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養液土耕の潅水装置の構成と液肥混入器

養液土耕栽培で必要な潅水システムの構成と、中核になる液肥混入器の種類や機能について概要をご説明します。

導入の条件に応じた機器の構成を考えることで、初期コストを抑え費用対効果を高めることにつながります。

潅水システムの構成

養液土耕栽培での潅水装置には、潅水と液肥による施肥を同時に行うことが求められます。そのために液肥混入器が必要になります。

液肥混入器は潅水での原水(井戸水など)に一定の濃度で液肥を混入(希釈と呼びます)する装置のことです。原水への液肥の混入には、混合タンクを使う場合と使わない場合があります。

大規模な養液栽培では、あらかじめ混合タンクに大量の液肥を作り、大面積へ送る方式がとられます。一般的な養液土耕栽培や小規模な養液栽培では、混合タンクを用いず、簡易な希釈を行います。

養液栽培でも養液土耕栽培でも、液肥混入器の入口側(1次側)に、原水を送水し貯水するための原水タンクや送水ポンプが必要になります。

また詰まりを防止するフィルターも用い、水圧や流量を調整する弁やバルブを用いる場合があります。さらに原水に鉄分などの含有が多い場合は、ろ過装置を取り付ける場合もあります。液肥混入機の出口側(2次側)には、潅水の入り切りや系統の変更を行うためのバルブ、電磁弁、流量計が取り付けられます。

そしてそれらの動作を制御する様々なコンロ―ラを取り付け、自動化や省力化をはかります。

なお液肥には1液混合と2液混合の方式があります。1液混合ではあらかじめ液肥タンクに液肥を用意(粉体や液状の元肥を定められた倍率で原水に混合する)します。2液混合の場合はA液とB液などの2種類の液肥を液肥タンクに用意します。その混合割合を調整することで肥料の処方(肥料成分の割合)を調整可能です。

無電源式液肥混入器

液肥混入機にはいくつかの種類がありますが、構造がシンプルで安価なものとして無電源式液肥混入機があります。さらにこれには差圧式液肥混入機や比例式液肥混入機があります。

差圧式

ベンチュリー効果と呼ばれる水圧差の発生を利用したもので、原水が液肥混入機内を流れる際の水圧差(負圧)により液肥を吸い込み混入する装置です。流量や水圧によって液肥混入機の適正な希釈倍率が変わるため、仕様で定められた範囲に調整が必要な場合があります。

比例式

原水の流れがピストンを動かし、設定した一定の比率で液肥を混入する装置です。混入率が流量や水圧に影響されません

いずれの方式においても原水の流れがあれば、液肥混入機自体には電源や制御装置は不要となります。混入の割合(希釈倍率)は液肥混入機のダイヤルなどで手動設定します。

また原水をポンプで液肥混入機に送水するため、液肥混入機の1次側には電源やポンプ設備が必要になります。

定量ポンプ式液肥混入器

定量ポンプ式液肥混入機は、電気式のポンプで原水に液肥を定量混入する方式です。

流量計により原水の流量を計測し、流量に応じて定量ポンプを動作させる制御が行われ、希釈倍率をコントロールすることもでき、複雑な潅水と施肥の制御を行うことも可能になります。

液肥を原水に混入する際に、中小規模では混合タンクを用いない場合もありますが、大規模では混合タンクと液肥センサー(EC、pHなど)と組み合わせる場合があります。

潅水制御の方法(コントローラの機能)

手動制御

手動バルブの開閉や、電磁弁の手動ON/OFFにより潅水の開始と停止を行います。サブタイマーを追加して一回の潅水時間を設定する半自動制御もあります。

タイマー制御

メインタイマーで潅水開始時刻、サブタイマーで潅水時間を設定する自動制御です。

日射比例制御

積算日射量が一定値になった際に信号出力を行う専用のコントローラを用いる自動制御です。植物の群落の大きさにより必要とする潅水量が異なるため、一回当たりの潅水量を調整する必要があります。

多系統制御

1台の潅水装置で、2つ以上の多系統を順番に潅水施肥を行う自動制御です。1系統に1つの電磁弁を取り付け、系統別の潅水切り替えをコントローラにより行います。

ゼロアグリ

土壌水分を計測し、一定値に安定させるAI潅水制御機能がある自動制御を行います。また日射比例制御や多系統制御機能を併せ持ちます。通信機能を持つコントローラとクラウド上の潅水演算機能やデータベース機能が合体し、液肥混入機や電磁弁の動作を遠隔制御します。動作状況やセンサー値もクラウド経由で、スマホなどでモニタリングが可能です。

潅水装置と液肥混入機の選び方

簡単に導入して、自動化と省力化を図りたい場合

差圧式液肥混入機(1液式)を導入

・原水側ポンプに直結できる場合、いったん原水タンクに貯め送水ポンプで送り出す必要な場合がある。水圧調整が必要な場合は減圧弁等を設置。

・目詰まりを防ぐため、フィルターを必ず設置し、定期的な洗浄を実施。

・1液の濃厚液肥を自分で液肥タンクに希釈して作成。

潅水の指示をタイマーや各種コントローラによる実施

潅水の安定性や機能性を重視して、本格的な設備にする場合

(それぞれの追加機能に費用が発生するので、目的と効果を事前に良く検討する必要があります)

・断水に備え大型の原水タンクを設置。

・水質改善が必要な場合、除鉄や除マンガンなどのろ過装置を設置。

多系統の潅水ラインを切り替える場合、電磁弁とコントローラにより実施

・定量ポンプ式液肥混入機により、より正確な希釈を実施(養液栽培の場合など)。

・1液式から2液式に液肥混入機を増やし、肥料組成の調整を実施(養液栽培の場合など)。

既存の設備にゼロアグリを導入する場合

既設の差圧式液肥混入機への外付け

ゼロアグリのコントローラを液肥混入機の付近に設置し、流量計や電磁弁をコントローラに接続します。ゼロアグリのセンサー類(土壌水分センサー、日射センサー等)をハウス内外に設置して、ゼロアグリによる潅水と施肥の制御を行います。サブスクにより試験的にゼロアグリを追加導入して機能や栽培状況を確認することも可能です。

既設の定量ポンプ式液肥混入機への外付け

養液栽培などで使われている定量ポンプの動作をゼロアグリのコントローラから制御することも可能です。その場合もゼロアグリのセンサー類を用いた潅水と施肥の制御が行え、さらに2液の混合比率の調整も可能となります。こちらもサブスクの利用が可能です。

ご参考:養液栽培への応用

すでにイチゴ高設栽培では、ゼロアグリのコントローラによる潅水と施肥の制御を行った例があります。ヤシガラ培地を利用する場合は潅水に対する排液率が高いため、排液量も計測しながら潅水を調整する方法をとっています。

ゼロアグリでの高設栽培(養液栽培)対応についてはこちら

参考文献:東出忠桐(2015)、潅水機器・装置、施設園芸・植物工場ハンドブック、日本施設園芸協会

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