降雨時に形成されて飛散を開始し、胞子が幼果についてもすぐに発病せず成熟期に発病、腐敗を引き起こす、としています。防除は発芽直前から収穫期まで必要で、雨よけ栽培により被害低減が可能としています。

参考文献2)では、シャインマスカットのハウス栽培での病害発生は比較的少なく、露地栽培では主に黒とう病が問題になるとし、収穫後は貯蔵病害として灰色かび病が問題になるとしています。またシャインマスカットは定期的な防除により病害発生は比較的少なく、安定生産が可能な優良品種である、としています。そして予防的な防除と、ハウス栽培や雨よけ栽培と早めのカサかけ、袋かけなどで果実への雨水を遮ることで、特に降雨の多い年に発生が多い晩腐病や黒とう病の発病を防ぐことができる、としています。

シャインマスカットで注意したい害虫

体長1mmほどで年に5~7回程度発生し果実に被害を及ぼすチャノキイロアザミウマについて、袋掛けまで重点的に防除を行い、袋掛け後には増殖源をなる副梢管理を行って密度をさげる、としています。また袋掛けまでの対策として、第一世代成虫飛来前の光反射シート(タイベックなど)の設置、第二世代成虫飛来時期の防除を、また防除後の速やかな袋掛けをあげています。

 

年に2~3回程度、ハウス栽培で多く発生するクワコナカイガラムシについて、果実に排泄物が付着し外観を損ねる被害がある、としています。越冬卵から孵化した幼虫を重点的に防除い、宮城県での防除時期の目安を6月上旬、としています。

 

1年生枝に食害を及ぼすブドウトラカミキリ、ブドウスカシバについて、前者は夏に成虫が発生し幼虫がその年の結果母枝に食害を及ぼし、収穫後の秋から翌年の発芽期までに防除を行うこと、また後者は開花期前後に羽化して幼虫が当年枝に食害を及ぼし、宮城県では6月上中旬に防除を行うこと、としています。

 

参考文献2)では、ハダニ類としてナミハダニやカンザワハダニがハウス栽培で葉や果実に被害を及ぼすこと、防除対策として気門封鎖剤により薬剤抵抗性が発達した個体群への防除や天敵導入、光反射シート利用やUV-Bランプによる紫外線照射効果の可能性をあげています。

今後の展開

農研機構では実証研究成果として「シャインマスカット減農薬栽培体系の開発」3)を公表しています。これは農薬散布回数を慣行防除体系の2割削減したもので、慣行防除と同等以上の病害虫防除効果が得られるとしています。具体的には、化学合成殺菌剤のボルドー液への代替、光反射シートマルチの利用、袋掛けの早期化などを組み合わせたもので、光反射シートマルチによる増収効果でマルチ設置費用以上の収益も期待されるとしています。

なお、直近で全国的に問題となっているシャインマスカットの未開花症の発生について、農林水産省のアンケート調査結果4)が公表されています。また未開花症について農研機構では、山形、山梨、長野、香川、福岡の5県との共同での現地調査や研究を行う計画を発表しており5)、早期の原因究明や対応が期待されます。未開花症は病気によるものではないとする意見もあり、また樹勢の強弱の影響によるという意見もあります。山梨県や長野県での行政の動きや現場での取組みについては、参考文献6)~8)をご覧ください。

シャインマスカットの未開花症の発生状況にかかる都道府県に対するアンケート調査の結果より

参考文献

1)宮城県農業・園芸総合研究所、農研機構果樹茶業研究部門、新技術を導入した 「シャインマスカット」栽培マニュアル(2018)、農研機構

2)山田昌彦 編、シャインマスカットの栽培技術(2020)、創林社

3)農研機構果樹茶業研究部門、シャインマスカット減農薬栽培体系の開発(2018)、食料生産地域再生のための先端技術展開事業パンフレット

4)シャインマスカットの未開花症の発生状況にかかる都道府県に対するアンケート調査の結果について、農林水産省プレスリリース 令和5年5月19日

5)シャイン開花異常、緊急研究へ 農研機構と主産5県、日本農業新聞2023年5月24日付

6)シャインマスカットの未開花症(開花異常)について、知事定例記者会見(令和5年4月11日火曜日)、山梨県

7)シャインマスカットの未開花症 樹勢の強さが発症に影響か 研究者ら「複合的要因」指摘、信濃毎日新聞デジタル 2023年6月27日付

8)シャインマスカットの未開花症、山梨県の高校で対処法授業、産経新聞2023年6月21日付

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