カーテン装置はハウスでの加温栽培において、主に夜間に外部に熱が逃げないよう保温性を高めるための設備として導入されて来ました。一方で、昼間の強日射に対し遮光を行い、高温対策を行うための設備としてもカーテン装置は利用されています。本記事では、カーテン装置のうちハウス内に設置される内張りカーテン装置について、その構造や機能などについてご紹介します。
カーテン装置の構造
カーテン装置の設置位置
カーテン装置は、ハウスの屋根面の下部に設置します。またカーテン装置の下で栽培が行われ、誘引作業などに支障がないよう、ある程度の空間の余裕を持った設置が必要になります。実際はハウス骨材の梁(はり)の上部や、トラスに沿った設置がされています。
カーテン装置の設置位置は、ハウスの軒高により左右されます。パイプハウスなど低軒高の場合にはカーテン装置も低い位置となり、オランダ型のフェンローハウスなど高軒高の場合には高い位置となります。カーテン装置が高い位置にあれば、カーテン資材により閉じられた空間も大きくなり、温度の変化幅も抑えられます。またカーテン資材で遮光を行う場合に、高温の影響が少なくなることも考えられます。
カーテン装置の開閉方式(傾斜張りと水平張り、巻き取り式とスライド式)
カーテン装置はカーテン資材の開閉を行い、保温や遮光の機能を果たすように設計がされています。開閉方式として主に傾斜張りと水平張りの2方式があります。
傾斜張りは、アーチ型や山型のパイプの上にカーテン資材をのせ、巻き上げパイプの回転によって開閉を行うもの(巻き取り式)と、カーテン資材をワイヤーでスライドさせ開閉を行うもの(スライド式)があります。
水平張りは、カーテン資材をワイヤーで水平方向にスライドさせ開閉を行うもので、ワイヤーの巻き取り装置を備えています。傾斜張りはパイプハウスや中小規模のハウスで多くみられ、水平張りは比較的大規模のハウスで多くみられるものです。
カーテン装置の開閉方式(谷引きと妻引き)
カーテンの開閉方向として、妻面に対し開閉を行う妻引きと、谷面に対し開閉を行う谷引きの2方式があります。妻引きではハウス骨材のトラスや梁(はり)などにぴったりと接触する形でカーテンを閉じる構造がとられ、カーテン収縮時の影の発生も抑えられる傾向にあります。
一方で谷引きでは、カーテンが閉じた際にハウスの谷部にカーテンの大きな影が発生しやすい構造となることが多く、谷部付近の植物体の生育への影響が懸念される場合もあります。なお妻引きでは、ハウスの奥行方向のスパン(中柱と中柱の間のこと)ごとにカーテン資材と開閉構造を分割する必要があり、部品点数や施工の手間からコストは割高になる傾向があります。
1層カーテンと2層カーテン
カーテン装置には1層のカーテンを開閉するものと、上下2層のカーテン(場合によっては上下3層)を開閉するものがあります。2層以上の場合には、異なるカーテン資材を組み合わせ、保温や遮光を状況によって適切に行うよう、カーテン装置の制御が行われます。
サイドカーテン装置
ここまで述べたカーテン装置は、栽培空間の上部にあり屋根構造の下に設置されるものを指しています。カーテン装置には、ハウスの側窓面や妻面に設置され、主に保温のために用いるサイドカーテン装置があります。
カーテン装置の機能とカーテン資材
カーテン装置には、主に前述の保温と遮光の機能があります。そのため使用するカーテン資材にも、保温用のカーテン資材(以下、保温カーテン)と遮光用のカーテン資材(以下、遮光カーテン)、そして保温と遮光を兼用するカーテン資材(以下、保温遮光兼用カーテン)があります。
1層カーテンであれば、通常は保温遮光兼用カーテンを用い、時期や環境条件に応じた開閉を行います。2層カーテンであれば保温カーテン、遮光カーテン、保温遮光兼用カーテンのうちから2つを用途に応じ選択し用います。なお3層カーテンは、寒冷地で保温性を特に重視する場合に用いられ、3層のうち2層は保温カーテンが選択されることが多いようです。
カーテン装置の機能として、保温と遮光以外に吸湿が加わる場合もあります。これは吸湿性のカーテン資材を用い、夜間などにハウス内が多湿、結露状態になることを防止するものです。
