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アスパラガスの潅水方法/栽培ステージや株の年生ごとの管理

アスパラガス研究の第一人者である元木先生(明治大学教授)は、アスパラガスの養水分吸収特性の中で、「植物体の約90%、若茎の92~93%が水分であることから、茎葉の生育には水分が不可欠」、「茎葉から蒸発散する水分、茎葉および地下茎などを維持し、伸長するための水分、養分を土壌から吸収するための水分などを考慮すると、アスパラガスは非常に多くの水分を使っており、潅水効果が高い作物1と述べています。

 

アスパラガスは多年生であり、また次項の生育ステージにあるように年間を通じて姿を変えながら常に水分を要求する作物です。さらに元木先生は、「潅水効果が高い作物であることから、夏季を中心に追肥や潅水に多くの労力を要する」としています。通常は簡易な雨よけ栽培が行われ、単棟ハウスを多棟管理することが多いアスパラガス栽培では、潅水作業にも多大な労力が必要と考えられます。

 

このような特徴を持つアスパラガス栽培と潅水についてご紹介します。

アスパラガスの生育ステージと潅水管理

 

佐賀県農業試験研究センターの大串氏は、西南暖地の標準的な作型である雨よけハウスでの長期取り栽培において、生育ステージ別潅水管理のポイントについて、「①保温開始(12月~1月)、②春芽収穫中(2月~4月)、③立茎中(3月~4月)、④立茎後(4月~10月)、⑤若茎の萌芽停止後(11月~12月)」の5つの期間に分けて述べています2

 

アスパラガスは②の期間に伸びた春芽を収穫し、③は若芽を収穫せずに伸ばす期間となり、④では茎葉の伸長やりん芽の形成が促進され同時に収量も確保されます。⑤は茎葉からの貯蔵根やりん芽への同化産物の転流が行われ、それらは翌年の春芽の伸長に利用されます。こうした生育ステージのサイクルが多年で繰り返されます。以下にステージごとのポイントをご紹介します。

ゼロアグリで潅水管理を行うアスパラハウス

保温開始(12月~1月)

の保温開始の期間の潅水量が不足した場合、次の②迄の期間が長くなることで、十分な土壌水分の保持が必要とされ、「特に最初の1~2回目の潅水量には十分注意する必要がある」、としています。

春芽収穫中(2月~4月)

次の②の春芽収穫中の期間では、「地温の低下を防止することが最も重要であり、少量多潅水が基本となる」とし、凍障害回避と土壌水分保持を両立させる潅水管理が必要としています。また潅水不足による乾燥によって、萌芽減少や収量・品質の低下があるとしており、少量多潅水での土壌水分の適度な調節が求められていると言えるでしょう。

立茎中(3月~4月)

次の③の立茎中の期間では、春芽の収穫後に若茎を伸ばす時期であり、表皮を乾燥させ茎枯病を予防する必要があるとしています。ここでも少量多潅水が求められ、土壌水分が少ない場合には若茎の伸長が抑制され、先端部のしおれ等の要因になるとしています。

立茎後(4月~10月)

次の④の立茎後の期間では、「潅水量が多いほど収量が多く、りん芽群や貯蔵根などの生育が促進され翌年の春芽の収量も多くなる」としています。また、うね潅水だけでなく、うね間潅水の必要性、梅雨時期や秋雨時期のハウス側面の多湿状態とハウス中央うねへの潅水の必要性などのポイントが示されています。

若茎の萌芽停止後(11月~12月)

最後の⑤の若茎の萌芽停止後の期間の潅水管理は、「翌年の春芽の収量や品質に大きく影響する」こと、「萌芽停止後も茎葉の黄化が進行するまで潅水」を行うこととしています。黄化が進行することで貯蔵養分の蓄積が低下し、翌年に影響が出るため、気温が低下する時期ではあるものの乾燥とならないような潅水管理が必要とされます。

 

以上のように、年間の生育ステージとアスパラガスの生育や収穫の状態に応じた潅水管理が求められることが分かります。

株の年生と潅水

元木先生は、「アスパラガスの根は、株の年生が進むにつれてうね中央から通路側に広がるため、うね間潅水もときどき行うと効果がある。3としています。

アスパラガスの根は貯蔵根と吸収根があり、貯蔵根には養分を蓄積する機能があり、貯蔵根の表面などから養水分を吸収するための細い吸収根が出ています。また根は多年にわたり発達し、「畑の条件がよければ水平方向に幅1.5m程度、垂直方向には1m以上の深さに達し」としています。

また元木先生は少量多潅水と多量小回数潅水について、「生育初期は少量多回数潅水、年生が進むにつれて多量小回数潅水へと移行する」とし、その他に生育量や収穫量、外気温の高低などにより二つの潅水方法を使い分けることを述べています。

株の年生と根域の面積や根量に応じて潅水量や潅水方法の調節が必要と言えます。

地下水位と潅水管理

大串氏は地下水位の高低の影響について、「地下水位が高い場合は、地下部の生育に適する土量がかなり限定されるから、生育や収量が優れないことが多い。」とし、また「地下水位が低い場合には、土壌水分量を十分に保持する潅水管理が必要となる。」2としています。さらに、地下水位が低ければ根群は下層まで生育するものの、十分に潅水をしないと収量が増加しない可能性も指摘しています。

 

以上より、土質の改善や暗渠等による排水性を確保しながら必要とされる潅水を行うことによっても生育や収量の向上につながることが推察されます。多年生作物であるアスパラガスの栽培では栽培中の土壌改良は難しく、栽培開始前の土壌改良や排水性向上が重要であると言えるでしょう。

まとめ

アスパラガスは、生育の様子や栽培ステージの推移、根の発達の様子など、他の野菜とは大きく異なる面があります。また水分を多く要求する作物でもあり、潅水の重要性は高いと言えるでしょう。生育ステージごとのポイントを踏まえ、生育状態や気象条件、土壌の状態などを踏まえた潅水管理により、収量と品質の向上が可能な作物と言えます。

 

アスパラガス栽培のゼロアグリ導入事例はこちら

 

引用文献

  1. 元木悟、アスパラガスの養液土耕栽培 (2014)、『農業技術体系』野菜編 アスパラガス
  2. 大串和義、潅水方法・量と生育・収量(1998) 『農業技術体系』野菜編 アスパラガス
  3. 元木悟、栄養生長 (2009)、『農業技術体系』野菜編 アスパラガス
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