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アスパラガスの養液土耕栽培について
‐アスパラガス栽培での潅水と養液土耕栽培の実際‐

アスパラガスは肥料を好む作物ですが、同様に潅水による水分補給も多く必要とします。そのため養液土耕栽培技術の適用場面も多くあるものと考えられます。本記事では、潅水と養液土耕栽培の実際について紹介します。なお、ブログ「アスパラガスの潅水方法/栽培ステージや株の年生ごとの管理」もあわせてご覧ください。

潅水量と収量

アスパラガス栽培での潅水について、参考文献1)に「干ばつ害を受けると若茎の発生が抑制され、収量が低下することから、かん水による増収効果が期待される」とあり、若茎の発生や伸長には充分な潅水が必要と考えられます。またアスパラガスは茎葉が繁茂し、特に夏期の高温時などには蒸散量も増し、生育に必要とする潅水量も増大します。

同文献では、雨よけハウスでのアスパラガス栽培における畝間での潅水量の収量への影響を検討しています。試験成果として、「春どり期から夏秋どり終了後の株養成期まで降水量とかん水量を合わせて1週間あたり30~45mmとなるようにかん水することにより、収穫本数が増加し、収量が向上する(表1)。」としています。ここでの30mmの潅水量とは1m2当たり30リットルの潅水に相当します。試験では潅水量15mmと30mm、45mmの3区を設け、2年株夏秋どり、3年株春どり、3年株夏秋どりについて比較をし、いずれの比較でも15mm区より30mm区や45mm区の収穫本数が上回っています。

さらに同文献では、実際の潅水管理についてpFメーターを用いた場合の試験を行っています。そこでは、「春どり期から夏秋どり終了後の株養成期まで地下25cmのpFを2.3以下となるようかん水を行うことで、7月中旬以降の高温期の収量低下を低減できる(図1)。」としています。ここでのpF値は参考文献2)によると、「うね中央部深さ25cmの位置で水分センサー(Spectrum社 Watermark 6450WD)で計測し、pF値に変換した。」とあり、元の土壌水分率に換算することも可能と思われます。図1では45mm/週の潅水の際の6月以降のpF値は2.3以下で推移してるように読めることから、ゼロアグリによる土壌水分を安定化する潅水制御が適用できるものと推察されます。

なお、実際の潅水について参考文献3)では、減収要因への対応策(第7図)として上述のpF値の他に「排水性に考慮し、長時間滞水しないよう 1回当たりのかん水量を加減する」としています。この点でも、養液土耕栽培の少量多潅水が適用できるものと推察されます。

潅水管理の指針例

 

熊本県の半促成長期どり栽培(現地では2月頃より春芽の収穫、10月頃まで夏芽の収穫を行う作型)での時期別の潅水管理のポイントが、参考文献4)に指針として示されています。その概要を例としてお示しします。

 

・立茎期(3~4月):潅水は控えめとし少量多潅水を行う。

・夏芽収穫期(5~10月):気象条件を踏まえた潅水量と回数の調整、長雨期間は土壌水分を確認しながら、高温多日照期間は小まめに不足なく潅水する。乾燥と湿潤を繰り返すよりもやや湿潤状態(目安:地表下25㎝でpF値1.5~1.8程度)を維持する。

・萌芽停止後(11~12月):黄化完了まで潅水を継続する。

・保温開始前(1月):保温開始の1週間程度前から保温開始まで十分な潅水をする。

・保温開始~春芽収穫期(2月~4月):畝表面が乾かない程度に少量多回数で潅水する。

 

各時期ごとの生育ステージや気象条件に応じて、生育を抑制しないような潅水方法や、乾燥ストレスや過湿による病害を回避するような潅水管理が示されています。生育の安定や収量の確保のためには、土壌や作物の観察に加え、土壌水分や気象データの分析も行い、潅水量や潅水間隔などを検討する必要があると考えられます。また同文献でも、「かん水管理のポイントは、少量多回数かん水です」と結んでおり、養液土耕栽培の適用が可能と考えられます。

