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養液土耕栽培の始め方

養液土耕栽培を始める際には、様々な要素について検討する必要があります。本記事は、既に公開している記事のまとめとなりますが、そうした要素について改めてご紹介いたします。養液土耕栽培の導入の際のチェックリストとしてもご覧いただければと思います。

少量多潅水の導入

養液土耕栽培の特徴の一つに少量多潅水があります。そのため少量多潅水についてあらかじめ理解する必要があります。少量多潅水は点滴チューブにより行います。点滴チューブの場合、1回に与える潅水量は少量となり、潅水回数を増やすことで潅水量を確保します。また点滴チューブを用いることで、チューブの水源側の根本と先端の潅水量の差をできるだけ減らし、潅水のコントロールが行いやすくなります。

 

点滴チューブ

点滴チューブによる少量多潅水では、土壌の保水量に対し過剰な潅水とならないよう潅水時間を設定すれば、余剰潅水を抑えることができます。肥料分の節約にも有効となります。元々はイスラエルの乾燥地帯で生まれた潅水技術であり、節水型農業の基盤技術となっています。また潅水回数を増やすことで、土壌の水分状態を比較的安定化することも可能です。そのためタイマーや制御装置による電磁弁開閉機構が必要となりますが、手作業では不可能なきめ細かな潅水によって土壌水分率を一定範囲に保つことが可能となっています。

養液土耕栽培と土壌環境の改善

養液土耕栽培においても、一般的な土耕栽培においても、新たに施設を導入したり、栽培を新しく組み立てる際には、土壌環境の改善のチャンスとなることが考えられます。いざ栽培を開始してしまうと、土壌環境改善のハードルは上がります。

 

改善のポイントとして、暗渠等による排水性の改善、客土と物理性の改善、資材等の投入と化学性の改善などがあげられます。土壌中の根圏域での水分状態により、根の活動には様々な影響が生じます。特に排水性が悪く、根圏が浸水状態に長くあるようでは、酸欠状態になったり、 湿害などにより根の機能が発揮されずに生育に悪影響を及ぼします。

 

そうした悪影響を避けるよう、ハウス建設時や作替え時などに、排水性の改善のため暗渠排水の施工を行うことがあります。具体的にはコルゲート管などの集水管の埋設によるハウス外への排水経路の確保、サブソイラーなどによる弾丸暗渠の施工などが行われます。その他に、土地の勾配や凸凹など地形的なことによる排水性の問題を、客土による均平化によって改善することもあります。また、土壌改良資材や堆肥などの投入によって、土壌のEC、pHや肥料濃度などの化学性や、排水性などの物理性を改善することもあります。

 

養液土耕栽培による少量多潅水では精密な水分管理が可能ですが、そのメリットを活かすためにも、以上のような手法で土壌環境の改善をはかる必要があります。

 

ブログ記事「養液土耕栽培と土壌環境|排水性、物理性、化学性の改善

土地の均平化と客土
土地の均平化と客土

液土耕栽培での機器資材構成と選び方

養液土耕栽培を行うためには、メインとなる液肥混入機の他に様々な機器資材類が必要になります。それらの構成をあらかじめ理解する必要もあります。

養液土耕栽培では、潅水と施肥を同時に行います。そのため液肥混入機が必要になります。また周辺の機器資材として原水タンク、送水ポンプ、フィルター、バルブ類、ろ過装置などがあります。液肥混入機には構造がシンプルで安価なものとして無電源式液肥混入機があります。さらにこれには差圧式液肥混入機や比例式液肥混入機があります。また潅水と施肥を制御するためのコントローラも必要で、これにはタイマー制御、日射比例制御、ゼロアグリなど多様な方式があります。

ブログ記事「養液土耕の潅水装置の構成と液肥混入器

ゼロアグリ
ゼロアグリ

 

また実際に養液土耕栽培で潅水システムを新たに設計する際には、無駄のない機器構成にすることで費用対効果を高める必要があります。点滴潅水用の点滴チューブは圧力補正機能の有無、点滴孔の間隔、使用水圧などから製品を選定します。原水タンクは栽培面積に応じた必要水量により容量を決め、また送水ポンプは流量を栽培面積と分割ブロック数などに応じて決めます。いずれも計算が必要となります。その他にフィルター類や配管資材、電磁弁なども選定する必要がありますが、潅水システム全体のバランス(1次側での供給能力と2次側での必要量など)を考慮する必要があります。

