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ハウスの土壌消毒について

ハウスの土壌消毒では、土壌中に生息する糸状菌や線虫などの作物にとって有害な病原菌や微生物の駆除を行います。土壌消毒には様々な方法があり、主なものとして化学物質を用いる土壌消毒、太陽熱消毒、土壌還元消毒などがあります。本記事では、これらの方法をご紹介します。

化学物質を用いる土壌消毒

化学物質(農薬)を土壌消毒に用いる場合、土壌に注入を行うなどし土壌中の病原菌や有害微生物を死滅させるものです。現在用いられる農薬として、クロルピクリン、D-Dなどがあり、以前は一般的に利用されていた臭化メチルは、オゾン層破壊の要因となる物質として例外を除き利用が禁止されています。

化学物質を用いる土壌消毒では、防護マスクやメガネなどを装着した状態での施用が必要となります。また周囲に人家や施設がある場合などは、周辺環境への影響を考慮する必要があります。密集した環境では臭気の問題などから化学物質の使用が難しい場合もあり、その際には他の方法に切り替える必要があります。

化学物質を用いる土壌消毒は、指定された登録農薬を定められた方法で用いることで効果を得やすいものですが、環境問題などから利用に制約も発生し、今後もこうした傾向は続くと思われます。さらに土壌中の有用な微生物相も死滅させることになり、また有機農業においても利用できない手段となります。

太陽熱消毒

夏期高温期にハウスを密閉状態にし、太陽熱により地温を上昇させ、土壌中の病原菌や有害微生物を死滅させる方法です。農薬も不要となり、環境負荷に配慮した方法と言えます。ハウスの土壌面を覆うフィルム(古ビニールなど)を用意し、地表面を全面的に覆い、すき間を無くすよう水枕(水封マルチ)などで重石をすることもあります。その上で十分に潅水を行い、太陽熱により地表面温度や地中温度を上昇させます。

 

一般的には数週間の処理を行いますが、処理期間が短い場合や、天候不順により太陽熱が十分に得られない場合には、所定の効果が得られないこともあります。特に近年のトマトの長期作型などでは、収穫終了から次作の定植準備までの期間が短いため、天候の影響を益々受けやすくなり注意が求められます。

太陽熱消毒の際にハウスを密閉するため、ハウス内も高温となります。そのため、温度による劣化や故障が懸念される精密な機器センサー類は事前に撤去することが望まれます。またハウス内に生息する病害虫への一定の防除効果が期待されます。

土壌還元消毒

太陽熱消毒には天候不順の影響で効果が不安定になるリスクがあり、そのリスク低減のため土壌還元消毒が考案されています。ここでは、米ぬか、フスマ(小麦から得られる糠)などの有機物を土壌に大量に施用し、十分な潅水により湛水した後に太陽熱消毒を行います。これらの物質は土壌中の微生物のエサとなり、比較的低温でも分解され、その際に酸素を奪い土壌が還元酸欠状態となり、病原菌や有害微生物の死滅が期待されます。太陽熱が多く望めない地域などでも、太陽熱消毒の手段として用いられます。

土壌還元消毒は、化学物質を用いず、作業者や環境への負担も少ない方法です。一方で、米ぬかやフスマの発酵による臭気が発生することで、周辺環境への影響を考慮する必要があります。また、米ぬかやふすまは浅い層までしかすき込めないため、還元消毒の効果は深い層に存在する病原菌などには及びません。より深い層へ浸透するよう、有機物施用の代わりとして低濃度エタノールを用いる方法があります。

アルコールを用いる土壌還元消毒

アルコールの一種である、低濃度エタノールを用いた土壌還元消毒法が、千葉県などにより開発されています。エタノールを1%程度かそれより低い濃度に希釈し土壌に浸透させ、米ぬかやフスマのように微生物により分解され、還元効果を得るものです。参考文献1)には、「エタノールを使用する利点の一つは、水溶性であるため、土壌の深層まで容易に浸透させることができることである。したがって、フスマ 処理では難しかった作土より深い層深さ (30~50cm)に対しても、十分な量を処理できれば、病害虫の密度低減が可能である。」とあり、より深い層への効果が期待されます。

同文献では低濃度エタノールの利用でのメリットについて、分解時の悪臭が少ないこと、かん水チューブ等での散布が可能なこと、散布直後の耕うんが不要で作業時間が短いことなどをあげています。また市販の土壌還元消毒用のエタノール資材が植物発酵由来のものであること、エタノールが炭酸ガスと水に分解されることで環境汚染の心配がないことをあげ、環境にやさしい土壌消毒技術としています。同文献には、消毒効果を得るためのエタノール濃度や地温等の詳細な条件、資材費や費用対効果などがまとめられています。

今後の展開

ハウスの土壌消毒の方法には、その他にも、参考文献2)にあるような様々な資材を用い効果的に消毒を行うものが開発されています。本文献にあるように、土壌消毒と接ぎ木を組み合わせることで、より効果を高めることも一般的です。また近年では少なくなっていますが、トマトとキュウリなど複数作物を組み合わせた年2作型により土壌病害の発生を抑制可能な場合もあります。以上のように土壌消毒の方法は、地域の環境や気象条件、土壌病害の発生状況、作物や作型、コストや作業面など、様々な条件から検討する必要があると言えます。

 

参考文献

1)低濃度エタノールを用いた土壌還元消毒法実施マニュアル、千葉県・千葉県農林水産技術会議(2016)

2)新規土壌還元消毒を主体とした トマト地下部病害虫防除体系 マニュアル 技術版、農研機構(2019)

 

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