アスパラガスの根域と潅水方法

アスパラガスは根の形態や成長に特徴があります。これらについてアスパラガス研究者である明治大学の元木先生が、参考文献5)で解説しています。アスパラガスの根には貯蔵根と吸収根があり、貯蔵根には養分を蓄積する機能があり、また貯蔵根の表面などから養水分を吸収するための細い吸収根が出ています。元木先生は、「アスパラガスの根は、株の年生が進むにつれてうね中央から通路側に広がるため、うね間潅水もときどき行うと効果がある。」としています。また根は多年にわたり発達し、「畑の条件がよければ水平方向に幅1.5m程度、垂直方向には1m以上の深さに達し」としています(ブログ「アスパラガスの潅水方法/栽培ステージや株の年生ごとの管理」にもご紹介していますので、ご覧ください)。

アスパラガス栽培では畝を立て栽培することが多くありますが、根は畝幅以上に広がって通路にも分布していると考えられます。そのため養液土耕栽培を行う際には、畝間潅水とともに通路を含めた広範囲の潅水も考慮すべきと考えられます。そのために、頭上潅水を用いる方法や、ノズルタイプの潅水チューブを用いる方法、いくつかの種類の潅水資材を組み合わせる方法など、様々な潅水方法が取られています。ブログ「潅水チューブの選び方|構造と特徴、種類について」では、アスパラガス栽培に限ったものではありませんが、こうした方法を紹介しています。

アスパラガス栽培での養液土耕栽培の増収効果と点滴潅水の導入メリット

参考文献6)では、「アスパラガスの半促成やハウス雨よけの、2季どり、または長期どり栽培において、株養成のための立茎開始以降に養液土耕(かん水同時施肥)を用いると、夏秋期の増収効果が高く、かん水・施肥の省力化と減肥栽培が可能である。」としています。そして、「株養成のための立茎開始以降~8月下旬まで養液土耕栽培する方法は、慣行栽培に対して特に夏秋期の増収効果が顕著で、年間収量も増加する図1)。」と増収効果を示しています。さらに「年間の窒素施肥量を3.5kg/aとし、現地慣行施肥量に対して30~40%程度減肥しても、養液土耕栽培の収量レベルは比較的高い水準を確保できる(図1表2)。」としています。こうした養液土耕栽培での増収について、アスパラガス栽培の研究者である明治大学の元木先生は参考文献2)で、「単なる潅水効果だけではなく、潅水同時施肥により施肥効率が向上した効果と考えられる」とし、潅水条件だけでなくアスパラガスの生育に好適な肥料濃度などの施肥条件も養液土耕栽培により整えられていることを示唆しています。

参考文献7)では、アスパラガス栽培での養液土耕栽培による点滴潅水について、「一般的に行われている散水ノズル潅水と比べて、貯蔵根が地中深くまで伸長することから、吸収根の伸長も旺盛になり,増収すると考えられる。」としています。これは点滴潅水がピンポイントで地中に浸透する効果とも考えられますが、同文献では福岡県での半促成長期取り栽培での比較試験として、養液土耕栽培の収量が日量20kg/10a、従来型の散水ノズル潅水栽培が日量15kg/10aとの結果を示しています。また文献中の地下部の画像では養液土耕栽培で貯蔵根や吸収根の伸長が促進された様子を伺うことができます。

さらに同文献では、アスパラガスの重要病害である茎枯病について、茎葉に水がかからないような潅水方法による被害の抑制を述べ、点滴チューブでの潅水による茎枯病発生の軽減に触れています。

参考文献8)では、養液土耕栽培と慣行の土耕栽培の比較試験を行い、増収効果(3年株の総収量で養液土耕区:2,996kg/10a、土耕区:2,184kg/10a)および養液土耕栽培での過剰な養分蓄積の少なさを示しています。ここでは慣行の土耕栽培では毎年の堆肥投入によるリン酸等の蓄積について触れています。慣行の土耕栽培から養液土耕栽培へ移行する際には、土壌分析による残存肥料分を確認する必要があると言えます。

以上のように、アスパラガス栽培における養液土耕栽培には、増収や病害発生抑制、肥料の効率的な利用など、様々なメリットが期待できることがわかります。

ゼロアグリを用いた養液土耕栽培事例

 

