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イチゴ栽培における「炭疽病」対策

イチゴ炭疽病は、うどんこ病、萎黄病と並ぶイチゴ栽培での重要病害です。炭疽病の病原菌には、Glomerella cingulata (シングラータ)と Colletotrichum acutatum (アキュテイタム)の2種類があります1)。シングラータによる感染では葉に斑点状の病斑が発生し、アキュテイタムによる感染は葉枯れ炭疽病とも呼ばれ葉の縁から枯れ込みが発生します。

 

イチゴ炭疽病と呼ばれるものは一般にはシングラータによるもので、葉柄やランナー、クラウンなどのあらゆる部位に感染して発病し、さらに萎れやクラウンへの感染により枯死に進むため大きな被害となります。親株を育成する育苗ハウスでイチゴ炭疽病が発生すると苗の廃棄によって苗不足の問題が起こります。また感染した親株や定植用の苗が本圃に持ち込まれることで、感染が広がり萎れや枯死が発生、収穫が激減するなど甚大な被害を及ぼすこともあります。

イチゴ炭疽病の感染要因

イチゴ炭疽病は6~9月などの高温期に発生しまた降雨や過湿により発生しやすい病害です。発病適温は25~30℃程度で、28℃以上になると萎れや枯死が激しく発生すること,過湿環境においては20℃程度でも萎れや枯死が発生することが知られています2)。そのため低温期には発病をしないため、親株で感染株であっても外観的には健常株とはかわりなく、そのまま感染状態で越冬し春を迎えることがあります。イチゴは栄養繁殖であり、親株からランナー採りをし、定植用の苗を大量に増殖して、本圃に定植する間にも感染が広がるリスクがあり、常に注意が必要になります。


イチゴ炭疽病は、雨や潅水などの水滴によって感染が拡大することがあります。これは感染株の病斑から病原菌の胞子が水滴を通じて周辺に散布されることによります1)。露地での育苗、ハウス内での手潅水や頭上潅水など、胞子が周辺株へ移行する可能性があり、注意が必要になります。

炭疽病を発病した株(出典:愛知県HP)

イチゴ炭疽病の防除

イチゴ炭疽病の広がりと被害は、感染株の持ち込みが主因であり、育苗から定植段階、また定植後の毎年の本圃の衛生管理など、予防的な防除による感染抑制が重要となります。

物理的防除

イチゴ炭疽病の防除の基本として、早期の発見による発病株の撤去があります。前述の葉の斑点状の病斑などがないか、高温期となる育苗段階などでの観察が必要になります。また発病が確認された株だけでなく、潅水や雨などで周辺に感染株がある可能性があるため、周囲の株の撤去も必要になります。

 

育苗圃、本圃を問わず、発病が例年のように起こる圃場では、葉かきや株撤去による残渣が感染源となることもあります。残渣の処理を徹底して、肥料袋などに密閉して圃場から持ち出して処理することが望まれます。残渣が土中にも残っている場合など、太陽熱消毒などにより感染が持ち越されないようにする必要があります。

 

水滴による感染を防止するため、育苗の際の潅水方法をリスクが少ない点滴潅水や底面吸水で行うことも考えられます。高設ベッドを用いた育苗では点滴潅水が用いられ、リスクは低いといえます。また高設ベンチ上での不織布など吸水マットを使った底面吸水方式も考えられます。しかし一般的には簡易な手潅水や頭上潅水が用いられることが多いため、その前段階で感染株の発見と除去が重要になります。高設ベンチ自体は、地面からの高さがあり、手潅水での水の飛び散りも少ない構造といえます。


その他、高温期での高湿度も発病要因となるため、換気などによる湿度低減が必要となります。また密植を避け、通気性を高めるなど工夫も必要です。露地での育苗を好む生産者も多く存在しますが、露地よりも雨よけハウスが感染防止に効果的なことは言うまでもありません。

炭疽病のイチゴの葉(出典:愛知県HP)

耕種的防除

親株を入手、購入する際には、イチゴ炭素病フリーのものを利用しなければなりません。苗の流通が広域化するケースでは特に注意が必要で、実績のある苗供給元を選んだり、感染の有無を検定などにより確認するなど、対策が求められます。低温期で発病の確認が難しい時期の入手では、特に注意が必要です。

イチゴの品種は多様化していますが、炭疽病に対する抵抗性が弱い品種が多いのが実態です。これは育種のプロセスで母系となる品種(女峰、とよのか等)の抵抗性が弱いことが要因の一つです。一方で、古い品種ですが現在も一部で栽培されている「宝交早生」や、三重県で育成された「かおり野」3)は、抵抗性品種として知られています。また農研機構では強い抵抗性を持つ中間母本(育種用に用いる系統品種)も育成されています。



化学的防除

予防的な防除が中心となりますが、育苗圃、本圃で使用できる登録農薬を回数制限の中で用いることになります。地域の防除体系4)にもとづいて、特に育苗から定植段階での農薬散布のローテーションや、天候に応じた防除のタイミングなど注意が必要です。

参考文献

 

1) 平山善彦、炭疽病の総合防除、農業技術大系(2014)

2) 片山貴雄他、噴霧接種法を用いたイチゴ炭疽病抵抗性の評価方法、福岡農総試研報27(2008)

3) 北村八詳、炭疽病抵抗性を持つ極早生性イチゴ新品種「かおり野」(2010)

4) 佐賀県農業技術防除センター、梅雨入り前進化に伴うイチゴ炭疽病の防除徹底について、佐農技防258 (2021)

5) 農研機構、炭疽病(イチゴ)、NAROPEDIA

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