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養液栽培の培養液管理~培地により異なる培養液管理の方法~

養液栽培には、様々な方式があります。大きく分けて、ロックウールやヤシガラなどの培地に培養液の点滴潅水を行う固形培地耕と、栽培ベッドの中で大量の培養液を循環させるNFTやDFTなどの水耕があります。またいずれの方式でも、濃厚液肥を原水で所定の成分や濃度に希釈し、培養液を作成する培養液管理が行われています。本記事では、そうした養液栽培や培養液管理の方式について紹介いたします。

養液栽培の方式について

固形培地耕

果菜類の栽培を中心に利用されているのが固形培地耕と呼ばれる方式です。栽培ベッドやガターと呼ばれる長尺の設備を畝方向に設置し、その上に培地を置き点滴潅水を行う形態が主流です。


トマト、パプリカなどの養液栽培では、キューブとスラブという二種類の培地の組み合わせで栽培を行う方式が主流です。培地にロックウールやヤシガラを用い、キューブ(ポット)と呼ばれる各辺が5~10cm程度の直方体状の培地に苗を植え付けます。潅水はドリッパーと呼ばれる器具をポットに挿して行います。またスラブ(マット)と呼ばれる長手方向が60~100cm程度の板状の培地にキューブを置き、その内部に根を張らせます。スラブには一定の保水力がありますが、少量多潅水を基本とします。

キューブとスラブ

イチゴの養液栽培では、栽培槽と呼ばれる成形樹脂や発泡体の構造物に培地を詰めて栽培を行います。この場合の培地は、ロックウールでは粒状綿と呼ばれる細かな形状のものを用い、ヤシガラでは圧縮成形されたものを浸水させ膨らまして用い、栽培槽に詰めて利用します。

また培地に土壌や専用培土を用いることも多く、その場合の栽培槽や培地の容量は大きくなります。潅水は点滴チューブを培地の上に這わせて行います。なお、イチゴの養液栽培は一般に高設栽培とも呼ばれ、栽培槽をベンチアップし、人の胸の高さ付近で作業を可能にすることで作業性を向上しています。

イチゴの養液栽培

高糖度トマト栽培などでは、ポット栽培もみられます。これは植木鉢状のビニールや不織布のポットに各種の培地を詰め、ポットごとにドリッパーによる潅水を行うものです。

またDトレイなど連結式のポットを用いるものもあります。いずれも培地容量が200~400cc程度で保水量も小さいため、少量多潅水を一日に何十回と行う場合もあります。また水分ストレスをかけやすいため、高糖度栽培に適した方式と言えます。

高糖度トマト栽培

以上ような方式では共通して培地への潅水によって排水がされますが、栽培ベッドやガターは1/200程度の勾配をつけ設置され、その片端に排水が集められます。排水をすべて回収し殺菌や培養液成分の調整を行って再利用をする循環式と、排水を回収するものの系外(排水路、調整池、地下浸透等)へ排出する掛け流し式の二通りがあります。


なお、バックカルチャーと呼ばれる、袋入りの培地を土壌面に置きドリッパーにより潅水を行う簡易な方式もあります。排水は袋の底面に開けられたスリットから土壌に直接排出されます。施工や撤去も簡単であり、千葉県では養液土耕栽培と組み合わせた周年栽培体系もキュウリ向けに開発されています※参考文献2)

バックカルチャー

水耕

葉菜類の栽培を中心に利用されているのが水耕と呼ばれる方式です。水耕にはDFTとNFTと呼ばれる方式があります。


DFT(Deep Flow Technique)はミツバ、レタス類などの栽培で一般的な方式です。水深50mm程度の長尺の水槽(幅:1200mm程度が一般的)に培養液をため、発泡製の定植パネルを浮かべ栽培を行います。培養液の容量が多く、安定した栽培が行えます。培養液は通常は間断で供給され、オーバーフロー分の培養液を回収して循環が行われています。

