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固形肥料と液肥の違いとは?使い分け方も解説

肥料には様々な種類があり、養液土耕栽培では潅水チューブを通じて液肥を施用します。養液土耕栽培に対し従来の土耕栽培では、元肥(もとごえ)に固形肥料を、追肥に固形肥料や液肥を用いています。本記事では固形肥料と液肥の概要を紹介し、養液土耕栽培での肥料施用の特徴にも触れてみます。

固形肥料とは?

固形肥料の代表的なものとして、化学的に合成され、造粒、成形された肥料である化成肥料があります化成肥料について、窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)の3要素のうち2つ以上を含むものを複合肥料と呼び、さらに3要素の含量が合計で30%以上のものを高度化成肥料と呼んでいます。また肥料組成については、肥料取締法により、含まれる3要素の含有量を18-18-18のように表示する義務があります。これは、左から窒素、リン酸、カリの含有率(%)のことです。

 

化成肥料には複合肥料の他に単肥があります。3要素の単肥には、窒素肥料として硫酸アンモニウム 、尿素、石灰窒素、硝安などがあり、またリン酸肥料として過リン酸石灰、熔成リン肥、亜リン酸肥料などがあり、カリ肥料として硫酸カルシウム、塩化カルシウムがあります。その他の単肥には、石灰質肥料として炭酸カルシウムなど、苦土肥料として水酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムなど、さらに微量要素肥料として、ホウ素、マンガン、鉄などを含むものがあります。

 

その他、固形肥料には肥効調節型肥料があります。これは、土壌中での肥料成分の溶出や肥料効果を調節する肥料で、長く肥効を持続させることができます。被覆肥料(コーティング肥料)、緩効性肥料などがあります。化成肥料の肥効が即効性であり、元肥に多量に用いた場合に濃度障害が出ることや、肥料の流出につながることも考えられます。肥効調節型肥料はこうした問題にも対応するものです。なお、コーティングに用いられる樹脂が河川を通じ海洋に流出し、マイクロプラスチックとして環境への影響が懸念されています参考文献1)。そのため様々な流出防止策や生分解性プラスチックの利用などが進められています。

液肥とは

液肥は液状の肥料で水溶性のものです。潅水チューブやスプリンクラーを用いた施用が可能で、広範囲かつ均一に施用が可能なものです。水溶性によって土壌中への浸透も良く、肥効も即効性があり、利用効率も固形肥料に比べ高く、そのため塩類集積もしにくいものと言えます。また葉面散布剤として用いられることもあり、また他の薬剤と混用して施用することもあります。

 

液肥は濃厚な液体として流通しており、通常は原水により希釈して施用します。そのための混合の仕組み(液肥混入機などのメカや混合槽など)が必要とされます。施用そのものは機械的に行うことが多く、省力性の高い施用が望めます。養液土耕栽培では液肥を用いる肥料の施用が基本であり、潅水と施肥を同時に行うことが多くみられます。なお養液栽培や養液土耕栽培用の複合肥料として粉体のものも流通しており、液体での流通形態よりも一般的です。これは原水に溶かして液肥として使用します。単肥も同様に粉体のものを原水に溶かし使用します。



養液土耕栽培での肥料施用

養液土耕栽培の特徴として、肥料施用のことも含め、農業技術事典には以下のことがあげられています参考文献2)

 

(1)対象は土耕栽培である

(2)元肥(基肥)は施用しない

(3)堆肥は土壌の物理性や生物性を維持するために施用し、三要素あるいは五要素の供給は求めない

(4)灌水ならびに液肥の供給は点滴チューブで行なう

(5)定期的に栄養診断ならびに土壌診断を行ない、養分の過不足をチェックする

(6)1回の灌水量ならびに養分供給量は必要最低限とし、毎日供給を基本とする

(7)栽培終了時に土壌中に残存している養分量を限りなく0に近づける


ここでは(2)に「元肥は施用しない」とあり、また(4)に「灌水ならびに液肥の供給は点滴チューブで行なう」とあり、固形肥料は用いずに、液肥による追肥の形で肥料施用を行うことが示されています。また(5)に「定期的に栄養診断ならびに土壌診断を行ない、養分の過不足をチェックする」とあり、各種診断により養分過不足を確認して肥料配合にフィードバックすることも求められるでしょう。養液土耕栽培専用肥料(粉体が中心)には、窒素、リン酸、カリなどの組成の異なるものが各肥料メーカーより数種類用意されており、それらを使い分けることも考えられます。また単肥配合の場合には、より自由度の高い肥料配合が可能となります。

養液土耕栽培での様々な肥料施用

ハウス栽培において、土質によっては周辺からの雨水などの流入によって、また地下水位が高い場合など、土壌が湿潤となりやすくなります。ハウスが水田に設置された場合にも、排水性が確保されなければ同様の状況になります。このような土壌水分が高いケースでは、作物が肥料を要求しても水分の要求は高まらないこともあります。潅水と施肥を同時に行う養液土耕栽培では、肥料濃度を高くすることで、少ない潅水でも必要とする肥料を施用する方法が考えられます。作物が必要とする肥料は生育速度などに影響され、特に低温で日射が低下する厳寒期には肥料の要求量も低下します。季節や天候、作物の生育状況に合わせ、供給する液肥の濃度を調整することが考えられます。

 

なお、地下水位が非常に高く、厳寒期には潅水そのものが難しいケースも考えられます。そうした場合には液肥のかわりに固形肥料である緩効性肥料を用い、肥料施用を行う方法が一部で取られています。

 

その他、養液土耕栽培でも、作付終了後の土壌分析の結果により、肥料バランスの調整のため元肥の施用を行うケースもあります。また、追肥として液肥と緩効性肥料を併用するケースもみられます。手間やコストを考えると、液肥による追肥のみの肥料施用が望ましいと言えますが、産地の方針や従来の土耕栽培の習慣などによっては、そうした方法を取ることもあるようです。

ロックウール培地とドリッパー

今後の展開

  1. 液肥を用いる養液土耕栽培では、通常の固形肥料を中心とした土耕栽培に比べ、施肥量を数割程度削減可能と言われています。また土壌分析を定期的に行い、液肥の肥料組成の調整も行いながら残存肥料分を少なくすることも可能になります。肥料高騰や肥料原料の入手難が言われ、環境負荷の低減も求められる中、液肥の施用を中心とした養液土耕栽培の発展が望まれます。


    参考文献


    1) プラスチック被覆肥料の被膜殻の流出防止について,農林水産省

    2) 養液土耕,農業技術事典,農研機構

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