ブログ

施肥量の決め方とは?ハウス栽培の施肥の考え方

作物に肥料を与える際に、具体的な施肥量について基本となる考え方を理解する必要があります。本記事では、それらのポイントについて、ご紹介いたします。

肥料とは?

肥料とは、「作物を栽培するとき、外部から養分を補給するために与えるもの」のことです。また、肥料は肥料取締法によって定義されています。同法で肥料とは、「植物の栄養に供すること」または「植物の栽培に資するため土壌に化学的変化をもたらすことを目的として土地に施されるもの」及び「植物の栄養に供することを目的として植物に施されるもの」として定義されています。土壌に施されるものだけを肥料としていた時代もありましたが、植物に施される場合として葉面散布によるものも含まれています。

多くの元素が植物の栄養素となっており、植物にとって多量に必要なもの(多量要素)、微量ですむもの(微量要素)、土壌などに存在し施用する必要がほとんどないものに分類されます。肥料取締法では施用の必要がある主要な栄養成分を対象とし、それらは窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)、石灰(CaO)、ケイ酸(SiO2)、苦土(MgO)、マンガン(MnO)、ホウ素(B2O3)の8成分になります。さらにこれら8成分のうち、主要なものとして、窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)があります。

施肥量と施肥基準 

実際に肥料をどの程度与えるかの基準として、施肥基準があります。施肥基準とは農業技術事典によると、「各都道府県で安定多収や品質の向上とともに、農耕地外の環境への負荷低減を指針として作物ごとに設けられた化学肥料の施肥量のこと」です。施肥基準は、安定多収と品質向上、環境負荷低減を両立するための施肥量の指針ということです。一般的には作物や作型、目標収量に応じ、必要な施肥量や施肥の時期を記した資料になります。

 

また同事典では施肥基準の策定について、施肥量よる栽培試験をもとに、作物の生育収量、養分吸収量、残存養分量、溶脱量などを勘案し、さらに各作物の生育特性、養分吸収特性、当年の気象条件や病害虫発生状況などを参考にして設定される、と述べています。また施肥基準は、品種、地域、土壌型、基準収量で分類され、農家の指導に用いられているとあります。

 

農林水産省の「都道府県別施肥基準」サイトには、各都道府県別の施肥基準リンク先が掲載されています。そこでは前書きとして、「適正な施肥を行うためには、都道府県の「施肥基準」に則した施肥を行うほか、定期的に土壌分析を行い、その結果を「土壌診断基準値」と照らし合わせてほ場の状態を把握すること、ほ場に肥料成分が過剰に蓄積している場合には、「減肥基準」を参考に肥料の種類や施肥量を見直すことが重要です」とあります。

施肥基準の具体例

具体的な施肥基準について、ご紹介いたします。神奈川県では「神奈川県作物別施肥基準」として、県内で主に栽培されている作物の施肥と施肥についての概要を説明しています。

 

同基準における施肥の考え方について次の説明があります。まず、「目標収量を継続的に収穫する場合に必要な窒素(N)、リン酸(P2O5)、カリ(K2O)の量を表示してあります。」とあり、この3要素についての施肥基準となります。次に、「実際に肥料を施用する場合は、まず、土壌診断を行い塩基バランスや可給態リン酸の改善をします。前作の窒素、リン酸、カリが残存している場合には、この量を差し引きます。さらに、堆肥や土壌改良材を施用する場合は、それらに含まれる有効成分量を差し引いた量を肥料の投入量とします。」とあり、土壌診断による調整が必要なことを示しています。

 

同基準では多種多様な作物について触れていますが、ここでは、2.果菜類・豆類にあるトマトについて確認をしてみます。

 

トマトでは、作型(促成長期栽培、促成栽培、半促成栽培、早熟栽培(トンネル)、夏秋栽培(ハウス)、露地栽培、抑制栽培(ハウス))ごとに、品種名、栽培様式(畝幅と株間)、作型模式図、目標収量(kg/10a)、要素別(NP2O5K2O)の基肥の量(kg)と追肥の量(kg)、および合計の量(kg)が記されています。

 

例えば、促成長期栽培では、品種名がTYみそら86、マイロック、麗容、桃太郎ホープとあり、畝幅125cm×株間35cm、作型は7月下旬播種~10月末収穫開始~6月末収穫終了、目標収量は20t/10aです。Nについては、基肥で30kg、追肥で32kg(液肥または硝酸カリを使用し、7回に分けて潅水時に施用する)、合計62kgとあります(P2O5、K2Oは略)。仮に目標収量を1.5倍の30t/10aとした場合には、基肥、追肥とも1.5倍必要になると考えられます。また作付前に前述の土壌診断を行い、基肥などの調整も必要になるでしょう。

 

また追肥については、7回に分けて潅水時に施用とあります。追肥は実際には、トマトの生育ステージや生育状態(葉茎の繁茂、着花や着果など)に応じて、栄養成長と生殖成長のバランスを考慮して施肥量を調整する必要があります。

 

なお7回に分けてという記述は、養液土耕栽培を前提としたものでは無く、日々の潅水量や潅水回数に応じて更に小分けで施肥を潅水と同時に行う、という考え方で調整することになるでしょう。また養液土耕栽培特有の日射比例制御などによる節水制御により、施肥量も節約可能となるでしょう。

施肥量の計算方法

肥料袋に入った固形肥料でも、液肥でも、肥料成分が表示されています。重量比でN(%)など、要素ごとの表示になります。必要な成分量(kg)が分かれば、その値を重量比(%)で割ることで、実際に必要な施肥量(kg)が計算されます。他の要素についても同様な計算は可能ですが、一般的にNを基準として必要な施肥量を算出します。肥料袋にはN:P:Kの重量含有率(%)が10-10-10などと表示されています。この数値の比率によりNを基準として他の要素についても算出されます。

今後の展開

肥料価格の高騰や、世界的な原料入手難など、化学肥料による栽培を行う生産者にとり厳しい状況が続いています。また環境保全意識の高まりとともに、効率のよい施肥によって施肥量を必要最小限にとどめることも今後は求められるでしょう。ご紹介した施肥基準は都道府県ごとの施肥量の判断材料であり、さらに土壌や気象などの栽培条件や作型、品種、収量に基づいて調整する必要があります。その際に肥料節減の効果が期待される養液土耕栽培の導入も、検討の余地があるでしょう。



参考文献

 

  1. 農研機構,農業技術事典
  2. 農林水産省,都道府県施肥基準等
  3. 神奈川県,神奈川県作物別施肥基準
タイトルとURLをコピーしました