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葉面散布とは?使われる肥料と散布の注意点

葉面散布とは

植物の養分吸収は通常は根から行われますが、葉からの吸収も可能であり、そのための技術として葉面散布があります。動噴や手押しポンプなどを用い、ミストを葉面にかけて行う葉面散布は、養分供給の他、植物ホルモンなどの供給でも用いられますが、ここで養分供給について取上げます。葉面散布を行うケースとして、土壌が水分過剰状態になり根痛みなどの原因から根が養分を十分に吸収できない場合や、特定の養分が欠乏して生育不良や生理障害などが発生した場合などがあげられます。

葉面からの養分吸収は、葉のクチクラ層を透過して行われます(文献1)。クチクラ層は疎水性ですが、層のすき間などから浸透した養分が細胞へ到達すると言われています。クチクラ層は作物が小さい時には未発達の場合もありますが、生長に従い発達していきます。そのため作物が幼少期の時に効果が高いとも言われています。

土壌に肥料を施肥した場合に、その効果が出るまでに時間がかかっても、葉面散布によって効果がすぐに現れる場合もあります。葉面散布の効果が土壌施肥よりも高いケースとして、「根の養分吸収機能が低下したとき(根腐れ、根痛み、根張り不良等)、土壌施肥しても作物が吸収利用できない場合、地上をはう作物や密生している作物で土壌に肥料を与えにくい場合」などがあげられます(文献2)

葉面散布による作物への養分供給はあくまで補助手段であって、応急的な処置として利用することも多くあります。そのため、根からの吸収が十分に行われるように施肥や土壌水分の管理、地上環境の管理を適切に行うのが栽培の基本となります。また葉面散布が効果を発揮するかどうかは、作物の栄養状態や生育状態、置かれた環境条件などに左右されるものと考えられます。そのため、葉面散布での条件によっては、期待される効果が得られないこともあるでしょう。

葉面散布で用いられる肥料

主要要素では、窒素施用のための肥料として有機化合物である尿素(CH4N2O)が用いられます。尿素は分子量が小さくクチクラ層の透過速度も早いとされます。また尿素は化学反応によって硝酸態窒素やアンモニア態窒素に変わり作物に利用されます。リンとカリウムの施用では第一リン酸カリ(KH2PO4)などが用いられます。また比較的高価な肥料ですが、亜リン酸肥料が用いられることもあります。亜リン酸(H3PO3)は、リン酸(H3PO4)に比べ分子量が小さく、葉面からの吸収も早いため葉面散布にも適していると言われています。微量要素では様々な肥料が葉面散布されています。硫酸マグネシウム(MgSO₄)、硫酸マンガン(MnSO₄)、硫酸第一鉄(FeSO4)、塩化第一鉄(FeCl2)などです。これらは葉面散布剤として数多く商品化がされています。

欠乏症による生理障害と葉面散布による対策

カルシウム欠乏症の代表例として、トマトなど果菜類の尻腐れ病があります。これは根からのカルシウム吸収が抑制された場合や、作物の体内でのカルシウムの移動が抑制された場合に発生するものです。対策は、「土壌pHやカルシウム含量、塩基バランスを適切な範囲に保ち、過剰な施肥を行なわないこと」、「適切なハウス管理、灌水により高温・乾燥条件を避けること」があげられ、「応急的にはカルシウム剤の葉面散布を行なう」とあります(文献3)。

トマトの尻腐れ病
北海道立総合研究機構HPより

ナスのマグネシウム欠乏による障害について、乾燥、加湿、根痛み、カリ過剰、低温などによりマグネシウム吸収阻害が起こり、マグネシウムが下位葉、中位葉から生長点に移行、下位葉から黄化が起こって光合成と樹勢の低下が起こる、とあります(文献4)。また対策として、着果が増える前に0.5%に希釈した硫酸マグネシウムを農薬散布と兼ねて葉面散布を数回行う、とあります。

なすのマグネシウム欠乏
島根県農業技術センター生理障害データベースより

その他、カリウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、ホウ素などの欠乏などによる生理障害について、症状と発生要因、及び対策(葉面散布によるものを含む)例を「生理障害データベース」として島根県農業技術センターが公開しています。

葉面散布での注意点

葉面散布では、施用濃度と施用環境に注意が必要です。適切な施用濃度は各養分や作物において定められているものがあり、散布時には適正な濃度にする必要があります。また濃度は施用環境により調節する必要もあります。特に好天時や高温時には散布養液の濃度が上昇して葉焼けなどの原因になるため、散布を避けるか施用濃度を低下させます。また作物が生育不良などで弱っている際や、生育初期などでは、施用濃度を薄く調整する場合もあります。

葉面散布を行う時間帯として、文献1では「成長期の光合成が盛んな葉で吸収速度が高い。また、湿度が高いほど透過速度が早いので朝晩の散布がよい。」とあります。必ずしもこうした条件に合わない場合でも葉面散布を行いたい場合があるため、特に高温乾燥時などの施用濃度には注意が必要でしょう。

 

文献

  1. 「葉面散布」、NAROPEDIA、農研機構
  2.  武井昭夫、「葉からの養分吸収」、農業技術体系作物栄養編
  3. 「しり腐れ」、NAROPEDIA、農研機構
  4. 「ナスの栽培方法-障害対策-」、こうち農業ネット
  5. よくわかる土と肥料のハンドブック、肥料・施肥編、JA全農肥料農薬部、農文協
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