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遮光とハウスの高温対策① ー遮光の方式と外部遮光についてー

近年は猛暑の発生が恒常的となり、夏期の施設栽培はますます困難なものとなっています。高温障害の発生や、収量や品質の低下とともに、熱中症などによる作業者の健康と安全への影響も危惧されています。今後も高温対策を適切に行い、こうした問題を緩和することが求められています。本記事では、高温対策のひとつである外部遮光を中心に、その方式について紹介します

 

ハウス内の温度が上がるのはなぜか?

 

そもそもハウス内の温度が上昇するのはなぜでしょうか。簡単にそのメカニズムを文献1)にある下図(文献よりリライト)を参考に説明します。

なぜ室温が上昇するか? 
参考出典:林真紀夫、環境制御技術、次世代施設園芸指導者研修 共通テキスト、日本施設園芸協会 文献1)

文献1)にはまず、「入射太陽エネルギーは、顕熱(室温上昇)と潜熱(水分蒸発)に変換」とあります。このプロセスを具体化すると、以下のようになるでしょう。

 ①太陽光がハウス内に透過する。

 ②ハウスの骨材やハウス内の土壌、植物体などに太陽光が当たり、それらの温度を上昇させる。

 ③温度上昇した骨材や土壌が、さらにハウス内の空気を暖めることで、太陽エネルギーはハウス内の温度上昇に変換される(顕熱)。

 ④植物体の温度も上昇するものの、蒸散による気化冷却効果で温度上昇は抑えられ、一方で太陽エネルギーは付近の湿度上昇に変換される(潜熱)。

ところで、ハウス内に入射した太陽光のエネルギーにより、直接的にハウス内の空気の温度も上昇します。しかし空気の比熱は土壌や金属などのものに比べ極めて小さいため、上記の③での間接的な温度上昇に比べ、直接的な温度上昇は無視できると言えます。

次に文献1)には、「顕熱割合が大きいほど室温上昇大」とあります。これは潜熱による水分蒸発には気化冷却効果があり、一方で潜熱に対する顕熱の割合が大きければ気化冷却効果も薄れ、室温の上昇も大きくなるということです。逆に植物体の群落や葉面積が大きく、また潅水等により植物体が正常に水分を保っていれば、潜熱の割合も大きく、蒸散の気化熱によって植物体と付近の温度上昇は緩和されます。

なお、前述の「図 なぜ室温が上昇するか?」では、太陽光の透過、潜熱による昇温、顕熱による湿度上昇(気化冷却による降温)とあわせ、換気も示されています。ここでの換気により、ハウス内で暖められた空気は外部に移動し、室温の上昇は緩和されます。

以上のことを整理すると、ハウス内の温度を上昇させる要因として、

 ①太陽光のハウス内への透過

 ②透過した太陽光による土壌や骨材、機器設備等の温度上昇

 ③上記②による室内空気の温度上昇

が考えられます。

また、ハウス内の温度を降下させる要因として、

 ④蒸散による気化冷却効果

 ⑤換気による室内の温まった空気の室外への放出

が考えられます。

遮光によるハウスの高温対策とは?

本記事のテーマである「遮光によるハウスの高温対策」において、上記の「①太陽光のハウス内への透過」に対しては外部遮光を、「②透過した太陽光による土壌や骨材、機器設備等の温度上昇」に対しては内部遮光を用いることになります。

外部遮光では、ハウス屋根面の上に遮光資材を展張します。外部遮光資材による太陽光の反射や吸収により、太陽光のハウス内への透過を抑制します。また内部遮光では、ハウス屋根面の下に遮光資材を展張します。いったんハウス内に透過した太陽光の一部を内部遮光資材が反射や吸収をすることで、遮光資材の下にある土壌や骨材、機器設備等への太陽光の照射を抑制します。

外部遮光の模式図
内部遮光の模式図

外部遮光のメリットとして、ハウス内への太陽光の透過を抑えることでの、ハウス内の昇温抑制の直接的な効果があげられます。それに対し内部遮光では太陽光の多くがハウス内にいったん透過するため、外部遮光よりも昇温抑制効果は一般的に低くなります