ブログ記事「養液土耕栽培システムの潅水設計。点滴チューブやポンプ、タンクの選び方

特に点滴チューブの選定については、下記のブログ記事をご覧ください。点滴チューブの基本構造(均一性と目詰まり防止機能)、基本仕様(流量・適用水圧、ドリッパー間隔)、基本仕様と潅水量の計算、材質・付加機能などになりますが、専門の業者などに設計見積を依頼する際の予備知識としても重要となります

ブログ記事「点滴チューブの選び方〜チューブの構造や仕様から、必要流量の計算方法まで〜

自動潅水装置での制御方法

自動潅水を行うための制御には、シンプルなタイマー潅水、日射量に応じ潅水のタイミングを決定する日射比例潅水などがあります。またゼロアグリは日射比例潅水に土壌水分を加味したAI潅水制御を行います。

タイマー潅水は、あらかじめメインタイマーで設定した時刻に潅水が開始され、サブタイマーで設定した時間だけ潅水が行われます。タイマー潅水ではシンプルな制御装置を用い導入コストも低いものですが、天候や作物の生育状態、土壌の水分状態などに応じ、タイマー値を都度調整する必要があります

ブログ記事「農業用潅水タイマーとは?仕組みと選び方を解説

日射比例潅水では、1日の積算日射量が多い晴天日は積算日射量が少ない曇雨天日に比べて、日射量に比例して多くの回数の潅水が行われます。これが日射比例潅水の基本的な仕組みとなります。日射比例潅水では天候に応じた潅水のタイミングを自動的に決定することができ、省力的な方法と言えます。一方で潅水量(1回当たりの潅水時間など)は、作物の生育状態などに応じ都度決定する必要があります。

さらにゼロアグリでは、日射と土壌水分センサーの値を加味して、土壌水分量を指定の値に安定化するよう潅水する仕組みがあり、使ったその日から作物にストレスを与えずに潅水を自動的に行うことができる特徴があります。

ブログ記事「日射比例潅水とは。仕組みとメリット/デメリットを解説

養液土耕栽培での土壌診断と施肥設計

初めて養液土耕栽培を行う場合には、土壌中に前作の土耕栽培の残存肥料が多くあることも考えられます。そうした場合には土壌分析にもとづく施肥設計が必要となります。さらに毎作ごとに土壌分析を行い、前年の残存肥料を勘案した施肥設計も行われています

土壌分析は地域のJAや普及センターなどの機関を通じ行うことが多く、その場合の費用は比較的安価です。土壌をサンプリングし、機関に備え付けの検査機器があれば、そこで肥料成分ごとの濃度や保肥力の指標であるCECなどの値が分析されます。また分析結果をもとに不良成分に応じた複合肥料や単肥肥料の処方が行われ、施肥設計として利用されます。

毎作ごとの土壌分析の他に、栽培中にリアルタイムで土壌診断と施肥設計を行うこともあります。これは生産者自身が機器類を用意して、ハウス内で簡易に行うものです。養液土耕栽培の特性を活かし、土壌中の肥料成分の変化や植物の生育状況などに応じて、機動的に施肥設計を行うことが可能となります。具体的には、土壌診断用の土壌溶液を吸引法などにより採取し、ハンディタイプの機器によるECやpHなどの分析を行う方法があります。

ブログ記事「施肥設計とは?養液土耕に必要な土壌診断と施肥設計

 

土壌

 

なお作物によっては生育ステージごとに要求する肥料の量やバランスが変化することがあります。そのためステージごとの土壌分析や診断を行い、施肥設計に活かすこともあります。ゼロアグリではステージごとの施肥設計に対応できる施肥量オート制御が実装されており、作物の生育に最適な施肥を自動的に行うことも可能となっています。

ゼロアグリの「施肥量オート調整

なお養液土耕栽培の開始後には、原水によっては詰まりなどのトラブルが生じやすいこともあります。原水の性質とフィルター類などによる目詰まり対策などについて、下記の記事でご紹介しています。

ブログ記事「養液土耕栽培と原水利用|点滴チューブの目詰まりを防ぐには

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