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ニラ栽培での病害虫対策

栽培ステージ別の病害虫対策

ニラ産地の栃木県で普及指導を行っている藤澤秀明氏による「ニラの安定多収栽培」1)には、ニラ栽培での経営や育苗から収獲終了までの管理のポイントなどが体系的にまとめられています。果菜類や主要な葉菜類に比べ情報が少ないニラの栽培について知るには良書と言えるでしょう。本書では、育苗から定植までの管理、定植後から収穫までの管理、収獲開始から収獲終了までの管理に分け、具体的な管理が記されています。これらの栽培ステージ別病害虫対策について概要を紹介します。

育苗での病害虫対策

ニラ栽培では直播はほとんど行われず、育苗を行い定植をしています。ニラの育苗は生産者のハウス内での地床育苗や、セルトレイなどを用いた方法があります。育苗中の病害虫としてアブラムシ、ネキリムシや、白斑葉枯病があげられています。「にらIPM実践マニュアル」2)には栃木県におけるニラのIPM実践指標のうち、育苗に関するもの(健全苗の育成)として以下の内容をあげています。

・病害全般ネダニ類等 セルトレイ育苗:育苗培土には、病害虫による汚染や雑草種子の混入がないものを用いる。地床育苗:播種前に育苗床の土壌消毒を実施し、病害虫や雑草の発生を防止する。

・病害全般 品種特性に応じた適切な施肥管理及び温度管理を行う。育苗中は、過度の灌水を避けるなど、高温多湿にならないようにする。

・害虫全般 育苗施設は、開口部に防虫ネットを設置するなどし、害虫の侵入を防止する。

・病害虫全般 健全苗のみ定植する。病害虫の発生が見られた苗は、速やかに除去し、まん延を防ぐために薬剤防除する。

いずれも一般的な対策と言えますが、害虫全般に対する「防虫ネットの展張」として、「アザミウマ類等の侵入を防止するため、施設開口部に0.4㎜以下の防虫ネットを展張する。特に赤色ネットや反射資材の織り込まれたネットは、アザミウマ類等微小害虫の侵入抑制効果が高い。」としています。こちらも近年のハウス栽培でのアザミウマ対策として一般的なものです。

また、育苗期及び定植期の土壌処理剤の施用として、アブラムシ類アザミウマ類等に対し、「生育期の病害虫の発生を抑制するため、必要に応じて苗への薬剤散布や、定植時の粒剤施用等を実施する」としています。「ニラの安定多収栽培」では、ニラの改植時(栃木県でのニラ栽培は2年間にわたり行うため、改植は隔年など)に、土壌病害虫対策(ネダニ、ネキリムシ、白絹病の被害対策)として土壌消毒を行うことを推奨しています。問題点として、土壌消毒を行う時期が定植前の低温期のため効果が現れにくい点をあげています。対策として地温をできるだけ高くし、被覆処理期間を長くすることなどをあげています。

「ニラの安定多収栽培」では、土壌病害虫の最大の伝染源は前作の古株であるとし、古株を完全に枯殺し定植をすれば土壌病害虫の発生を大幅に軽減できるとしています。そのための対策としてキルパーによる土壌消毒をあげ、それは雑草対策にも有効としています。

参考文献3)には、高知県におけるネダニ対策が記されています。症状として「主に土に埋もれた茎部に寄生して加害する。被害症状として、まず外葉の枯れが現れ、ついで葉数、葉幅の減少、草丈伸長速度の鈍化がみられ始める。さらに被害がひどくなると欠株となる。」としています。また対策として3点をあげています。

・発生が確認されたほ場では、栽培終了後作物残渣を残さないようにする。

・湛水が可能なほ場では、栽培終了後1~2か月間湛水処理を行い、土壌中に残存しているネダニを防除する。

・無寄生苗を植える。

参考文献4)には、栃木県農業試験場の研究成果として、ニラ定植前の3月中旬から4月上旬に、ハウス密閉処理と地表面の農業用ビニル被覆を組合せた高温処理によるネダニ類の密度を低減させる方法を紹介しています。この方法により「試験区の土壌温度は、株元で最高70.6℃、地下5cmで最高51.1℃まで上昇し、地下5cmの土壌温度をネダニ類が100%死滅する40℃以上の温度帯に、最大6時間維持できる」としています。