一方で外部遮光のデメリットとして、遮光資材の屋根面での開閉動作を行う場合には巻上げ装置が必要になること、また露出した設備となり強風対策の必要があることがあげられます。ハウス内での内部遮光では、遮光資材への風の影響について通常はあまり考える必要はありませんが、外部遮光では遮光資材が強風であおられたり損傷するリスクも考えられます。そのため台風襲来時などは、巻き取りパイプの固定などの対策を行うこともあります。

なお、内部遮光では、遮光資材として専用のものを用いる場合もありますが、遮光と保温を兼用する資材を用いることが多くみられます。内部遮光のメリットのひとつとして、このような資材を用いて多目的に利用可能なことがあげられるでしょう。

外部遮光の方式

外部遮光では、遮光資材をハウスの形状や用途などに応じ様々な方法で展張します。それらの展張の方式についてご紹介します。

パイプハウスでの固定張り

パイプハウスでの外部遮光資材は多くの場合、固定張りがされています。これは最も簡易な外部遮光の方式になりますが、固定式であるため日射量に応じた遮光の調整は不可能となります。そのため日射が少ない際にも遮光をすることになり、植物の光合成に必要な太陽光が確保されないことも考えられます。これは外部遮光資材の固定張りでのデメリットになりますが、設備や装置が不要なため簡易で低コストな施工が可能というメリットを優先することになるでしょう。

パイプハウスでの遮光資材の固定張りの例

パイプハウス屋根面での巻き上げ

前述のパイプハウスでの固定張りのデメリットを解消するため、パイプハウス屋根面に巻上げ式の開閉装置をのせる形で、日射量等に応じた遮光を可能とする方式です。開閉動作は手動によるものと、モーターでの自動によるものがあり、日射センサーの信号に応じた制御可能な製品もあります。

外気導入装置の模式図

パイプハウスの屋根面には歪みや凹凸がある場合があり、その場合はスムーズな巻き上げ動作が行えないこともあり注意が必要となります。また強風や台風来襲の際には、完全に巻き上げた状態でヒモなどで固定するなどの対策も必要となります。

  パイプハウス屋根面での巻上げによる外部遮光設備の例(タキイ種苗:パイプハウス向け簡易開閉外部遮光(涼感ホワイト)) 

鉄骨ハウス屋根面での巻き上げ

屋根型やアーチ型など、一般的な鉄骨ハウスの屋根面に空き上げ式の開閉装置をのせ、日射量等に応じた遮光を可能とする方式です。ハウス面積が大きい場合にはモーターによる自動巻上げを行う場合が多くみられます。日射量やハウス内温度などに応じた開閉動作の制御を行う場合もあります。鉄骨ハウスでは屋根面がフラットであったり、また歪み等も少ないため、開閉動作は比較的スムースに行えるものです。また連棟ハウスであっても、各屋根面に巻き上げ装置を設置することで、全面の遮光が可能となります。

外部遮光資材の鉄骨ハウス屋根面での展張模式図

やや特殊なケースですが、コチョウラン栽培用のハウスでは花芽分化のために日中でもヒートポンプによる冷房を行う必要があり、冷房効果を高めるため屋根面での遮光が必須となります。その場合も自動巻き上げを行うケースが多く見られます。

  鉄骨ハウス屋根面での巻上げによる外部遮光設備の例 (丸昇農材:外部遮光設備)

鉄骨ハウス屋根面から浮かした水平張り

鉄骨ハウス屋根面のさらに上に骨材を渡し、屋根面から浮かした形で遮光資材を水平方向に開閉可能な設備を設置します。遮光が不要な場合には遮光資材をコンパクトに収納し、遮光が必要になれば全閉や半閉など任意の位置まで遮光資材の展張を行います。亜熱帯で台風襲来も多い台湾の鉄骨ハウスで採用されている方式と言われ、国内でも切り花用ハウスなどでの導入例がみられます。

鉄骨ハウス屋根面から浮かした形での外部遮光資材の水平張り展張模式図
パイプハウス上部に設置したアーチ上で巻き上げを行う外部遮光装置(韓国の事例)

※本記事の続編で「遮光とハウスの高温対策② ー外部遮光資材・屋根散水・遮熱資材についてー」もございます。

参考文献

  1. 林真紀夫、環境制御技術、次世代施設園芸指導者研修 共通テキスト、日本施設園芸協会
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