カーテン資材の種類
保温カーテン資材
ここでは保温性を重視した資材が用いられます。一般的にはハウスの外張りフィルム用途にもある、透明性も高いポリオレフィン(農PO)やポリエチレン、塩化ビニル(農ビ)が用いられます。ハウス内での巻き取り時にべたつきが少なく、また結露水に対し流滴性が高いものなどが選択されています。
保温カーテンには、アルミなど反射性の素材を用い、より保温性を高めたものがあります。またアルミ系のフィルムとポリエチレンやポリオレフィンなどの透明フィルムを組み合わせ、それらの比率によって保温性と透光性の程度を調整した様々なバリエーションのものが販売されています。なおアルミ系の素材には遮光や遮熱の機能もあるため、保温遮光兼用カーテンとして販売されるものもみられます。
カーテン資材の材質と機能の一覧例(誠和:LSスクリーンラインナップ) 2024.6.25リンク確認
保温専用のカーテン資材として、布団資材と呼ばれるものがあります。これは中空の多層構造のもので、内部に断熱のための空気層を持っています。韓国では保温カーテン用に普及している資材で、国内メーカーによる開発と販売も近年行われるようになりました。カーテンを閉じた際にできる影がなるべく小さくなるよう、コンパクトに畳めるように柔軟性を持たせるなどの工夫もされています。また布団資材は、シイタケ栽培ハウスでのヒートポンプなどによる冷房効果を高めるため、保冷用資材としても利用されています。
布団資材の製品例(東京インキ:総合カタログ エナジーキーパー総合) 2024.6.25リンク確認
遮光カーテン資材
遮光カーテン資材には、アルミ素材や透明フィルムを組み合わせ、さらに空隙も持たせ通気性も加味したものがみられます。またポリエステルなどの素材を編み込んで通気性を持たせたものもみられます。特に巻き上げる場合には擦れに強い素材を用いるのが適しています。
遮光・遮熱カーテン等の製品例(小泉製麻:カーテンガイド) 2024.6.25リンク確認
カーテン装置の運用と制御
カーテン装置の動作は、カーテン資材をモーターの力により巻き取ったりスライドさせることで開閉を行う形になります。手動や電動ドリルの力で巻き取りパイプを回転させ開閉を行う場合もみられます。
保温カーテンは加温中の夜間には全閉状態とし、日の出から太陽光の入射角度が上がるに従って開放するような動作が行われます。カーテン上の冷気が一度にハウス内に広がらないよう、徐々に開放するような工夫もされています。
夜間に蒸散や温度低下によりハウス内の相対湿度が上昇する場合、結露防止のため保温カーテンを全閉状態から少し隙間を開け、わずかな換気とともに水蒸気を逃がすような動作も行われることがあります。いわゆる隙間換気と呼ばれる除湿の方法となり、さらに暖房と組み合わせることもあります。
遮光カーテンは、日中の晴天時などに閉じることで太陽光に対し影を作り、温度上昇や葉焼けを防止するために用います。全閉とする場合、全閉状態よりも少し隙間をあけて換気を促進する場合などの用い方がみられます。また二層カーテンの場合は、2つのカーテンを重ね合わせたり、1つだけ用いたりし、遮光率に変化を持たせる用い方もみられます。
以上のようにカーテン装置の動作や運用には、温度、湿度、日射といった多くの環境要因が関係し、制御も複雑になる場合があります。一方で簡易にタイマーでの開閉を行う場合もあり、用途や制御の精度などに応じ計測や制御のシステムを用意する形になります。
今後の展開
一般にカーテン資材の寿命は5年程度のものが多く、更新の際には資材の張り替えの他に、動作機構のメンテナンスも行われます。更新時には機能や用途に応じて新たなカーテン資材に張り替えも可能ですので、新製品なども検討する機会となるでしょう。カーテン資材には多機能なものが多く、それぞれの製品の特性や特徴、コストなど、採用や導入の際には実際の事例も含め多面的に検討する必要があるでしょう。
参考文献
- 林真紀夫、保温、施設園芸・植物工場ハンドブック (2015)、農文協