アスパラガスのゼロアグリユーザーは九州を中心に広まっています。いくつかの導入事例をご紹介します。

(株)A-Noker様(佐賀県太良町)

A-Noker様では、鉄骨ハウスでのアスパラガス栽培の半分程度のエリアにゼロアグリを導入し、点滴チューブによる潅水を行っています(残りのエリアでは散水チューブによる潅水)。二条植えの栽培で畝に点滴チューブ2本を設置しています。有機液肥を使用しているため、チューブの目詰まりには注意を払っています。代表取締役の安東浩太郎氏は、ブログのインタビュー記事でゼロアグリの利用と潅水方法について以下のように述べています。

「1年目は散水チューブのエリアの方がよく育ったのですが、2年目以降は、ゼロアグリのエリアの方が成品率が上がりました。特に夏場の成品率は安定しているな、と感じています。ゼロアグリの場合、点滴で細かく潅水をすることにより、常に土の中に水がある状態で、アスパラが肥料を吸いやすいというメリットがあって、その分アスパラの品質に良い影響を与えるんだと思います。」

(株)A-Noker様でのゼロアグリを用いた点滴チューブによる養液土耕栽培
(株)A-Noker様でのゼロアグリ

また、点滴チューブや潅水チューブによる株元潅水の他に、通路潅水も行う用途で噴霧式の頭上散水装置を併用しています。これは動噴により噴霧を行うもので、潅水の他に防除にも利用できる多目的な装置になります。安東氏によると、ゼロアグリはタイマー機能により制御を行って、朝夕に十分な潅水を行う使い方をしているとのことです。同様に頭上散水によって通路潅水も補う形で、広く分布するアスパラガスの根への養水分供給を行っていると言えます。

(株)A-Noker様での自動噴霧装置 
左側のチューブに動噴が接続され、各バルブの先にハウス内の頭上潅水配管やノズルが接続されています。

ゼロアグリが導入された鉄骨ハウスはミカン山を造成して建設されています。造成時に暗渠配管を行い、さらに暗渠からの排水がハウス外にそのまま排出されるよう配管工事を行っています。そのことで土壌の排水性を高め、排水不良による生育不良を防止しています。このことは大量の潅水を行うアスパラ栽培では重要なことと考えられます。

(株)A-Noker様でのハウス外への排水の様子
黒い通路シートの端部から排水配管の塩ビパイプが延び、傾斜側へ排水がされている。

壱岐の島 このみ農園様(長崎県壱岐市)

壱岐の島 このみ農園様では、ハウス24棟(50a)でのアスパラガス栽培を行い、ゼロアグリはハウス8棟分で利用しています。ゼロアグリの当初の導入目的は潅水作業の省力化で、導入前は8棟分で30分かかっていた作業を自動化することができました。また、液肥施用は行わず原水による潅水のみでの利用になります。さらに点滴チューブではなく壱岐島内で標準的に使われている潅水チューブを用い、既設設備の利用もはかっています。

ゼロアグリの利用について、ブログ「壱岐の島 このみ農園様(長崎県壱岐市・アスパラガス)|感覚値でやっていたアスパラ栽培をより根拠あるものに、未来の生産者に技術をつないでいくスマート農業を実現」では、以下のように紹介されています。

「現状はマニュアルで1日2回潅水を実施していますが、今年の6月からオート潅水を活用していこうとしています。これは、今後新規就農で新しくアスパラをやりたい、という方がいたときに展開しやすくなるかなと思っていて、例えば目標土壌水分量をどれくらいにしたら良いか、みたいな話を感覚値ではなく根拠ある数値を元に調整ができると思っています。」

またブログでは、ゼロアグリでの土壌水分センサーを用いた栽培管理について、以下のように紹介されています。

「いままで感覚で潅水をやっていた部分もあったので、自分の感覚が正しいのか、というのは測る指標がありませんでした。ゼロアグリをいれて土壌センサーで数値が見れるようになったことで、自分の思っている感覚とセンサーの感覚とを合わせながら、何%だったらこっちの方が良い、といったような感じでより確かな潅水調整ができるようになったと思います。

