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トマトの施肥|養分吸収の特性から生育ステージごとの施肥調整まで

トマトは様々な作型や品種があり、実際の収量や品質にも大きな違いがあります。そのためトマト栽培をひとくくりで現すのは難しいものですが、本記事では一般論として、トマトの施肥についてご紹介いたします。

トマトの養分吸収の特性

トマトの養分吸収量は、おおよそ収量1t当たりでは、窒素2kg程度、リン酸0.6kg程度、カリ4kg程度と言われています。またトマトの養分吸収量は生育量や収量に従って増えます。第1花房の果実肥大期以降には吸収量が増え、春先の生育期などにも増加傾向になります。そうした吸収量の変化や、作型による地温の違いに応じ肥料の分解や吸収の変化も加味し、施肥を行う必要もあります。

基肥と追肥について

一般の土耕栽培では基肥に総施肥量の半分程度を与え、残りを追肥としてトマトの生育に応じ与えます。越冬栽培や長期多段栽培など、トマトの生育期間が長くなるほど追肥の必要性が高まり、その分は基肥の比率も低くなります。このことは追肥に液肥を使用する場合に顕著です。一方で基肥に緩効性肥料などを用い長期の効果を求める場合には追肥の比率は低くなるでしょう。

 

基肥は栽培初期の養分要求量に対してだけでなく、栽培期間全般にわたっての養分供給の効果も担うため、緩効性肥料や有機質肥料を中心に与えます。追肥はトマトの生育の変化や速さに応じた効果が必要なため、化成肥料や液肥を中心に与えます。またこうした肥料が作物に与える効果を肥効と呼び、施肥を効率的かつ無駄なく行うため、肥効を高める工夫も重要と言えるでしょう。

 

肥効を高めるためには、トマトの根張りを広げること、張った根からの養分吸収を高める環境を整えること、トマト全体の生育を良好なものとし草勢を維持すること、などが考えられます。根張りについては初期の灌水を控えながら、また果実肥大が始まる頃には根も広がり、それに合わせた灌水も必要になるでしょう。トマトの根は湿潤を嫌うため、堆肥施用などによって気相の多い土壌環境を作ること、またマルチによる地温上昇により厳寒期の根の活力を保持することもあるでしょう。

土壌分析と施肥について

基肥を与える場合には、必ず前作終了後の土壌分析により残存肥料分を確認します。それにより基肥の肥料成分のバランスを考慮します。追肥をする際にも、例えば養液土耕栽培では、定期的な土壌分析により土壌ECを確認、液肥窒素濃度によって施肥量を調整することも行われています。また文献1)では、「追肥の回数(追肥総量)は収穫期間の長短によって決まるが、追肥時期は土壌中の無機態窒素量では、10mg/100gを目安にする事例が多い。」とあります。これは一般の土耕栽培での土壌分析による指標の例と言えるでしょう。

生育ステージによる施肥の調整

文献2)にはトマトの肥料特性について、「肥料分が充分あるばあいは、生育初期から猛烈に生育し茎葉がよく茂る。」とあります。さらに「良質のトマトを多収するためには養水分の吸収を適度に制御して生殖生長と栄養生長のバランスをとることが大切である。」、「第3花房開花期がひとつの生育の転換期といわれている。この時期を境にして、トマトの肥培管理が大きく変わることになる。」としています。

この第3花房開花期は、第1果房肥大期に相当し、実際の栽培でこの考え方に従うと、定植からこの時期までは栄養生長を抑え生殖成長を促進し着花や果実肥大を促す形になります。しかしあまり栄養生長を抑えると、草勢も弱くなり、その後の栄養生長に影響が出るため、バランスの調整が重要になります。そのための肥培管理や潅水管理の調整がポイントとなるでしょう。またこの時期以降は、バランスを取りやすくなり、草勢を維持しながら果実肥大を進めるよう、定期的な追肥が求められます

気候や作型による施肥の調整

越冬作型や長期作型では、厳寒期の地温低下により養分吸収が低下しやすくなります。この時期は追肥を試みるよりも、まず地温の上昇をマルチや室温の調節によって行うことが考えられます。また灌水が不足する場合にも肥料吸収に影響が出やすいため、トマトの状態や土壌水分を確認しながら灌水量を調節することも考えられます。

夏秋作型や抑制作型では、高温期となる時期は養分吸収も進み、施肥が過剰な場合には草勢が強くなりやすく注意が必要です。基肥の量も控えめにしながら、果房肥大期などポイントを逃さないよう、計画的な追肥が必要になるでしょう。

近年、一般的になっている長期多段栽培では、高温期から秋の気温低下期、厳寒期、春先の気温上昇期、初夏から収穫終了までの高温期など、様々な時期と天候にトマトは遭遇します。一般の土耕栽培では緩効性肥料を中心とした基肥と、時期や土壌分析結果に応じた追肥を組み合わせた施肥を行い、草勢の維持と生殖成長とのバランスを念頭に栽培管理を行っています。養液土耕栽培では、液肥濃度をステージごとに調節することで肥料要求量に対応した管理も可能となるでしょう。

今後の展開

実際の施肥事例については、各地域における栽培暦などに標準的な方法が掲載されています。また文献4)には、比較的最近の全国各地域の栽培や施肥の事例が掲載されています。具体的な施肥のポイントが記載された例もあり、考え方の参考となるかもしれません。

 

実際の栽培管理や肥培管理では、潅水と施肥だけでなく、天候の変化やトマトの生育状況、ハウス内環境などを総合的に観察し判断することが求められます。施肥の内容によりトマトの生育(生長点の様子、葉色、茎径など)に直接影響が及ぶこともあります。またトマトの樹液による栄養診断によって硝酸態窒素などの過不足を分析することも可能です。肥培管理は栽培全体からみれば管理要素の一つですので、前述のようなトマトの生育状況を中心とした総合的な判断が必要となるでしょう。



参考文献

 

1) 中野明正,基肥と追肥の割合の考え方(2014),農業技術体系 野菜編,農文協

 

2) 青木宏史,野菜・種類別の施肥技術ートマト(1985),農業技術体系 野菜編,農文協

 

3) 鈴木秀章,トマト,野菜の施肥と栽培 果菜編(2006),農文協

 

4) 中野明正編著,営農に役立つトマトの生産技術(2020),誠文堂新光社

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