定植から収穫での病害虫対策

定植時

「ニラの安定多収栽培」では、ネダニ、ネキリムシ類、白絹病の定植時の対策として、粒剤の使用をあげています。特にセル苗は地床苗よりも茎が細く、ネダニやネキリムシの被害により茎数が減りやすいとし、前述の古株の枯死処理とあわせ粒剤施用を行うことでの欠株対策が有効としています。また粒剤は、苗が薬剤を吸収し株全体に行き渡って効果が現れるので、生育が進み植物体が大きくなるにつれ効果は薄れる、としています。使用時期は定植前と定植時の2つをあげ、適切な使用法や使用量を間違えないよう注意を喚起しています。

定植後から収穫前まで

「ニラの安定多収栽培」では、定植時期が梅雨や梅雨明け後の高温多湿期にあたり、湿害に弱いニラが高温で消耗し抵抗力が落ちやすいとしています。また欠株につながる白絹病対策が最重要となり、発生後の防除が困難なため土入れの際の予防的な殺菌剤散布を推奨しています。

「にらIPM実践マニュアル」では、排水対策及び適正な温湿度管理による白絹病・白斑葉枯病対策として下記をあげています。

・作付時には、排水の良好なほ場を選ぶ。排水の悪いほ場では、深耕や暗きょ排水等の排水対策を実施する。

・栽培管理によって、通風を良くすることで過湿を避ける。

・内張りによる保温と、日中の適切な換気によって、ハウス内の温湿度を適切に管理する。

「ニラの安定多収栽培」では、定植後の株養成期の栽培管理として、しっかり光合成する葉をできるだけ多く残し、葉面積を多く確保して同化養分を生産し、球根分に転流させること、としています。さらに株養成期の主な病害虫のネギコガ、さび病、白斑葉枯病は葉に直接的な被害を与えるため、それらの防除が重要としています。また参考文献5)には、ニラ栽培が盛んな茨城県での、ニラ生育期における病害虫ごと主な防除薬剤が一覧で紹介されています。

収穫期

「ニラの安定多収栽培」では、収穫期に最も警戒が必要な病害虫として、ネダニ、白斑葉枯病、黒腐菌核病をあげ、特にネダニの食害により黒腐菌核病や白絹病が発生することもあげています。またネダニ対策について前述の定植時の粒剤散布効果が収穫期にはすでに切れているとし、収穫直後などに行う薬剤かん注をあげています。その際に株元に所定薬量をかけ地下の球根の位置まで薬液が染みるようにかん注することで、防除効果が得られるとしています。

今後の展開

2022年12月に開催された天敵利用研究会において、高知県農業技術センターでの天敵を利用したネダニ防除についての研究成果が報告されています。参考文献6)の記事によると、天敵となるヤマウチアシボソトゲダニを10月に1m2当たり100頭放飼し、翌年3月頃までロビンネダニの発生数を低減したとのことです。また天敵は高温に弱い可能性があり、気温が下がった後に放飼するのが有望とのことです。ニラの病害虫防除に登録された農薬は数少ないため、こうした天敵利用技術はこれからも注目されるものと思われます

参考文献

1)藤澤秀明、ニラの安定多収栽培(2019)、農文協

2)栃木県農政部、にらIPM実践マニュアル(2019)

3)高知県 病害虫・生理障害台帳、にら ロビンネダニ(ネダニ)、こうち農業ネット : 2012/10/17

4)にら黄化腐敗症状の原因究明と 簡便なネダニ類防除技術の検討、栃木県農業試験場ニュースNo.391 令和2(2020)年1月

5)JA全農いばらき、ニラ栽培での主な病害虫防除、惚れ営農NEWS 令和3年10月19日 第2911号

6)ニラの難防除害虫抑制 10月放飼で翌春まで 天敵研究会、日本農業新聞2022年12月21日

7)市原勝・朝比奈泰史、高知県におけるマイナー作物の農薬登録促進 (2014)、日本農薬学会誌 39(2), 168‒173

8)石川 成寿・伊村 務、地域特産物の病害虫-6-ニラの病害虫(1991)、植物防疫 45 (1), p33-36

※各リンク先は、2023年5月25日に確認済。

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