以上のように、潅水チューブを用いた潅水のみでのゼロアグリ導入事例になり、純粋な養液土耕栽培とは異なる面もあります。一方で比較的ラフに考えていたアスパラガスの栽培管理について、数値を根拠にした管理へと改善をはかる様子が伺えます。

今後の展開

その他に、香川県で開発され全国的にも普及が進む「枠板式高ウネ栽培システム」というアスパラガスの栽培方式があります。点滴チューブによる潅水と、固形肥料による追肥を行うもので、今後の養液土耕栽培の展開も考えられるものとして、参考までにご紹介します。

本方式は、高畝(参考文献9))によって、土壌条件によらない良好な根域確保と地下水位対策および作業性向上を狙い、また通気性の向上による病害抑制や、通路でのスピードスプレーヤ利用による防除作業の省力化なども狙うものです。参考文献10)の画像では、波板による枠板で高畝を形成し、点滴チューブによる潅水を行っている様子が伺えます。ここでは通路シートが敷かれ、通路上への潅水は行われない様子です。また参考文献11)では香川農試における点滴潅水による栽培事例を紹介しています。概要は以下の通りです。潅水と施肥が別個に行われています。

・品種:さぬきのめざめ

・間口5.0m、長さ50.4m、軒高(棟高?)3.5mのパイプハウス内も中央通路幅180cm(間口に対し2畝)、株間15cmの1条植えで2012年8月定植。

・潅水:孔間隔20cmの点滴チューブを各畝に2本設置し、タイマー制御により生育状況に合わせ行う。

・施肥:粒状化成肥料、粒状苦土石灰を1~11月の毎10日に畝上面散布。

・収穫:2013年春芽どり、および夏秋芽どり。

本方式では、通路はフラットに整地され、通路シートも敷設されており、一般的なアスパラガスの土耕栽培に比べ作業環境が整った印象を受けます。参考文献11)では、中央通路に作業用台車を置き、楽な作業姿勢を確保する様子も伺えます。同文献の事例では、高さ60cm、天面50cmの高畝2本を成形し、株間40cmの1条植えで1000株/10a程度の栽植密度となっています。また参考文献12)には、株間40cmの1条植えに対し点滴チューブの点滴ピッチが10cmとあり、畝全体を湿らせるような潅水を行う様子が伺えます。

参考文献

1)酒井浩晃(長野野菜花き試・野菜部),アスパラガスの二期どり栽培におけるかん水と培土による増収効果(2009年),関東東海北陸農業研究成果情報 

2)酒井浩晃,長期どり栽培―灌水と培土の増収効果(2020年),最新農業技術 野菜13,農文協

3)酒井浩晃他,長野県内におけるアスパラガスの収量に及ぼす要因の解析(2021年),長野県野菜花き試験場報告17号

4)熊本県県北広域本部農林水産部農業普及・振興課,アスパラガスにおけるかん水管理のポイント~時期毎の適切なかん水で増収を目指す~,熊本県農業情報サイ「アグリ」

5)元木悟、アスパラガスの養液土耕栽培 (2014年)、『農業技術体系』野菜編 アスパラガス

6)長野南信農試,アスパラガスにおける養液土耕栽培の適用性(2001~2002年),関東東海北陸農業研究成果情報

7)元木悟、アスパラガスの養液土耕栽培 (2014年)、『農業技術体系』野菜編 アスパラガス,農文協

8)戸井康雄,アスパラガス新植園養液土耕の肥培管理技術,農耕と園芸 2011.10月号

9)池内隆夫 (香川農試 三木試験地),収量と身体負担からみたアスパラガスの枠板による高うね栽培の適切なうね上面幅(2010年),近畿中国四国農業研究成果情報

10)香川県民に愛される春の野菜 アスパラガス「さぬきのめざめ」の農園へ,四国・瀬戸内・香川県 高松市の公式観光サイト

11)池内隆夫・佃晋太郎,枠板式高うね栽培システム(かがわ型アスパラガス栽培システム)(2020年),最新農業技術 野菜vol.13,農文協

12)中村幹雄,アスパラガスの枠板式高ウネ栽培,現代農業 2020.9

13)津田遼平,さぬきのめざめ・枠板式高うね栽培(2020年),『農業技術大系』野菜編 第8-2巻,農文協

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