レタスの水耕栽培

NFT(Nutorient Film Technique)はサラダホウレンソウなどの栽培で一般的な方式です。1/100程度の勾配を持つ栽培ベッド状に培養液を常時流し、排水は回収して循環が行われています。培養液量はDFTに比べ少ないものの、常時供給する必要があります。培養液の加温や冷却も容易で、根が水没しないため空気中の酸素を吸収可能な構造にもなっています。

DFT、NFTともに、栽培ベッドが培養液タンクを兼ねる構造になっています。DFTは栽培ベッドに傾斜はありませんが、NFTには傾斜があるため、停電等で循環ポンプの動作が停止するとベッド状の培養液が流出するリスクがあります。

培養液管理の方式について

培養液管理では、井水や上水、雨水などの原水を用い、濃厚液肥を液肥混入機で希釈して作成します。それを培地へ潅水チューブやドリッパーなどによって点滴潅水を行う形が基本になります。

 

濃厚液肥による培養液の調整

濃厚液は多くの場合、A液とB液という2液が用意され、おのおの所定の倍率で希釈が行われれます。窒素リン酸カリを中心とした肥料成分や、マンガン、鉄などの微量要素の濃度をバランスよく調整して培養液を作成します。またpHの調整液を用い3液となる場合もあります。

濃厚液肥の希釈や調整のための装置として液肥混入機を用いますが、簡易なタンクレスの打ち込み式や、電気式定量ポンプと液肥混合タンクを組み合わせた本格的な方式などがあります。作成した液肥はpH、EC(電気伝導度:濃度を表す)と各肥料濃度の構成比率が、作物の栽培目的に合うよう調整されたものになります。

 

濃度管理と量的管理

培養液管理では、液肥の濃度管理を中心に行われることが多く、品目や品種、栽培ステージなどに応じた濃度管理がされています。固形培地耕では、濃度管理がされた培養液を点滴潅水で培地に与えています。また水耕では、循環する培養液全体に対し濃度が一定になるように、ECセンサーなどの値を参照しながら液肥を追加するような濃度管理が行われる場合もあります。

いずれの場合も培養液の排出を行う場合には、植物が肥料分を吸収した後であっても残存肥料分があって、ある程度の肥料濃度の排液を系外に排出することになります。これは環境負荷のひとつとして、特に干拓地での養液栽培が行われているオランダでは規制の対象になっています。そして排液を殺菌再利用する形の、循環式による養液栽培でのゼロエミッション化が進められています。

濃度管理の他に、量的管理という培養液管理の方法があります。これは俗に「金魚にエサをやる方法」とも呼ばれ、主に水耕で植物が必要とする肥料分だけを適宜追肥し、培養液の肥料濃度は常に低レベルとなります。葉菜の収穫間際には肥料供給を停止し、ほとんどの肥料分を植物に吸収させるテクニックが取られることもあり、環境負荷の小さい培養液管理と言えます。

今後の展開

以上のような固形培地耕、水耕や、培養液管理の技術、方式は、国内でもこの数十年の間に定着し、養液栽培面積自体も施設園芸面積が減少する中で常に微増傾向にあります。これは養液栽培には設備投資が必要とされる中でも、生産性や省力性、標準化と管理のしやすさなど、土耕栽培に比べ、様々なメリットがあるためと考えられます。

 

一方、昨今の肥料の価格高騰や、流通のタイトな状況から、今後は養液栽培や養液土耕栽培での肥料の利用について、よりシビアな状況となることも考えられます。特に海外からの輸入に頼っているものについては、状況を注視する必要もあるでしょう。余分な肥料を与えない、また環境負荷も考慮しながら系外にも肥料分をなるべく排出しないような培養液管理が、今後は必要になることも考えられます。



参考文献

 

  1. 寺林敏「養液栽培の展開」、施設園芸・植物工場ハンドブック(2015)
  2. キュウリの土耕・培地耕交互栽培ー土耕と養液栽培のいいとこどりで安定多収を実現ー」、千葉県農林総合研究センター野菜研究室(2020)
  3. 塚越覚「養液栽培だからできる特殊な栽培法」、養液栽培実用ハンドブック(2018)
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